空が晴れて、鳥も鳴きだして、やっと、もう大丈夫だって実感が沸いてきた。コンラートの腕をだき抱えたまま箱の近くに集まって、ユーリがフリンさんに、「まだこの箱欲しい?」って聞いた。フリンさんは、黙って首を横に振った。「だよね」ってユーリが切なそうに、ちょっと嬉しそうに呟く。でも、まだ箱をほしがる人が、いた。
「地の果ては・・・小シマロンのものだぁ・・・!」
クレーターの上から、マキシーンが息をきらせながら現れた。クレーターの外も被害があったみたい。
「さぁ、鍵を渡してもらおうかぁ!」
マキシーンが、袖から糸を出してきた。ユーリの前にヴォルフラムとふたりで立ちふさがる。その前にヨザックさんが飛び出て来て剣でその糸を絡みとった。ピアノ線みたいなその糸は丈夫で、しっかり絡まってる。マキシーンは上にいて、わたしたちは下にいて。ヨザックさんが剣を下に引っ張ると、あっさり重力に負けて、マキシーンがクレーターの中に落ちてきた。「まだだぁ!」って叫ぶマキシーンの首に、ヴォルフラムがすかさず剣を当てる。これで終わりだ。
「さて、どうします?ここでカタをつけなきゃ、またいつ騒ぎを起こすかわかりませんよ」
「うーん」
ヨザックさんの言葉に、ユーリは何か考えて、マキシーンは糸ぐるぐる、刈りポニかわいいリボンの刑に、おさまった。
夕日に照らされながら、カロリアへ戻る船。やっぱりヴォルフラムは船酔いで苦しんでいた。ギーゼラとダカスコスに支えられてるヴォルフラムをちょっと遠目でみながら、ユーリと健ちゃんと、並んでる。
「彼は実に、一生懸命だね」
「ヴォルフラムが?そりゃまた、何のために」
「・・・きみを、よき王にするために」
「・・・」
いま、かな、って、思う。ユーリ、できれば自分から話して欲しいよ。健ちゃんは、ここまでいろいろ、ヒントを出してるよ。今までのを見てれば、ユーリが何者かなんて、普通にしててもわかるだろうけど、健ちゃんは、ユーリの言葉を待ってるんだよ。でもやっぱりユーリは、“話す”じゃなくて、“訊く”方だった。
「・・・前にもきいたけどさ、お前、ほんとは誰なんだ?」
「前にも言ったけど・・・僕は村田健だ」
「とぼけるなよ!魔族なんだろ!?」
ユーリ、だめだよ、そんな言い方。
「おかしいとは思ったんだよ。言葉だって、ぺらぺらだし、」
「ただ・・・」
ユーリの声を遮るように、健ちゃんが言葉を重ねる。
「生まれる前のことなら、少し余計に覚えてる。前世って言えばいいのかな。さんの覚え方とは、またちょっと違うけど」
「え、村田も?」とユーリが呟いて、ちら、と健ちゃんがわたしを見る。健ちゃんは、気付いてる。わたしはただ“覚えてる”わけじゃない。わたしの中にはもうひとつの意識が、ロイエさんの意識がいる。それはコンラートにしか話してない事。ユーリにも、話してない事。
「遠い昔、この眞魔国で生きていた頃、僕は、大賢者と呼ばれていた」
「えぇ?それって、あの・・・大賢者様!?」
思い出されるのは大きく描かれた双黒の大賢者の絵。
「僕は何にもしてないけどねぇ。前世って言っても、そうだなぁ、主人公に感情移入して観た映画を、何十本も覚えてるって感じぃ?」
あえて健ちゃんは、明るく話そうとしてる。ユーリはどっちにしたって、怒るんだろうけど。なんで黙ってたんだって。案の定、ユーリの口からは「騙してたな」って呟き。違うよ、ユーリ、それは。
「何にも知らないふりしちゃってさ!俺のこと、ずっと、」
「言えなかったんだよ」
「え」
夕日に照らされた健ちゃんの顔が、切なくうつる。前にきいた、暗い過去。いや、健ちゃんの過去ってわけじゃないんだけど、でも、それでも“おぼえて”て、心の傷になってること。
「いろんな国に生まれるたびに、何度か真実を打ち明けたことがある。前世の記憶がありますってねぇ・・・それも異世界の」
「・・・それで?」
「病人扱いされればいい方、酷い時には、火あぶりにされるところだった」
「火あぶり!?」
「・・・悪魔呼ばわりでね」
切ない声で、それでもユーリに語る。
「そういう経験を繰り返せば、真実を話すのは賢明じゃないと気づく。きみにも、本当に言っていいのか迷ってたんだ・・・今までずっとね。いくら、身近に前世の記憶をもっている、さんがいるとしても」
「、でもさ、こっちの世界に来てからは、隠す必要なかったろ!?」
「うん、でも最後のきっかけがほしかったんだ。さんははやくに気づいてくれたし、ね」
「は!?」
ユーリの顔が、今度はこっちに向く。結構な剣幕だけど、同じ顔だし、内容が内容なだけに、こわくない。ジト目を向けながら、あっさり返してやる。
「わたしはフリンさんのお屋敷の牢屋で、健ちゃんにきいたんだよ、何者なのって」
「俺と同じ質問じゃん!」
「ちゃんと、ここを異世界だと把握してるのわかってるんだからって、付け加えてね」
「ぐ・・・」
「きみが打ち明けてくれたら、僕も話そうと思ってたんだよ」
健ちゃんが話を戻すと、ユーリはまたむっとした。
「そんな、言えるわけないだろ!?俺は魔王だなんて馬鹿げたこと、普通信じ・・・あ」
はっと気づいて、ユーリは止まった。健ちゃんはもう、切なさが薄らいで、微笑んでいた。
「うん、馬鹿げてる、普通信じない」
そう、お互いに、相手が信じないと思って、話せないでいたんだ。健ちゃんは知っていたけど、でも、ユーリに話してほしくて。信じないだろうと思うけど、それでもって話してくれるのを待って。お互いに、馬鹿だったんだ。それがわかるとユーリも怒る気が失せたみたいで、健ちゃんのほっぺを、ぐにーって引っ張った。
「う〜〜〜〜」
「うん、やっぱりムラケンだ」
「おまえなぁ」
「・・・ふふ」
「ははっ」
「はははっ」
よかった、わかりあえて。ちゃんと、話せて。嬉しくて笑ってたら、ぬっと目の前にユーリの顔が。
「へ?」
「よーくーも、黙ってたなぁ!」
「えぇ!?ふひ〜〜〜〜!いひゃいいひゃい!!」
「この〜〜〜」
「し、渋谷ぁ、女の子にそれは・・・」
「うるせーい!」
あぁもうこの馬鹿兄は!いたいのに、いたいけど、いまは嬉しさのほうが勝っていたから、こちょこちょで仕返しして許してあげた。
夜になってカロリアに近づいたわたしたちは、海から見てもわかるその悲惨な光景を目の当たりにして、動揺していた。箱を開けた余波がこんな所にまで、来ていたんだ。上陸すると、それはさらに現実感を与えてくる。港は崩壊して、たくさんの人が傷ついていた。
「私は・・・こんなおそろしいことの手助けをしてしまったの・・・?」
ショックを隠し切れないフリンさん。無理もなくて、声をかけづらい。でもそんなフリンさんの肩を、ユーリはぽんとたたいた。
「後悔より先に、する事があるよ」
「、えぇ・・・」
みんなで、傷ついた人たちを運ぶ。救助テントを張って、火をおこして、みんなの手当てをする。・・・ヨザックさんはなんでナース姿なの?白衣の天使的な?でも結局力仕事してるから、動きにくいよねそれ・・・?ある意味、心の支えになるの、かな?
被害は港の方だけで、高台の方は大丈夫だったみたいなんだけど、救助をしていたら薬品も食料も底をつきそうになっていた。でも、しばらくしたら、眞魔国からの応援が来た。国旗を、掲げて。
眞魔国の船が港に着くと、ユーリの元に一直線にギュンターさんが走って来た。・・・少し離れていよう・・・と思ったけど、ユーリに掴まれて逃げられなかった。ギュンターさんはユーリに頬ずりしたあと、わたしの両肩に手をそえて、「姫もよくご無事でぇぇぇ」と泣いた。さすがに抱きついたり頬ずりしたりは自重してくれたみたい。いや、されたことはないけどね。
「ギュンターさんも無事でよかったです」
「姫・・・!」
「じゃなくて!あれはなんなんだよ!?」
あれ、って言うのは、眞魔国の軍艦のこと。なんで軍を率いてきちゃったのかって事。人間に箱を渡すわけには行かないからってらしいけど。
「だからって!」
「ん?この者は?」
ふとグウェンダルが、ユーリとわたしの間に立ってた健ちゃんに目を向けた。よくぞきいてくれました!とでも言いたそうな顔でヨザックさんが答える。
「あれぇ?白鳩便に書き忘れましたっけ?大賢者様ですよ」
間。
「なるほど、大賢者様・・・て、えぇぇぇ!!?」
ギュンターさんの驚きの声が響く。健ちゃんはなんとも言えない顔で「どうも」と返した。
「大賢者だと・・・?確かに瞳は漆黒だ。しかし・・・」
「この痛みまくった金髪・・・とても大賢者さまとは・・・」
グウェンダルとギュンターさんがじーっと健ちゃんを観察する。金髪にするのってブリーチしないと上手く染まらないから、痛んじゃったんだろうなぁ。
「失礼な!脱色込みで一万二千円もしたのにさぁ!」
え、そんなにするの?もったいない。
「あぁそうだ、確かこのへんに・・・」
言いながら健ちゃんはズボンのポケットを探って・・・学生証を出して2人に見せた。
「なんでそんなものがこんなところに」
「へぇ、星城の学生証ってそんなんなんだ」
「、気にするとこおかしいぞ」
「どんなときでも学生証を携帯するのは、清く正しい高校生の義務だよ」
金髪に染めた進学校の男子高校生に言われてもねぇ。でもギュンターさんはその写真で健ちゃんが双黒だとわかると、頬を染めてうっとりし始めた。
「双黒・・・この慈愛と気品に満ち溢れた眼差し・・・」
慈愛?気品?
「よくぞお戻りになられました、猊下ぁ!おかえりなさいませ、大賢者さまぁぁ」
「はは・・・」
ギュンターさんのその拝み様に、わたしたちは乾いた笑いをもらすしかなかった。
眞魔国の兵士さん達が物資を運びだしていた。それを見ながら、これまでのことをギュンターさんたちに話した。と、ふときこえてきたのはうめき声。この声って、もしかして。
「モルギフ!」
どうやらユーリに会いたがってうるさかったみたい。
「へぇ、きみ、随分かわったねぇ。昔は薄幸の美少年系だったのに」
「そうなの?」
健ちゃんの言葉をきいて、ユーリの顔が信じられない、って言うみたいに歪んだ。うん、わたしもさすがに想像できない。
「うん。声もよく通るカウンターテナーだったよ」
・・・うん、想像できない。
「それはそれで気持ち悪いかも・・・」
どんな想像したんだろ、ユーリ。
と、ユーリがみんなでこの国の人達を助けようって、ギュンターさんたちに言う。ギュンターさんには自業自得だって、言われちゃう。そこに健ちゃんが、カロリアの人たちは被害者だよって言う。意外にも受け入れてくれたのはグウェンダルだったけど、それはアクマで陛下と猊下の決定にという意味で、カロリアの人達に対してじゃなかった。グウェンダルが言った、「この国の民は、本当にそれを望んでいるのか」という言葉。それはすぐに、わかってしまった。
眞魔国の国旗を見て、相手が魔族だとわかってしまったから、警戒する人達が出て来てしまった。残念だけど、かなしいことだけど、これが今の、現実。わたし達とカロリアの人達に、距離を感じる。わかりあえないのかな、と残念に思っていた時、カロリア側の人達をかき分けて、薄い水色がとびだしてきた。
「みんな落ち着いて!彼は敵じゃないわ!」
フリンさんがカロリアの人達を必死に説得しようとする。さっきまで、誰に助けられていたのか。
「種族なんて関係ありません。人間の中にも、心に魔を宿した者はいます」
この現状を引き起こした、マキシーンみたいに。
「魔族の中にも、美しい心を持った人達がいる」
目の前で困っている人がいたら手を貸してしまう、ユーリみたいに。
「あなたたちにはそれがわからないの!?」
カロリアの人達が、フリンさんの言葉に揺らされた。とそこへ、また人達をかきわけてくる、今度は小さな影が。小学校低学年くらいの女の子が、ユーリの前に駆け寄ってくる。少し緊張しながら、ユーリに言った。
「お兄ちゃん、魔族なんだ・・・?」
「・・・うん、そうなんだ」
ちらと見た表情は切なそう。魔族だから、人間だからって、わかりあえないのかなって。でも、それはすぐに、消えていった。
「だったらこわくないよ!わたし、お兄ちゃん大好きだもん!」
「わっ、」
言って、女の子はユーリに笑顔で抱きついた。ユーリの優しさは、純粋なこどもにはしっかり伝わっている。その様子を見て、カロリアの人達がざわつきはじめた。
「ここは、魔族のみなさんの力をお借りしましょう。いいですね?」
最後のフリンさんの言葉で、カロリアの人達はようやく頷いた。ユーリの顔に明るさが戻って、みんなに号令をかける。
「じゃあみんな、頼むよ!」
「「はっ!」」
兵士のみなさんが傷ついたカロリアの人達や瓦礫に歩み寄っていく。これでひとまず安心、かな。
「フリンさん、サンキュ」
ユーリは必死にうったえかけてくれたフリンさんに声をかけた。フリンさんは「お礼を言うのは私のほうよ」と返してユーリの手を、とる・・・。思わずヴォルラムフを見てしまったら、わたしが思うよりも先に行動していた。
「この浮気者!」
さすが、って、思わず小さく口に出しちゃった。
港町のことを兵士さんたちに任せて、わたしたちはフリンさんのお屋敷にきた。今後のことを話すそうで、ユーリに健ちゃん、グウェンダルにギュンターさんにヴォルムラムも一緒だ。けれど、ギュンターさんが告げた事項に、ユーリは声を荒げた。
「このまま眞魔国に帰る!?」
こんな状態のカロリアをほうっておくなんてできない。それでこそユーリなんだけど、ギュンターさんは続ける。兵が力を貸しているし、幸い被害は広くない、復興にそう時間はかからないだろう。納得できる言い分。そこに魔王であるユーリがいないといけない必要は必ずしもない。
「大シマロンにある箱はどうするのさ!?また、誰かに開けられちゃったら・・・」
あの箱は確かに危険だけれど、今すぐ深追いするのも危険で。
「仕方あるまい。地の果てと鍵だけでも眞魔国へ持ち帰る」
地の果てと、コンラートの腕。これは鍵が違うから、正しく発動する事はない。地の果ての鍵が、どの一族の左目だったかによるかもしれないけれど。
「鍵って、コンラートの腕も?」
「何か問題があるのか?」
「いや、でもさ、間違った鍵でも、箱とそろっちゃったら・・・」
確かに、間違った鍵で開けようとしてあの状態だったから、ユーリの言いたい事もわかる。でも、じゃあ、どうするの?ギュンターさんは「我々魔族が管理すれば何の問題もありません」って言うけど、本当にそう?人間があぁやって行動を起こすように、魔族の中にだって箱を使おうとする人が出てくるかもしれないのに。ユーリはギュンターさんの言葉に、返す言葉が見つかっていないみたいだった。
ユーリがどこかにいってしまって見つからない。このあたりは復興作業を手伝っている兵士さんたちがいるし、危険はないと思うけど、やっぱりちょっと心配。どうすればいいのか、答えも見つかっていないようだし。それはあの鍵が、コンラートの腕だから尚更。
「・・・コンラート」
今頃、どうしているのかな。コンラートのことだから、生きているとは思う。でも、左腕の無い状態でどうしているのか、重傷じゃないか、気が気で仕方がない。少し前までは箱の事で頭がいっぱいで考える余裕が無かったけど、落ち着いてくると急にこみ上げてきちゃった。最後に見た背中。ユーリを頼むと言われた声。もちろんユーリは何が何でも守るけど、でも、やっぱりコンラートも心配で。大丈夫、って思っていても、こわくなってきて。
「・・・・・っ」
なんだか苦しくなってきて、ぎゅっと胸元の服を掴んだ。
「?」
「っ!?」
いっぱいいっぱいになっちゃってたのか、後ろから近付いてくる声にも気づかなかった。
「ヴォルフ、ラム?」
「どうしたんだ、一人で。ユーリは一緒じゃないのか?」
「多分、町の方に」
「まったく・・・声くらいかけていけばいいだろう」
む、とするヴォルフラムに思わず小さく笑みがこぼれる。けど、平常なヴォルフラムを見たら、なんだか余計に増加した気がする。
「・・・ヴォルフラム、は・・・心配じゃないの?」
「心配?ユーリがか?そりゃ、」
「違う」
「・・・」
遮って言うと、察してくれたみたいで言葉が止まる。ヴォルフラムは小さく息をつくと、口を開いた。
「してないな」
「え・・・?」
はっきりとしたその答えに、わたしは目をぱちくりさせた。変な脱力感が、肩に落ちていく。
「あいつは僕が認める武人だ。お前達を守って、左腕を、斬り落とされたくらいで、死ぬとは思えない」
ほんの少しだけ言葉を止めて、でも回りくどい言い方なんてしない。まっすぐに、ただまっすぐに、コンラートを信じている言葉。
「い、言っておくが、武人として、だからな!腕が経つのは間違いないし、しぶとさだって・・・」
「ふふ」
「??」
突然笑い声をもらしたわたしをヴォルフラムが眉をひそめて見た。そうだね、そうだよね。コンラートは強いから、誰よりも強いから、こんなことくらいで。心の中で呟くと、肯定してくれるかのように、ロイエさんも反応した。
「ありがとう、ヴォルフラム。おかげで楽になった」
「?そうか、ならよかったが」
「あとはユーリかな・・・」
「・・・そうだな」
まっすぐで馬鹿正直で仲間思いのあの子は、どんな答えを出すんだろう。
朝起きると、書置きを残してユーリと健ちゃんがいなくなってた。
『やっぱりこんなのだめだと思う。コンラッドの腕が、鍵として扱われるなんて。だから、ごめん、俺は』
そこで切れちゃってたけど、ユーリの想いは伝わったよ。わたしも、コンラートの腕が、彼の身体の一部じゃなくて、ただ箱の鍵として扱われるなんて、嫌だもん。だからギュンターさん達が無くなったコンラートの腕を探しに訪ねて来た時も、知らないって答えた。だってそれが、ユーリの意志だから。
ユーリ達はコンラートの腕を埋めようとしてたけど、それは止められちゃったみたい。でも、グウェンダルもわかってくれて、鍵を処分する正しい方法をとってくれることになった。処分、って言い方はちょっと嫌だけど、これで鍵の効果を失くす方法なんだって。海の上、船の上で、その音楽と踊りの中、儀式が行われる。ユーリがケースに入れたコンラートの腕を持ってレッドカーペット上を歩くのに、ついていく。船の端まで来て、海を見つめた。
「・・・きっと、また会えるよね」
「当たり前だ」
ユーリがぽつりとこぼした言葉に、グウェンダルが答える。それだけでじんわり胸の中に広がって、あたたかくなる。コンラートの腕は、静かに海へ沈められた。もう二度と、箱を開けないために。またコンラートと会えることを、願いながら。
でも、しんみりした空気はすぐに打ち消された。大シマロンの船影が見える、との報告を受けて。