あっつい陽射しが射す夏です。わたしと有利は誕生日を無事終えて、16歳になりました。16歳って魔族だと成人なんだよね。とまぁ、そんなこんなで夏休み、わたしと有利の中学時代の同級生で、といってもわたしは一年しか一緒じゃなかったんだけど。ほら、双子って同じクラスに割り当てられないから、有利は二年間一緒だったんだよ、彼と。えと、彼、村田健の紹介で、夏の海の家にアルバイトに来ている。健ちゃん(ママが呼ぶから真似してる)はちょっと前から有利と親交があって、有利が立ち上げた草野球チームのマネージャーみたいなことをしてるみたい。今はこの海の家?ペンション?でバイト中なんだけど・・・金髪に青いカラコンはあまり似合わないよ?健ちゃん、ナンパするために来たのかな・・・あれ、健ちゃん昔からこんなキャラだっけ?有利と健ちゃんの会話をはたできいていると、きれいな水着のお姉さんがやってきた。どうやら連れのひとの水着が流されてしまったらしい。結構遠くで、ちょっと波もあるところで、さらには遊泳禁止の場所で、彼女たちでは取りに行けないと。よーし、こんなときこそ、わたしの出番!
「大丈夫ですよ。彼がとってきますから。な、渋谷?」
と思ったのに健ちゃんが有利に流しちゃった。えー、そりゃないよ。 遊泳禁止が一番ひっかかるけど、でもお姉さんたちの頼みは無下にできない・・・健ちゃんは下心ありそうだけど。というわけで有利が飛び込んで泳ぎにいったんだけど・・・なんか、胸の奥がざわつく。
「・・・やばい」
「やばいって、あ、さん!?」
胸騒ぎに勝てなくて、有利のあとを追って飛び込む。案の定、ソレはそこに出現していた。うずしおなんて発生しない場所なのに現れた渦、異世界への入口。
「有利!」
お姉さんのビキニを掴んだ有利は渦に飲み込まれていった。わたしもそのあとを追って渦の中へ。そのとき、健ちゃんが飛び込んできたのが見えた気がするけど、大丈夫かなぁ。
出現ポイントって、いつも真水ってわけじゃないんだね。酒樽の中に登場しちゃってお酒くさくなった自分の身体をかぐと自然に眉が寄った。わ、ユーリ、ビキニもってきちゃってるし。
「ここは・・・」
「血盟城・・・じゃなさそうな感じだけど・・・」
「あー、血盟城につくとは限らないからなぁ」
最初は国境付近だったし、あとはグウェンダルのお城だったりもあったらしい。とにかくお迎えが来ないことには動けないようで、じっと待つ。と、その家のドアが開かれた。
「あのー・・・ここの方?」
「陛下、姫」
「あっ、ギュンター!」
よかった、ギュンターさんが来てくれた。お迎えが来てくれてほっと息をつく。外は雨が降っているらしくて、ギュンターさんはフードつきのマントを着ていた。グレタも一緒に来ていて、「父上!」とユーリの胸に飛び込む。正式に養女にできるよう手配してもらえることになったって喜んでたっけ。
「陛下、姫」
「あ、コンラッド」
そこへコンラートも合流して、さらに安心感が増す。
「すぐに安全な場所へ」
でも、この言葉に身を引き締めた。ここは安全じゃ、ない?
「ここは眞魔国の領土ですが、安全な場所とは言えません」
「自分の国なのに安全じゃないってどういうことだよ?」
すぐに浮かぶのは、反乱とか、他国の侵入者がいるとかだけど・・・。
「あ、もしかしてまたなにか問題が?それで呼び出されたわけ?!」
「いえ、我々は、陛下方をお呼びしておりません」
「は?」
え?じゃあなんでわたしたちこっちに来たの?
「何者かが、陛下と姫の魂を、こちらに引き寄せてしまったのです。我々は、それを察知したウルリーケの指示でこちらに来たまで」
どうやら人間の国で不穏な動きがあるようで、それにわたしたちを、主にユーリを巻き込もうということでこっちに召喚したみたい。開戦の準備もしている、とか。事態が落ち着くまでわたしたちには地球に戻ってもらうって言われた。確かに、何もできないかもしれない。用心のため、とは言われたけど、ちょっと、悔しい。 わたしたちもマントを受け取って、コンラートとグレタ、ギュンターさんとユーリで乗る。わたしは一頭貸してもらった。
「・・・一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。“わかる”から」
「、まさか・・・」
「あぁうん、大丈夫、そこまでじゃないから」
なんとなく、ロイエさんの記憶でもっと馬の乗り方のコツがわかった気がして言うと、コンラートがちょっと眉を寄せた。変な心配かけちゃだめだ、今はほかの事で手一杯なのに。 変に思われないように、だができるだけ急いでその場を離れる。でも、それは起きてしまった。バシャンと音がしてそっちを向くと、ギュンターさんが地面に倒れていた。その胸には、一本の矢。
「あ・・・」
「ギュンターさん・・・っ」
驚愕していると、ぎゅっと肩を寄せられた。コンラートがわたしとユーリとグレタを寄せたんだ。
「いいですか、この先に教会があります。おふたりはグレタを連れて、一気に走り抜けてください。ここは俺が」
「でも、ギュンターが・・・」
「はやく!」
「・・・ギュンター、死んでないよね?」
「えぇ」
はっきりした言葉をもらえて、ユーリがグレタの手をとる。
「」
走り出そうとしたとき、呼ばれて一度振り向いた。
「ユーリを頼む」
「・・・必ず!」
ユーリとグレタが走るすぐ後ろを走った。大丈夫、ギュンターさんだって元軍人だって言うし、コンラートの剣の師匠だってほどだから、すごい人なんだ。簡単に死ぬわけない。コンラートだって、凄腕の剣士なんだから、大丈夫。
「大丈夫、大丈夫・・・!」
でも、なんだろう、この、胸を掻き立てる不安は。この不安が前の二人に伝わらないことを祈りながら、目指す教会まで走り抜けた。
教会につくと、すぐにコンラートも追いついてきた。でも、一人で、ギュンターさんはいない。大丈夫だって言うけど、もしかして、すでに・・・? 塞いだ扉をこじ開けようと、何度もぶつかってくる音がしてきた。やっぱり敵が国内に侵入してきているんだ。ユーリとグレタを物陰に隠して、わたしも身構える。
「も下がって!」
「いやだ、わたしも・・・!」
「!」
いつもの諭すような声じゃない。これは本当に、焦っている声だ。無力な自分がはがゆい。でも、わたしじゃコンラートの力になれない。おとなしくユーリたちのそばに。でもユーリはおとなしくなんてしてくれなくて、グレタにじっとしているように言ってコンラートの方へ。あぁもう! コンラートは水の入った器のそばに、鞘を置いた。それを意味するのは。
「我が剣の帰するところ、眞王の元」
「よせよコンラッド!縁起悪い!」
「鞘なら、眞王に御預けする。眞王のゆるしがあるまで、戦い続けるということです」
「コンラート・・・」
「そのかわり、眞王のご加護がありますようにってね」
眞王に誓うから、その加護をわけてくださいってことなのかな。コンラートはわたしたちに、祭壇の上にある水を絵にかけるように言った。それで道が開かれるのか。その時ちょうど、扉が壊された。今は、言うとおりにするしかない。
「ユーリ、はやく!」
「でも!」
「でもじゃない!」
コンラートが敵に向かっていく。火炎放射器みたいなものからはじき出された火の玉をなぎ払いながら。そしてそのまま外へ。でも時の数が多くて、数人中に侵入してきた。まっすぐこっちに向かってくるから、ユーリの前に出て身構える。コンラートが走ってきてくれて敵を討つ。たくさんの相手をして、火の中で。
「行くんだ、はやく!」
「ユーリっ」
手を引くのに、ユーリの身体は動かない。こうしている間にもコンラートは敵に囲まれて、それで、こっちに回ってきた敵を、斬って・・・何かが、とんだ。炎で逆光になったコンラートの影は、なにか違和感がある。コンラートの、“一部”が欠けていた。ごとりと落ちたのは、腕、だった。コンラートの左腕、だった。
「言ったはずだ・・・貴方になら、手でも胸でも命でも差し上げると」
これはユーリに言った言葉。つらそうなのに、薄く笑顔を向けてくる。
「大丈夫だ。俺は決して死なない」
根拠は、根拠なんて。
「」
さっきみたいに呼ばれる。息が詰まりそうになった。
「ユーリを、頼む」
さっきと、同じ言葉。そしてコンラートは、敵の変な武器で、火の玉に包まれる。これは、やばい。
「ユーリ!」
わたしはユーリの腕をしっかりと掴んだ。わたしとユーリは爆煙で吹き飛ばされて、絵の中に放り込まれた。