どうも、陛下の妹です。




























とりあえずユーリの私室の隣だという部屋に押し込まれ、備え付けのシャワーで汚れを洗い流してあたたまる。背の中程まである長い髪をぎゅっぎゅと絞って簡単に拭く。着ていたジャージはずぶ濡れなので洗濯してもらうことになった。用意された服は、真っ黒のワンピースだった。着替えが終わるとこれまた用意されていた靴に足を乗せる。ヒールがほとんどないタイプのミュールだ。ちなみにこれも真っ黒。隣の部屋の扉をノックすると、少しして扉が開かれた。お兄さんの姿が視界に入る。


「よくお似合いです」


なんて微笑んで手を差し伸べてくれるもんだから、嫌でもドキッとしてしまう。嫌なんてこと全くないんだけどね!


「あ、ありがとうございます」

「どういたしまして」


そのまま部屋の中にエスコート。なんでこんなにお嬢様待遇を受けてるんだろうわたし・・・。今の所この異世界の眞魔国という国の王様であるユーリのそっくりさんというだけの認識のはずなのに。うーんと唸りながら部屋の中央まで行くと、さっきの美少年と超絶イケメンさんがびっくりした顔をしていた。


「お・・・っ」

「ん?」

「女っ・・・!?」


・・・・・あぁ、そゆこと。
二人が驚いた理由を把握して、大きくため息をついた。慣れてるけどね。ユーリと同じ顔で、よく間違われてたけどね。だから間違われないように髪のばしたんだけど・・・超絶イケメンさんも長髪だし、女だから髪が長いって感覚は無いんだろうなぁ。ではこのワンピースは誰が用意してくれたんだろう、とちょっとつまんでみると、爽やかお兄さんが微笑んだ。あ、お兄さんなんですね、ありがとうございます。


「もっ、申し訳ありません!!このギュンター、なんて失態を・・・!!」

「あー、いや、慣れてるんで大丈夫ですよ。久しぶりではあったけど」

「あぁっ!なんと心お優しい!!さすがは陛下の・・・」


そこでふと止まる、ギュンターという名前らしい超絶イケメンさん。んん?と首を傾げてしまう。


「陛下の・・・」

「あぁ、そっか、の紹介しなきゃだよな!えーと、こいつは。おれの双子の妹」

「双子の妹!?」


美少年くんがユーリとわたしをすごい勢いで見比べる。


「で、。そっちで涙だーだーなのが、おれの王佐の、フォンクライスト卿ギュンター」


超絶イケメンさんのことだ。その綺麗な顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。勿体ない・・・。


「ちなみにカタカナだけど、日本と同じで後が名前な」


ユーリの補足を聞いて頷く。次にユーリは美少年の方に目を向ける。


「そっちの美少年が、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム。こんな可愛いナリしてっけど、これでも82歳」

「はちっ・・・!?」


思わずまじまじと見てしまう。えっ、これで82のおじいちゃんなの!?


「魔族は人間より成長が遅くて寿命も長いんだってさー」

「へ、へぇ・・・・・えっ?」

「で、最後はー」


え、ちょっと待ってユーリ、いま、なんか聞き捨てならないことをきいた気が。
そんなわたしの内心は察することもなく、お兄さんに目を向けるユーリ。


「ウェラー卿コンラート。おれの側近・・・かな?」


ユーリが確認するように彼を見れば、はいと笑って答える。コンラート、であっていたわけだ。


「ちなみにヴォルフラムの兄貴」

「え」


言われてヴォルフラムくんとコンラートさんを見比べる。似てない。全然似てない。


「俺達は異父兄弟なんです。おれの上にもう一人兄がいますよ」

「へええええ・・・」


遺伝子分配がすごかったんだろうなぁ。


「で、がこっちに来ちゃったのはなんでかっていう事なんだけど」

「そうですね・・・姫の御魂もこちらのものだった、ということでしょうか」

「なになにそれってユーリの魂はもともとこっちのものってこと?なにそれすごい」

「や、だからお前もそうかもしれないんだって」

「姫の魂もこちらのものですよ」


可能性の段階話できっぱり言ってのけるコンラートさん。何か心当たりが?


「姫の魂も俺が運びましたから」

「運ん、だ・・・?」

「えぇ。こちらの世界から、地球へ。陛下の御魂と一緒に丁重にお運びしました」


なんだかにわかには信じ難くてユーリを見る。わたしの半身はにへらと笑っただけだったけど、それは肯定を意味していた。


「そんで、コンラッドはおれたちの名付け親」

「え?名付け親・・・って、タクシー相乗りの?7月は俺の故郷でユーリで7月に咲く花で一番好きな花の名前がなんですって言ったらしい、あの?」

「そう、その」


はー、まさかママを助けてくれたタクシー相乗りの人が異世界のひとだとは。世の中分かんないもんだなぁ。


「そうだユーリ、さっき聞き捨てならないことを聞いた気がしたんだけど」

「えっ、とぉ」


目が泳いでる泳いでる。この様子だと流そうとしてたに違いない。油断ならないなぁ。


「魔族って?」

「オレタチハマゾクラシイデス」

「魂がこっちのだから?」

「いや、こっちにも人間はいて、あ、魂が魔族のってのもあるけど・・親父が魔族、らしい」

「えっ、お父さん魔族なの?こっちにいたってこと?」

「いや、地球産魔族でこっちに来たことはないんだってさ」

「それお父さんに聞いたの?」

「聞けると思うかぁ?こんな突拍子もない話ぃ」


うーん、無理かな、さすがに。


「まぁ魔族云々はいいとして」

「えっ、そんな簡単に受け入れちゃうわけ!?」

「だって事実なんでしょ?出生なんて変えようがない事実を否定してもしょうがないじゃん」


やーまーそーだけどぉーおれなんて現実逃避して夢オチにしようとしてたのにお前なんでそんなに落ち着いてるワケー?
ってユーリの声がきこえてくるけど、ほっとこう。


「ユーリは魔王になるからって呼ばれたんでしょ?じゃあ、わたしは?」

「それは・・・わかりません。私たちもなぜ姫がこちらに来られたのか、わかっていないのです。明日、眞王廟に確認をとります」


シンオウビョウ・・・なんか聞き覚えあるなぁ。これも前世の記憶かぁ。


「・・・なぁ、ほんとお前なんでそんなに落ち着いてるワケ?異世界の魔族だぞ?」

「ずっと前に話したことあるでしょ?夢の話。ここ、多分それ」

「夢?」


様子を黙ってみていたヴォルフラムが呟いた。うん、と頷いて続ける。


「小学生・・・8歳くらいからかなぁ。よく特定の夢をみるようになったの。さっきの中庭?も、その風景にあったし、コンラートさんも、出てきた」


ちらっとコンラートさんを見る。彼は小さく笑っただけだった。


「それってさ、前世の夢なのかなーって。だからわたしの魂がこの異世界のものだって言われても、あぁやっぱりそうなんだーって感じだったんだよね」

「つまり、お前の前の魂の持ち主は、コンラッドの知り合いだったって事か?」

「そうなんだろうね、多分。視点が“自分”だったし鏡とか出てこなかったから、自分がどんな姿で誰だったのかわかんないけど」


ユーリが少しうさん臭そうな顔してる。ひどいなぁ。


「じゃあ、ヴォルフラムやギュンターは?」

「わかんない。とりあえず覚えてはいない。人物で覚えてるのは、コンラートと、もう一人、青白色の髪の女性だけ」


ぴくり、とコンラートさんの眉が動いた気がした。もしかして知り合いかな?


「まぁ、アクマで前世だしね!状況把握が楽って感覚でOKよ」

「気にしなかったけど言葉も通じてるもんなぁ」

「言葉も違うんだ?」

「そうなんだよー。おれ最初言葉通じなくてさぁ」


頭がっ掴まれて、蓄積言語?を引き出されたの?へぇ、そんなこともできるんだ、便利だなぁ。


「そういや、コンラッドのことコンラートって呼んでるけど、言いづらくない?」

「そう?まぁ、英語風に言うとコンラッドだもんね。でもその“記憶”があるからか、コンラートの方が馴染みがあるかな。コンラートって呼んでたみたいだから、前の人は」


我ながら楽観的な言い方だな、と思う。前の魂の記憶があるなんて。断片的とはいえ。


「ところでユーリ、ぼくの紹介が足りないんじゃないか?!」

「げ」

「ん?なになに?」


突然のヴォルフラムくんの声にユーリがまずい、という顔をする。


「ぼくはユーリの・・・」

「わー待て待てヴォルフラム!!ちょっっっと待て!!」

「なぜだ、きょうだいならぼくにとっても「だからそれを待てって!!」


んんん?わたしにとってもきょうだいってこと?ヴォルフラムくんが?なに、ヴォルフラムくんのご両親のとこに養子入りしたとか?いや、でも王様だしなぁ。あとは・・・。


「・・・・・ふうふ?」

「うえぇぇぇ!!!?」

「おぉっ!察しがいいな!まだ結婚まではいっていないが、ユーリはぼくの婚約者だ!!」

「ヴォルフムラムううううううう」


わーお!当たっちゃった!婚約者!でもヴォルフラムくん男の子だよね!てことは日本じゃ結婚できないねぇ。眞魔国ならOKなのかな?


「お幸せに、ユーリ」

「いやいやいやいやおかしいと思えよ!!」

「ユーリ、同性愛者に失礼だよ」

「んなこと言われたっておれはノーマルだよ!!」


ユーリ、ふつうに女の子好きだもんね。でもヴォルフラムくんは満更でもないみたいだよ?そもそもなんで婚約者になったんだろ。


「陛下がヴォルフラムに求婚してしまったんです、知らなかったとはいえ」

「きゅうこん・・・」


チューリップのあれではなく、プロポーズってことだよね・・・知らなかったって、どういう方式だったんだろ・・・。


「だって!あれで怒らないやついないだろ!?」


怒ったユーリがヴォルフラムくんになにかしたってことかー。こっそりコンラートさんにきいてみたら、「母君のことを悪く言われた陛下が、ヴォルフラムに平手をかましてしまったんです。右手で相手の頬を打つのは、求婚の行為なんです」と返って来た。なるほどぉ・・・気をつけよ。ユーリほどではないけど、わたしもカッとなりやすいし。


「こんな可愛い子が婚約者でよかったじゃん、ユーリ」

「言っとくけどなぁ!この世界ではおれとかとか平凡なのが美形らしいぜ!」

「え、なにそれ怪奇現象?」


自分で言ってて何か違うと思うけど、いやいや美形なのはヴォルフラムくんやギュンターさんであってわたしやユーリは違うでしょ。


「そうなのです!陛下や姫君はとても麗しく美しいお方々・・・ましてやお二人とも双黒のお方で・・・ギュンターは・・・ギュンターは・・・っ」

「あーはいはいちょっと黙っててくれな、ギュンター」


ユーリ、自分の王佐の扱いひどくない?


「双黒って?」

「髪と瞳、両方が黒い者のことです。魔族の中で黒は最高位の色で、神と等しいと言われることもあるんですよ」


神ってそんな大げさな。黒髪黒目なんて、日本に行けばいくらでもいるよ。


「ちなみに人間にとっては畏怖すべき存在でしかありませんね、双黒は」

「・・・黒髪黒目ってだけでこわがられちゃうんですか?」

「魔族という時点で、ということもあります」


コンラートさんが少し切なそうに笑った。あぁごめんなさい、そんな顔させたかったんじゃないのに。


「まぁ、とりあえず現状把握はできたかな。わたしがなんのためにこっちに来ちゃったかとかは明日わかるんですよね」

「えぇ、きっと」


ならひとまずそれを待ちましょうかね。
このユーリの私室の隣にあてがわれた部屋に、わたしは戻る事にした。





















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