大切な者の身を案じ夜の街を駆ける
温泉から宿に戻って就寝。さすがにはやすぎて眠れないけど。グレタは疲れも出たのかもしれない。灯りを消したらすぐに寝ちゃった。と、そこにノック音が響いた。
「コンラート?」
「少し出てきます。宿を出ないように」
「はーい」
何の用、かまではさすがにきかない。野暮用なんて返されたら聞き返しようがないもん。
「・・・グレタ?」
いつの間にか船を漕いでしまっていたらしい。はっと目を開けると、グレタの姿が無かった。ここはバストイレつきだからそのどっちかではない。となると逃げたのかな・・・?そっと隣の部屋をのぞいてみたらユーリの姿もなくて、二人で出掛けたのかもと見るのが正しいと思う。ヴォルフラムはといえば熟睡中。軍人としてそれでいいのか時々心配になるよ、ヴォルフラム。ユーリたちを探しに出たいけど、ここでわたしまで出てしまったらコンラートにも負担をかけるかもしれない。
「・・・二人とも大丈夫かなぁ・・・」
変なことに足突っ込まないといいけど。正義感の塊な片割れとそれに付き合わされるだろう少女を心配に思いながら、コンラートの帰りを待った。
しばらくすると部屋の外で足音がしてきた。コンラートが帰ってきたんだと思う。隣の部屋で大きな音がしたかと思うと、部屋のドアが慌ただしく叩かれて開かれる。
「失礼します!、陛下は・・・っ!?」
「グレタと一緒に出掛けたみたい・・・ごめん、わたしも寝ちゃってて・・・」
「っ・・・探しにいこう」
わたしたち三人は、夜の温泉街を走り出した。
街は静まることを知らないかのようにギラギラ輝いて賑わっていた。その中を、少年少女を探しながら駆け回る。
「二手に別れよう。は俺と」
「うん!」
ヴォルフラムと別れて走り出す。コンラートは脚が長い分走るのもはやい。普段なら合わせてくれるけど、今はさすがにそんな余裕はない・・・必死にコンラートの背中を追い掛けた。
街中は見当たらない・・・さすがに建物の中にいられたらわかりにくいけど、ひとまず人気のない港側に来てみた。そうしたら聞き覚えのある声がきこえてきて、コンラートの足がほんの少しはやくなる。角を曲がるとそこにはヴォルフラムの姿があった。ヴォルフラムの剣は抜かれていて、誰かと交戦したのだということが見て分かる。コンラートはかるく目配せしただけで、そのままヴォルフラムの横を走り抜けた。
「ウェラー卿!?」
ヴォルフラムが急いで地面に突きたった剣を抜いて鞘におさめ、駆け出す。ちょうどよくその隣にわたしが並んだ。
「、おまえ」
「だ、大丈夫!・・・コンラート、いま余裕ないみたいだし」
「・・・そうだな、あんなウェラー卿は、滅多に見ない」
前方を走るコンラートにはきこえないように話す。正直息は上がってるし疲れてるけど、わたしだってユーリたちが心配だもん。
途中で、コンラート、ヴォルフラムの知り合いらしい、ヒスクライフ、というひとに出会った。地方の挨拶らしいスキンヘッド攻撃にはちょっとびっくりしたけど、ユーリたちがいなくなったことを告げたら探すのを協力してくれるって。ちょうどヒスクライフさんも用があるとこがあって、正義感の強いユーリならそこにいるかもしれないとのこと。・・・それって何かしらに巻き込まれてるってことだよね。でも実際それは本当だった。建物内に入ると頭上から大きな駆け音がきこえて、三人同時に走り出す。走っていたのは男が三人、そしてその前方には見慣れた後ろ姿がふたつ。言葉を発することもなく、コンラートとヴォルフラムが駆けて、男たちを気絶させた。どさっと音を立てながら男たちが倒れると、二人の足が止まる。そして同時に、振り返った。
「あぁっ!」
「陛下、大丈夫ですか?」
「まったく、なんだってこんな怪しげなところに」
「ユーリ、怪我酷くなってない?グレタは怪我してない?」
三人が立て続けに言うと、ユーリは気の抜けた声を出しながら座り込んだ。
「コンラッド、ヴォルフラム、・・・ん?」
ユーリがわたしたちの後ろにいるヒスクライフさんにも気づいた。事の流れを説明して、ここの事業主に話があるヒスクライフさんに同行することになった。ユーリもそのルイ・ヴィロンって人に言ってやりたいことがあるらしい。歩きながら、グレタがユーリの手をぎゅっと握っていることに気づく。すっかり仲良くなったようで良かった。
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