小さな暗殺者




















今日も今日とてユーリは朝のランニング。その後ろをユーリと色違いのジャージ姿のわたしが走って、さらにその後ろにいつもの軍服姿のコンラート。この光景が、血盟城の朝の名物になっているらしい。









ランニングを終えて、シャワーを浴びて、黒のワンピースに着替える。そしてユーリの部屋に入ると、知らない、可愛い女の子がいた。


「・・・?」

「あぁ、は初めましてだっけ。とりあえず入ってこいよ」

「う、うん」


女の子が目を丸くしてじっとわたしを見ていて、なんだかむずがゆい。と、目に付いたのは、ふっくらしたお腹で・・・。


「・・・妊婦さん?」

「まずニコラ、こいつは俺の双子の妹で、。で、、この妊婦さんはニコラ。とあることがあって眞魔国に保護したとあるやつのお嫁さん」



とあるが多くてわかりにくいよ、ユーリ。


「まぁ、陛下の妹さんなんですね!初めまして、ニコラです。なんとお呼びすればいいのかしら?殿下?」

「いや、あの、普通にで大丈夫です・・・」

「では様かしら?」


どうやっても様づけされそうだ。諦めて頷くと、ニコラさんは人懐こそうな可愛い笑顔を見せた。


「小動物・・・」

「可愛いよなー、ニコラ」

「まぁ、陛下ったら」


ふふっと笑う姿がまた可愛くて癒される。後ろでネグリジェ姿のヴォルフラムが「浮気か!?」とわめいているけど、みんなもう慣れっこなのかだれも気にしてない・・・。
と、そこへ、荒々しく一人の兵士さんが駆け込んできた。


「申し上げます!!」

「どうした」


声の大きな人だなぁと若干苦笑気味できく。


「魔王陛下におかれましては!」

「そんなかしこまらなくていいからさ、さくさく言っちゃって」


ユーリもはやくすませたいみたいで、あぁひどいかお。


「は、そのぉ、陛下にお目通りをと申す者が城門に参りまして」

「待て待て待て!!そのような要件はまず私に!ギュンターに!!」


マネージャーすっとばしてアイドル本人にいっちゃったかのような勢いでギュンターさんが出てくる。けど兵士さんはとても言葉を濁して、言った。


「ごくごく私的なことですのでぇ、できたらぁ、人払いを・・・」

「何ぃ!?」


のけものにされそうになったヴォルフラムが食ってかかろうとする。そこにコンラートがさりげなく「まぁまぁまぁ」と入り込んだ。


「大丈夫。みな口は硬いよ」


うん、大丈夫!昔お父さんに「ママには内緒だよ!」って言われてほんとに内緒にしてたら「なんで黙ってたの!?」って逆に言われちゃったくらいには口硬いよ!


「それでは、申し上げます!ただいま、魔王陛下の御落胤と申する者が、あいやいや、おっしゃる方がぁ、お見えです」


・・・・・御落胤?って、たし、か。


「ユーリぃぃぃぃぃ!!!!お前!!僕というものがありながら!!!」


ああああ案の定ヴォルフラムがあああ!!!いやいやでもでもこれはわたしも気になるところ!!いや、気にするだけ無駄なんだけどね!!年齢合わないし!!


「いやぁ・・・ゆーちゃんってばいつの間におとなに・・・」

「こら待て!!わかってるくせにそういうこと言って誤解を広めるな!!!」


えーだっておもしろいんだもーん。


「で?そのご落胤はいまどこに?」

「は、実はいまもう、お部屋の前に」

「「え」」


コンラートの問いに応えた兵士さんにみんなの視線が集中する。いや、ちょっと待って。ユーリに確認する前に連れてきちゃまずいんじゃないの?


「歴代魔王と、そのお身内しか継がれないという眞魔国徽章を、お持ちでしたのでぇ、お、お通ししないわけにも」


それでかぁ。でもそれだって、奪ったとかって可能性もあるんじゃない?


「それはおかしい!」


声をあげて兵士さんに詰め寄ったのはギュンターさんだった。なにがおかしいの?


「陛下はまだ、16歳に達していらっしゃらない!徽章はおろか、その図案さえ作られておりません!間違いありません!その子は、陛下のお子様ではありません!!」


へー、徽章って魔王それぞれで違うんだぁってちょっとずれた感想を思ってみる。あ、そっか、誕生日前日にとばされちゃったから、地球時間ではまだ15歳なんだ。16で成人だったよね、確か。
魔王とその身内が継げる徽章だけど、ヴォルフラムは家を継いでいないから持っていないんだとか。コンラートは申し訳ないけど除外だし、あ、グウェンダルは確か家を継いでるから持ってるのかな?


「だがその子、誰の、どこの家の徽章を持っているんだ・・・?」


ヴォルフラムの疑問はもっとも。ユーリのじゃないにしても徽章を持ってたってことは、いつかの魔王の身内ってことにはなるかもしれない。


「こういうときは・・・本人に聞くのが一番でしょ」


行動派ユーリは何の警戒も無く部屋の外へ。おーいゆーちゃーん、偽りの徽章で偽りの御落胤として来たんだから、なんかあると思おうよー。
ユーリのあとにつづいて部屋を出て、その子どもを目にする。ちょっと日焼けした肌と、ちぢりの茶色いパーマが特徴的な、10歳くらいの女の子だった。うん、さすがに5歳じゃ子どもできないからね。
少女は「ちちうえー!」と言いながらユーリに駆け寄って・・・。


「ユーリ!」

「うわぁっ!?」


銀色が煌めいたのが見えて、すかさずユーリと少女の間に入る。さらにその間にコンラートが入り込んで、少女の手に握られた短剣を手刀で落とした。シン、とした場に、なんだかゆるいユーリの声が響く。


「もしかして俺・・・殺されかけた?」


もしかしなくてもそうだよ、ユーリ。
わたしはうずくまる少女に目をやって、足をひねったらしいユーリに肩を貸した。



















ユーリが捻挫をしたと知らせがいってやって来たのは、緑色の髪の女の人だった。外見的には少し年上くらいだけど、さらに三倍とかなんだろうなぁ。彼女はユーリの右足に手をかざして“治療”する。その様子が、なんだか“懐かしい”感じがした。“昔”、みたのかな。幸いかるくひねっただけらしくて、すぐに治るだろうとのこと。さらにきけば、こういう癒しの術は、ユーリにも使えちゃうんだとか。わたしにも使えるかな?


「本当に、ギーゼラで良いのでしょうか?我が国には、もっと高名な医者が」


不安そうに心配そうにギュンターさんが言う。そういえばギーゼラさんは軍服だ。ということは軍医なのかな。


「ギュンター、自分の娘をもう少し信用したらどうだ」

「そうだぞギュンター、自分の娘はもっと・・・」


え?


「えええええ!?ギーゼラがギュンターの娘!?」


似てない、ってツッコミはしていいのかしないほうがいいのか。魔族似てない三兄弟がいるから似てない可能性はなくはないんだけど。


「養女でございます」


あ、しなくて正解か。
それにしてもびっくりだなぁ。養女とはいえギュンターさんに娘さんがいらしたなんて。
ユーリは半月ほど養生することになるらしい。歩くときは杖・・・喉笛一号さん、を使うようにと。なんてすごいネーミング。


「英国紳士みたいで素敵ですよきっと」


コンラート、それはなんか違う気がする。ていうかユーリには似合わないよそれ。
とそこへ、部屋のドアがノックされて、ヴォルフラムとグウェンダルが入ってきた。あの子はまだ何も喋らないらしい。ただ、魔王暗殺未遂は、やっぱりただごとでは済まないみたいで・・・。まだ子どもなのにどうしてあんなことを、という疑問が尽きなくて、ユーリはなんだか元気がなかった。




















翌日、ユーリはコンラートと数人の護衛を連れて気分転換に出掛けた。暗殺少女の処罰、はとりあえず原因がわかるまでは保留ってことになってちょっと安心。10歳のときって何してたっけ、って思い出そうとしたら、なんか頭に違和感を感じた。


「・・・?」


頭痛とまではいかないけど、例えるならズキン。なんだろう。


「・・・変なのー」


本当は気にしないといけなかったのかもしれない。少しずつ、少しずつ自分が変わっていることに。














「・・・、これだけは言っておく」

「何、改まって」


帰ってきたユーリがすごく真剣な顔で切り出してきて、思わず眉をひそめる。


「ウェラー卿コンラートという男は、顔もスタイルも声も良い、性格も良ければ腕も立つ。こんな非の打ち所がないやつも珍しいと、きっとどこかに重大な欠点が隠されているにちがいないと思ってはいたんだが・・・」

「・・・が?」


それってコンラートの欠点暴露?いいの?そんなの勝手に話しちゃって。でも気になる。


「壊滅的にギャグが寒い」

「・・・・・」

「しかも自覚がまるで無い」

「・・・・・気をつけます」


顔引きつらせないように練習しなきゃ・・・。




















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