魔王と勇者
翌朝、川べりでまた食事を広げる。この日もち重視の干し肉やパンが、わたしはわりと好きだったりする。
「なんかこうしてるとキャンプみたいだな」
「きゃん、ぷぅ・・・とはなんですか?軍事訓練のようなものですか?」
「ある意味訓練だけど・・・軍事はやだな」
楽しい要素が一気になくなりそうだ。
「あっ、ポチ!それはだめだぞ!」
「ポチってあんた、犬じゃないんだから・・・」
仔竜も『ポチ』で言う事きいちゃうし。
「コイツの名前はリースエールだ」
ヴォルフラムの言葉にユーリもわたしも首を傾げる。いつの間に名前をきめたの二人とも。
「なんだそれ」
「威厳と気品を兼ね備えた名こそ、竜にはふさわしいだろうが」
「えー、ポチのほうが可愛いじゃん」
「ンギャア!」
うーん、わたしもどっちかっていうとヴォルフラム派だけど、仔竜本人・・・本竜?はポチが気に入っちゃってるみたいだ。
「うそだ、魔族が・・・それも魔王がこんなだなんて」
「だから言ったでしょ?噂なんてアテにならないんだって。ユーリを見れば一目瞭然じゃない」
「そうだな、こいつが悪の根源だの背徳の化身だの・・・ただのへなちょこだ」
へなちょこ呼ばわりにユーリは怒るけど、悪になれないのも事実。正義感の塊だもんね、ユーリは。
「ねぇ、君の名前をまだきいてなかったよね」
「・・・アルフォード・マキナー」
「勇者っぽい名前だな!でも、アルフォードだと長くて呼びにくいから、アルな、決まり!」
「んなっ・・・」
あぁ、戸惑ってる戸惑ってる。こうやって自分の流れにもってっちゃうんだよねぇ。ていうか普段『ヴォルフラム』だの『グウェンダル』だの呼んでる人が『アルフォード』で長いってどうなの。
「おれは渋谷有利。ユーリでいいから」
アルフォードは掴みにくいユーリにちょっと苛立っている様子。密漁した理由をきいても話してはくれなさそう。だけどそこはやっぱりユーリ。もうこの勇者ってかっこいい!勇者はいいひと!っていうのをばらまいてアルフォードを信じようとしている。そんなユーリを見て、アルフォードがそっと口を開いた。
「・・・どうしても・・・竜の心臓が必要だったんだ」
アルフォードはお父さんから受け継いだ聖剣にふさわしくなるために一人で旅をしていて、その途中であの三人に声を掛けられた。あるこどもの病を助けるために竜の心臓が必要だと言われ、協力することにしたのだとか。
「・・・それ、でまかせじゃない?」
「え?」
「はい。竜の心臓でも、病は治せません」
「えぇっ!?」
わたしとギュンターさんの言葉にユーリが驚きの声を上げる。
「地球でもよくあったでしょ?人魚の血肉を食べれば不老不死になれるだとかそんな迷信」
「あぁ、あるな・・・じゃあ、竜の心臓も?」
「人間たちの愚かな迷信です」
昔は薬として扱っていたこともあったようだけど、本当はなんの効力も無いらしい。
「むしろ今は、竜の爪や鱗で武器や防具を造るとして、高値で扱われます。あの聖剣がいい例です。あれは数百年前に竜の牙で作られ、龍の血で鍛えられた一品ですよ」
「へぇ、あの剣そんなにすごいんだ・・・」
なんでコンラートは見ただけでわかったの?なんて無粋な質問はしないほうがいいのかな。
「そのために竜が乱獲されて、絶滅寸前までに追い込まれているわけです」
「あの法術使いも、竜の鱗などを売るつもりだったのでしょう」
そうだとしたら、アルフォードは騙されていたことになる。案の定彼は戸惑い、驚愕していた。あぁ・・・なんかユーリに似てるな。真っ直ぐで、なんでも信じて、突っ走っちゃうようなとこ。
「ユーリ?」
突然ユーリが立ち上がってモルギフを抜いた。なにをするかは想像がつく。けど、「一度こういうのやってみたかったんだ」は、ちょっと、ねぇ?そのままユーリはアルフォードに近寄って、モルギフで縄を切った。アルフォードを輪に加え、わたしたちは食事の続きをした。
「どう?ユーリは」
「・・・変な奴だ」
「そ、ユーリってば変な奴なの」
「おーいそこー、勝手におれを変人扱いするなー」
じと目で見てくるユーリに心の中でしりませーんと言って干し肉をかじる。じっと見てくるアルフォードに小首を傾げると、彼は「あぁ、いや・・・」とにごした。
「なに?」
「・・・お前も変だと思っただけだ」
「いや、だけ、じゃないよねそれ」
わたしとユーリを一緒にしないでほしい。・・・近いとは思うけど。
「双黒は畏怖すべきものだというのに、お前の髪と目は、美しいとさえ、思うんだ」
「・・・・・」
開いた口が塞がらない、ってこのことかな。いや、あの、言われ慣れないから・・・訂正、ギュンターさんとかはすごく言ってくるけど、同じ年頃の男の子にこんな真っ直ぐ言われた事なんてないから、なんていうか、その・・・照れる。えへへあははと笑いをもらして食事に集中しようとしたけど・・・あんまできなかった気がする。
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