彼はわたしの光だから






















夜になり、野宿をすることになった。申し訳ないけど、彼は聖剣を取り上げてひとまず縛っておくことに。さすがに襲ってきた相手には用心しないといけないから。やがて彼は目を覚ました。


「俺の剣・・・俺の剣はどこだ!?」

「大丈夫、ここにあるよ」


チャキ、とユーリが剣を手にする。


「いやぁ、かっこいいよねぇ、聖剣!RPGって言ったらやっぱこれだよなぁ。・・・こっちのがいいなぁ」


・・・魔剣モルギフは魔王にしか扱えないだか触れないらしいから、聖剣には魔王は触れないとかって機能があればよかったのにと我が兄ながら呆れる。


「なぜ、魔王が聖剣に触れられる・・・!?」


ん?本来は触れないの?


「こいつは変わった魔王だからな」

「そうかな?俺って普通だよ?」

「平凡すぎて聖剣に憧れちゃうくらいにはね」


じとーって見たらさすがに「あはは」と乾き笑いをもらされた。でもすぐにユーリは「ん?」と視線を下に向ける。と、仔竜がユーリにすり寄っていた。


「すっかり懐いちゃったね、そのこ」

「・・・お前達はいったい、俺をどうするつもりだ」

「それが、困ってるんだよね」


そう、彼の処遇には困っている。ギュンターさんは、密漁は重罪だからしかるべき機関に受け渡すべきだと言い、ユーリは未遂だったんだから見逃してあげようよと言う。さらに、彼の仲間が戻って来るかもしれないから、この仔竜をはやく安全な場所へ連れて行かないといけない。


「てなわけで、しばらく行動を共にしてもらうから」


彼は何か言いたそうだったけど、反論はしなかった。


「良かったらさ」

「?」


警戒をまったく解かない様子で睨んでくる彼に、ひとつだけ言っておきたい。


「“魔王”って肩書きだけじゃなくて、“ユーリ”って人柄も見てあげてよ。ユーリが本当に悪の根源なのかをさ」

「・・・お前は・・・?魔王と同じ、双黒だが・・・」

「わたしは。ユーリの双子の妹だよ。だから、ユーリを害するものは許さない。覚えておいて?」


最後のは一応彼にだけ、ユーリにはきこえないように言った。もしかしたらコンラートあたりにはきこえちゃってるかもしれないけど。そう思ってコンラートを見れば何とも言えないような顔をしていて・・・わたしも何て言えばいいかわかんなかったから、苦笑で返しておいた。






















さて寝ようか、と思ったとき、コンラートに呼ばれた。なに?と返すと、彼はすでに眠りについたユーリを一瞥して、こっちへ、と背中を向ける。きかれたくない話なのかなと思いつつ彼に着いていく。そう離れていないけど会話はきこえないであろう場所に来て、コンラートは口を開いた。


「なぜ、あんなことをしたんだ?」

「あんなこと・・・?あぁ、崖幅跳び?」


幅跳びなのか高跳びなのかよくわからない感じだけど。コンラートは「そうだ」とだけ返してくる。その声に怒気がこもっているのは気のせい・・・じゃないよね、さすがに。なら正直にそのまま話すしかない。


「ユーリを助けたかったからだよ」

「だからといってあんな危険なことをして、落ちたらどうするつもりだったんだ?」


抑えて、いつもの口調を保っているけど、ピリピリした空気が肌に刺さる。でもこれは、退いちゃいけない事だ。


「落ちたら残念怪我しましたねで終わりかな」

「それですまなかったらどうするつもりだったのかときいてるんだ!」


痺れをきらしてコンラートが声を荒げる。思わずびくっとなってしまい、目を丸くする。


「もし・・・もしそのまま・・・」

「・・・ごめん」


さすがに、軽く言いすぎた。コンラートは心配してくれたのに。


「でもねコンラート、これはわかってほしい。わたしはなにがなんでもユーリを守る。この思いは、貴方と同じだよ」

「・・・・・」

「ユーリはわたしの太陽だから・・・太陽が消えちゃうと、影はなくなっちゃう」

が、影だと?」


月明かりがコンラートを照らす。そう、この月だって、太陽無しではただの岩だ。


「そう、わたしは影。ユーリを、魔王を支える影なの。だからわたしは、ユーリのそばにいて、ユーリを守るの」

「・・・そうか」


コンラートが大きく息を吐く。納得、してくれたのかな。


の気持ちはわかった。けど、これだけは約束してくれ」


まっすぐなコンラートの視線に、わたしもまっすぐ返す。


「無茶だけはしないでくれ。とくに、命を危険にさらすことは。俺はユーリを失うことは絶対に嫌だけど、君も、失くしたくは、無い」

「・・・うん」


そこでコンラートもね、と言えればよかったんだけど、その言葉までは出てこなかった。話はそこでおしまいになり、わたしたちは明日に備えて眠りに着いた。




















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