密猟者





















大きな山がすぐ近くになってきた頃、村に到着した。ここが竜の谷へ行く道の最後の村で、ここに馬を預けてこれからは徒歩で進むという。さらに、竜は神経質であまり大人数で行くと危ないから、兵士さん達の護衛もここまでなのだそう。
メンバーがいつもの、ユーリ、コンラート、ヴォルフラム、ギュンターさん、そしてわたしだけになって、ユーリがいざ出陣!と意気込んで歩いたけど、コンラートがそれを止めた。森の中には密猟者用の罠がいくつも仕掛けられているから、むやみに進んでは危険なんだって。じーっと目を凝らしてみるけど、わたしにもユーリにもわからない。


「いいですか?よーく見ててください」


言ってコンラートが抱えたのはその辺に転がっていた丸太。彼はそれを森の中へ投げ込んだ。すると地面から網が上がり、木にロープでくくった丸太があっちいってこっちいってとぶんぶん揺れて・・・。


「「うわぁ・・・」」


思わずユーリとかぶってしまった。コンラートはギュンターさんに少しやりすぎじゃないかと言ったけど、密猟者には容赦なし、とくに入口は警告の意味も込めて派手にしてある、のだそう。




















罠をかいくぐって川べりで休憩になった。お弁当を食べながら風景を楽しむ。と、後ろでなにやらおとなたちの危険な会話が。


「・・・侵入者?」

「これは、姫・・・きかれてしまいましたか」

「大丈夫だよ。注意して進めばいいだけだ」

「・・・うん」


ぽんと頭を撫でられたら安心できて自然と笑みが浮かぶ。一休みが終わると、また竜の谷への道を進んだ。



















目の前に、急激な斜面。目にしただけでユーリが「うへぇ」と声をもらした。


「姫、大丈夫です、か・・・?」

「無理そうだったらおぶるけ、ど・・・?」


語尾が変に疑問に変わった保護者組に、「え?」と顔を向ける。二人は驚いたというか唖然とした顔をしてる。それはきっと、わたしが楽しそうな顔をしているから。


「こういうのって燃えるんだよね!!」

「うわー出たよ、修行馬鹿・・・」

「しっつれいな!!」


ちょっと好きなだけですー!


「これは俺の出番はないかな」


苦笑するコンラートに「ごめんね、ありがとう」と返す。そのままコンラート、ギュンターさんが進んで行って、わたしが続く。その後ろにユーリ、そしてヴォルフラム。斜面をぐんぐん進んで行く。そして登りきったその先には、なんとも言葉では説明し難い、広大な渓谷が広がっていた。


「すごい・・・」

「あれが竜の巣!?」

「お静かに、陛下」


鳥の巣みたいなのを発見したユーリが声を上げると、ギュンターがひそめた声で注意した。


「竜を刺激してはいけません。とくにいまは子育ての時期。こどもがいると、親竜はさらに狂暴になります」


それはどの動物でも共通だ。気を着けなきゃ。
遠くから観察するぶんには大丈夫だそうだけど、巣は上の方にあってよく見えない。ユーリが少しずつ歩を前へ進めていく。


「陛下、危ないですよ」


コンラートがたしなめるけど、ユーリはまた一歩。


「ユーリ、いい加減に・・・」

「あっ、なんか動いた!って、あ!?」

「陛下!」

「ユーリ!」


ユーリは崖から足を踏み外してすべりおちていく。あぁもう世話のやける兄だ!
下を見ればユーリは茂みに着地して無事の様子。でも、不意にバサリときこえて、顔を上げた。


「竜・・・!」

「陛下、逃げて!」


巣の中にいた竜が羽ばたき、ユーリの元へとんでいく。ユーリの目の前にズシンと降り立った竜は高さだけでもユーリの倍はありそうで。


「ユーリ・・・っ」


とびだしていきたいけど、コンラートが魔術をはなとうとしたヴォルフラムを止めていたから、竜を刺激するようなことはしちゃいけない。どうか、ユーリ、逃げて・・・!
竜はじっとユーリを見つめたかと思うと・・・頭からバクッと。バク・・・っ。


「ユーリ!!!」

「助けてぇぇぇ!!」


一瞬にして血の気が引いたけど、声が出るってことは、頭蓋骨まで一気に破壊されたわけではない、みた、い・・・。それだけでほっとしたけど、竜はユーリを口にくわえたまま飛んでしまったから、安心してもいられない。そして竜は、ユーリを自分の巣へと放り投げた。コンラートが崖下へと走る。崖をよじ登る気だ。さすがにそこまでできる自信が無いからここから見守る。巣の中にもうひとつ動くものが・・・。


「小さい・・・竜?」

「陛下!ご無事ですか!?」


コンラートが下から声を上げると竜が威嚇する。


「あぁ待った待った!あれはおれの仲間だから食べちゃだめだ!」

「・・・・・」


竜がユーリの言う事をきいた・・・?ギュンターさんも、コンラートも、ヴォルフラムも驚いて竜とユーリを見ている。


「なんか、大丈夫みたいだよ。傷つけないであげて」


仔竜を抱えながらユーリは満面の笑み。


「まったく、ユーリってば」


ユーリはこういう不思議なものを持ってるよね。そんな空気が、わたしはちょっとうらやましかったりする。やっぱりユーリは太陽だから。



















不意に、頭上で何かがきらめいた。


「ユーリ、コンラート、上!」


わたしの声につられてみんなが上を向く。崖の上には四人ほどの人間がいた。


「密猟者か!?」


そのきらめきはぐんっと近づいてきた。剣を持った男が、竜を狙って飛び降りたのだった。男の仲間も法術・・・で、ギュンターさんとヴォルフラムのところへ降りて行く。


「こうなったら・・・!」


距離はともかく高さが怖いけど・・・コンラートはユーリのところまで登りきったし、落ちてもまぁ、怪我する程度でしょう!


「女は度胸!!」

!?」


思いきり助走をつけて、わたしは、跳んだ。


「でやあぁぁぁぁっ!!」

「なに!?」


思いきり拳を振り抜く。残念ながら当たりはしなかったけど、巣の上に着地することはなんとかできた。


「現役陸上選手兼黒帯なめんな!!」

!なんて無茶を・・・!」


さすがのコンラートをも焦らせてしまったらしい。申し訳ない。でもこれで二対一だ。


「・・・、陛下を頼んでもいいか」

「もちろん」


相手は見た感じ同じ年くらいの男の子で、聖剣、を持っているらしい。彼の相手をコンラートに任せて、わたしはユーリと仔竜のそばまでさがる。すると親竜が彼の仲間達に攻撃して、退かざる終えない状況となった。彼が食い止め、仲間を逃す。でもここにいるのはみんな、彼の何倍も年月を生きて、何倍も鍛錬した武人たちばかり。相手になるはずもなく、コンラートの背後からの当身で彼は気絶した。ほっと一息もらし、ユーリと仔竜を連れてみんなと合流した。




















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