夢見の先の世界へ
いつも見る夢がある。
それは、目の前で青白色の髪の女性が自分と向き合っていたり、ファンタジーの世界で定番のどでかいお城の中にいたり、とてつもないイケメン男性たちと共にいたり、時には戦場と呼べる場所にいたり、様々な風景があった。断片的なものばかりだけど、“懐かしい”とさえ感じた。もしかしたらここは、この世界は、前世の記憶なのかな、なんて考えて。だからあんなことが起きてもわたし、渋谷は、結構すんなり受け入れてしまったのかもしれない。
晴れ渡る青空。こんな空の下で思いきり身体を動かしたら気持ちいいだろうなと、わたしはランニングに出掛けた。双子の兄は野球小僧で、わたしは陸上と空手。ちなみに上の兄はデスク派。しょーちゃんたまには運動した方がいいよ、って言うと、ちゃんとしてるって返ってくるけど本当かなぁ。風を切る音を心地よく感じているとなにか耳元でキィンと音がした気がした。足を止める事なく目だけで辺りを見るけど変わった様子はない。空耳かな?と首を傾げたら、また同じ音。今度はもっと大きい音。なんだろう、これは。呼ばれ、てる?なんとなく、音がするかな?って方角に行ってみると、公園の奥の池に出た。池以外何もないから人は滅多に来ない。じっと水面を見つめてみるけど、やはりとくに変わった様子はない。やっぱり空耳かなぁと踵を返そうとした時、後頭部に衝撃が走った。
あぁこの感覚には覚えがある。これは軟式だけど、野球ボールだ。まさかこんなとこにとんでくるなんて。ぐわんとする頭では身体に信号を与えることができず、わたしの身体は重力のまま池の水面に向かって行く。大きな音がして、全身を冷たい水が包む。このままぷかーっと浮かんでやったら、ボールをぶつけたやつはどんな顔をするかな、なんて考えていたけど、はた、と何かおかしいことに気づく。
身体が、浮かない。
それどころかどんどん沈んでいるような気がする。いや、沈むというか、引き寄せられてる?
息大丈夫かな、なんてのん気な事を思いながら、わたしは流れに身をまかせて意識を失った。
暗闇に光りが溢れてきて、その眩しさに眉を寄せた。ゆっくり薄く瞼を上げると、隙間から太陽の光が差し込んできた。意識を失って、とりあえず水面に浮かんでこれたのかな、と身体を動かしてみると、すぐ底に座る事が出来た。あれ?この池こんなに浅かったっけ?
「大丈夫ですか?」
おでこをおさえて俯いていると、声を掛けられた。弾かれるように顔を上げると、そこには爽やかイケメン好青年がいた。わぁかっこいいなぁ・・・こんな人が街を歩いてたら、絶対みんな目に留めるよ、なんて考えて、あれ?と小さく首を傾げる。この人、どこかで見たような。どこか、記憶の中に。確か記憶の中の人はもう少し髪が長くて・・・。
「・・・コンラート?」
「えっ・・・?」
とび出てきた単語を口にすると、かっこいいお兄さんは驚いたように目を丸くした。
「なぜ、俺の名を・・・?」
「えっ、なんででしょう、わかんない・・・」
ただ、出てきた言葉を呟いたのだけど。うーん、なんだろう。
「初めて会った気がしないというか、多分、夢の中に出てきたんです、あなたが」
「・・・そう、ですか。それは光栄ですね」
言って爽やかに笑う。あぁほんとかっこいい。どうしてこんなかっこいい人が目の前にいるんだろう。まさかこの人がボールを投げた人?
失礼かなと思いながら顔以外・・・服装とかを見てみる。兄が着るような野球のユニフォームでは、ない。かといって私服でもない。これは・・・軍服・・・?そしてわたしの視線は彼の左腰に・・・これって、剣?さらに目を動かして、お兄さんの背後を見てみる。コンクリート・・・というか石畳の床と、沢山の木と、その奥には・・・お城?このお城も何か見覚えが・・・。
「・・・夢見てるのかな」
「そうだとしたら残念ですが、おそらく、現実ですよ」
「でもあなたもこのお城も、わたし夢で見て・・・あ」
ひとつの可能性に行き渡る。なんでこんな夢を見るのかなと考えていたときだ。これは前世の夢なのかな、なんてファンタジーチックなことを。
「えー、まさかぁ」
「なにが、まさかぁなんです?」
わざわざ言い方まで真似しなくてもいいんですよお兄さん。
「わたし、いろいろ夢見るんですけど、それって前世の夢なのかなーって思ってたんです。もしかしてここがその世界なんですかねぇ?」
「・・・そうですね」
え、あっさり肯定しちゃうんだ?まさかほんとに異世界なの?ていうか、お兄さんなにか知ってる感じ?
そんな動揺が伝わったのか、お兄さんはまたにこりと笑って、「もう少し待ってて、そうしたら状況を説明するから。あぁでもその前にとりあえず噴水から出ようか。風邪を引くし」と言ってわたしの手をとって引き上げた。なるほど、ここは噴水の中だったのか。どうりで浅いわけだ。お兄さんが渡してくれたタオルを頭からかぶり、がしがし拭く。そんなに乱暴にしたら髪が痛みますよ、の言葉はスルーして。そうしていると、「あ、来た」とお兄さんが呟いてわたしは顔を上げる。そして、そこにいたわたしと同じ顔に、ただ驚愕するしかなかった。
わたしが目を見開いたのと同じく、その鏡のような相手も目を見開いた。そしてダッシュで駆けて来る。
「!?」
「有利!?」
お互いにお互いの名前を大声で呼ぶ。目の前には半身、双子の兄・渋谷有利。なぜ有利までここにいるのだろう。まさか、有利の前世もここの人で、有利もわたしと同じようにここに来ちゃったとか?
「なんとなく、あっていると思いますよ」
心を読まれたのかと思った。けど、思案顔で把握したのだと思う。お兄さんが苦笑した。
「ユーリが二人・・・!?」
「陛下がお二人・・・!?」
これは有利と一緒に来た二人。金のふわふわ髪でエメラルドグリーンの目をしたとても可愛い美少年と、灰色の長い髪に紫の目をした超絶イケメンさん。・・・ん?このイケメンさんなんて言った?
「・・・・・陛下?」
「あー・・・」
ぽりぽりと有利が頬をかく。え、まさかほんとに有利が。
「有利、この国の王様なの?」
「あー、うん、実はひょんなことから・・・って、なんでがここにいんの!?」
「池にどぼんしちゃったらここに居たの」
さらっと説明すると、有利は「えええええ」と変な声があげた。それにしても、有利が王様かー、大丈夫かなぁ・・・へぐしっ。
「陛下、ひとまず状況説明は身支度を整えてからにしませんか。このままでは風邪を引いてしまう」
「おっと、そうだな。えーとそれじゃあ、!」
有利に高らかに呼ばれて、兄の方を見る。
「ようこそ、俺の国、眞魔国へ!・・・なーんて言ってみたり」
最後のが無ければかっこよかったのに。
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