未だ無自覚





















午後の練習、Aグループはミニゲーム、Bグループは基礎練習で、はやくも反論をかっていた。場所は天然芝。Bグループの中には天然芝でプレイしたことのある人は指折り数えているかどうかだろう。それもふまえての練習だった。天然芝がフィールドだと、ボールは砂地よりも跳ねない。どうやったらうまく相手にパスできるかを考えながらの練習だった。


「・・・・・」


思わずじっと見てしまうのは、いったりきたりしているボール。プレイする事なんて、それこそ椎名たちに混ざって少しやる程度だが、少し、やってみたくなった。


「西園寺コーチ、このボール使ってもいいですか?」

「どうぞ」


予備として転がっているボールを持ち上げ、選手たちの邪魔にならないように端の方に行く。ポンッと蹴ってみると、やはり跳ね方が違った。


「・・・面白い」


なんだか燃えてきて、はすっかりそちらに集中してしまっていた。



















、この練習はもう終わりよ。そう西園寺に声を掛けられて、ははっと意識をフィールドに戻した。


「ご、ごめんなさい、つい夢中になっちゃって・・・!」

「いいわよ、今のはマネージメントがいるものではなかったから。これからBはミニゲームなの。でもその前に、Aはランニングが終わったら休憩だから、Aの選手にドリンク用意してもらえる?」

「いってきます!」


びしっと敬礼をしてみせて、施設内に走る。借りている部屋からクーラーバッグを出して来て、Aグループが使っているフィールドの隅に置いた。


「Aのみなさんはランニング終わったらここからドリンクとってくださいねー。ボトルはまたこのクーラーボックスに戻してくれたらいいんで」


するとわらわら寄って来た。持って入っちゃいけねぇの?という問いには、ミーティングのときに持って来てくれたら大丈夫ですと返す。ボトルは余分にあるから問題ないだろう。Aの面子はそのままあがる者、Bのミニゲームを観戦する者とにわかれていた。も気になってちらと見て、ぎょっとした。


「風祭くんがGK!?不破がDF!?」


いやいや風祭くんはともかく不破は無理だろうとなんとも失礼なことを内心で思いながら、全員に配布したことを確認してBのフィールドに寄る。


「難しそうだなぁ、風祭くん」

「小さい身体だとはやく読んで動かないととれないからな」


独り言のつもりだった、が、反応があって目をぱちくりさせながら見上げる。


「渋沢さん」

「風祭が心配か?」

「そうですねぇ・・・いや、どっちかというと、不破のほうが・・・」

「ん?」


乾き笑いをもらしながら不破を示すと、なかなかにひどかった。自分に送られたものでないパスまで読んでとりにいって、味方の邪魔をしている。


「予測しすぎて味方を混乱させているな、あいつ」

「思った通り、不破はフィールドプレイヤーには向かないね」


チームメイトとクラスメイトで呆れ顔を不破に向ける。不破は自分の意図を椎名に訴えているところだった。藤代がたちの横で大爆笑していて、腹筋大丈夫かなと少し心配になる。椎名に、読みは正しいけど一人でやってどうする、なんのために11人いるんだと言われてしまう始末で、なんだか見ているこちらが恥ずかしくなってきた。


「あれで悪気ないし素だし不破なりに考えてるってとこがまた・・・」

「ふぅん・・・」

「え、なに?藤代くん」

「いやぁ?」


不破の事、よく知ってるんだなぁって。そんなことを言われて、首を傾げたまま数秒固まる。そんな様子を水野が苦笑いでちら見していることには気づかない。


「じゃあさ、椎名は?」

「つっちゃん?特に心配してないよ」


しまったつっちゃんって言っちゃった、と気付いた時には藤代は変な笑いをもらしていた。これはあとで椎名がからかわれて自分が怒られるやつだ、とは後悔した。気をとりなおして、こほんとわざとらしく咳払いをする。


「翼はだいたいそつなくこなせるから」

「そうだよなぁ、椎名ってやっぱレベル高いよなぁ」

「翼は経歴無いだけだよ。あとやっぱ下にみられがちなのは、体格のせいかな・・・」


こればかりはなんともいえない。椎名だって今があの身長なだけで、これから伸びるかもしれないのだから。


ちゃんって、サッカーに関しては飛葉寄り?」

「そうだねぇ、桜上水のサッカー部は時々観てたけど、試合観にまで行ったのは不破が入部してからだし・・・」


また不破だ、と藤代は気づいたが、は無意識だったらしく弁解しない。面白いなぁと藤代は小さく笑い、ミニゲーム観戦に集中する事にした。



















ポジションチェンジもして、ミニゲームは終了した。Bの面子にもドリンクを用意して、は何気なく不破に寄って行った。


「お疲れ様」

「あぁ、か」


ごくり、と喉を鳴らしたあと、不破はを認識した。


「他のポジションどうだった?」

「・・・一筋縄ではいかんなと思った」


読みすぎて、またそれで自分でも動けるから余計なところまで行ってしまう。どこまで自分の範囲かが判断しきれていないようだ。


「楽しい?」

「・・・いろいろ考察していくのは、楽しい・・・のか?」

「疑問で返されても・・・」


だがまぁ不破らしいかと、は笑った。
遠くで「、もうあがるぞー!」という椎名の声をきいて二人は歩き出す。そうやって二人で歩く姿を見て椎名もまた、やれやれと肩をすくめるのだった。



















どうやら風祭が黒川にアドバイスされて、四六時中サッカーボールを蹴っていることにしたらしい。食堂でもボールを転がして、あげくバランスを崩し、真田にぶちまけるという事件が起きたらしい。大丈夫かなぁと思いながら廊下を歩いていると、前方に風祭と藤代、さらに椎名に五助、六助、杉原に小岩まで一緒になって室内サッカーをしていた。


(え、このままいくとぶちあたるよね?)


どうしたものかときょろきょろするが、脇道もなく逃げ場はない。あ、とに気づいたのは椎名だった。


「将!にパスだ!」

「えっ、でも」

「大丈夫だから!」


いやいやちょっと待てとは思ったが、端に避けるよりは確実かと身構えた。ようは風祭からパスを受け取り、風祭か椎名に渡せばいい訳だ。は風祭から、気持ち控えめに放たれたパスを難なく受け取り、奪いに来た五助をいなして椎名へと戻した。


ちゃんサッカーやるのもうまいんだ!?今度やろーねー!!」


走って行きながら手を振る藤代に乾き笑いをもらしながら振り返し、は大きく息をついて、部屋へと戻ったのであった。




















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