真っ直ぐな眼差し、激戦終結


























高井は捻挫で試合続行不可能。代わりの選手が入り、試合が再開された。だが、交代で入った15番は、全く動けていなかった。


(緊張してるのかな?そこ、絶対見られてるよ・・・・・・


前半は攻防戦のままに終了。未だ0対0である。前後半のハーフタイムで少し体をほぐそうと伸びをしたとき、真正面の反対側に、人影が3つあることに気づいた。


「あれは・・・」


見た事がある。生で見たのは数えるほどだが。武蔵野森の監督、キャプテン、エース。強豪校の重要人たちが注目する試合、ということなのだろうか。特に、飛葉は全くの無名から勝ち上がってきたチームだ。見ておきたいと思ったのだろう。視線を少し動かすと、不意に、エース・藤代誠二と目が合った。にへら、と笑い手を振られたので、なんとなく振り返しておいた。

























後半が始まった。飛葉は少しポジションをいじっている。左右ウイングのチェンジ。


「直くんの希望だろうなぁ」


井上は佐藤と因縁があるらしい。前半で勝負できなかったから、後半でしたいということでのポジションチェンジだろう。一方桜上水は、15番の緊張をほぐすためか、あえてそこにボールを送った。だが15番はミスをし、ボールがこぼれてしまう。その隙を、飛葉は見逃さなかった。すかさず黒川が拾いに行き、DFはあっけなくかわされ、不破もゴールを許してしまう。飛葉に先取点が、入った。桜上水にマイナスの空気が流れる。


「ここが正念場だよ・・・」


ぎゅっと拳を膝の上で握る。点を入れなければ先は無い。と、そんな嫌な空気の中、風祭が動いた。


「サン太、パス!」


2〜3mしか離れていない距離でのパス。あーだこーだ言いながら15番が返す。そして風祭がほぼダイレクトで15番に返す。それを繰り返していくうちに、いつの間にか攻撃範囲まで抜けていた。飛葉の方も呆気にとられてしまっていたのだ。ゴールにこそならなかったが、空気の流れを良くするには充分だった。


「ほんと、風祭くんってすごいなぁ」


不破もこうやって風祭の流れにのまれたのだろうか、なんて考えて、は頬を緩ませるのだった。
























緊張が解けて調子が出てきた15番もまじえ、桜上水も攻めていく。井上と佐藤の直接対決もあったが、井上はかわされてしまった。攻めて、攻めて、攻めまくる。1点をとらなければ桜上水に勝ちはない。オフサイドトラップを攻略し、桜上水は攻めていく。そして飛葉も、1点をキープするだけではとどまらない。前半と同じ攻防戦。諦めた方が終わる。
椎名が佐藤の腕をホールドして動きを封じた。水野からバックパスされたボールは佐藤の元へ行くが、軌道はずれていた。


「え・・・?」


だが“なぜか”軌道が修正され、佐藤は見事ゴールを決めた。まさか、とは佐藤を見、すぐにこれはノーゴールと判定された。ハンド・・・ボールが佐藤の手に当たっていたのだ。風祭が佐藤に何か言ったのが見えた。内容まではきこえなかったが、今のハンドのことだろう。それから風祭の動きが鈍くなった。風祭という人物をまだあまり知らないだが、風祭が動揺しているのはわかった。風祭は“良い人”だから、今の行為が偶然なのかわざとなのか、もしハンドをとられていなかったら、と考えてしまっているのだろう。


「確かにすっきりしないかもだけど・・・今それを考えてたら、飛葉に負けるよ」


考え事を許す程甘い相手じゃないことくらい、風祭にだってわかっているはずだ。はぐっと拳を握り、フィールドを見守った。
























五助がファールをとられ、桜上水のPKとなった。蹴るのは風祭。風祭はどうするのだろうか。このファールはおそらく、佐藤が計算してとったもの。こういった“テクニック”を使って勝ちに行くサッカーか、あくまで真っ直ぐぶつかり合うサッカーか。風祭の決断のときだ。フィールド中が見守る中、風祭はそのボールを、高く蹴り上げた。ゆるい軌道を描き、ボールがゴールを越えた。


「真っ直ぐを、選ぶかぁ・・・」


この、鉄壁の守りの飛葉を相手に真っ直ぐ勝負を挑む。桜上水側は当然軽くもめたが、風祭の目はまだ死んではいなかった。むしろ、煌々と燃え輝いていた。
水野がパスを出す。方向には佐藤。だが、佐藤は微動だにせずボールを見送った。


「え!?」


思わずガタリと席を立つ。真っ直ぐに走っているのは風祭だった。風祭と椎名がボールを追い、ライン際へ走る。


「つっちゃん・・・風祭くん・・・!」


どちらがとるのか。風祭ももう限界のはずだ。もう少し、もう少しでラインを割る。という時、風祭が跳んだ。右足を伸ばし、かかとでボールがラインを越えるのをライン内ギリギリに止める。一度転んだがすぐ起き上がり、椎名がボールに触れる前に、ゴール0角度で、シュートした。


「「潮見、謙介」」


呟いたのは両監督。誰かわからないが、風祭と影が重なったのだろう。玲が思わず席を立つ程の人物だ。風祭と何か関係があるのだろうか。
点が入り、再び直線上となった。コーナーキックが激しい攻防を生む。椎名がクリアしようとしたボールに風祭が頭から突っ込み、椎名の足を頭にかすめながらもボールに当て、ゴールへ。ゴール前で六助がクリアしたが、いつの間にか転んでいた15番の後頭部に当たり、そのボールはゴールネットを揺らした。


「え」


そして、試合終了のホイッスル。


「え?」


こんな、終わり方、あり?


「えええええ」


なんだか釈然としないが、点は点。終わった、のだ。
整列して本当に試合が終わり、メンバーがベンチに戻って行く。中間地点にいたはぱっと桜上水側を見た後、踵を返して飛葉ベンチへ向かった。
























ベンチには一人、タオルを頭からかぶって俯いている小さな背中があった。ひとつ席を空けて、は椅子に座る。


「・・・終わっちゃったね」

「・・・あぁ」

「強かったね」

「・・・・・」

「・・・・・お疲れ様、翼」

「・・・っ」


声はきこえなかった。かすかな嗚咽だけがきこえてきて、はただ黙ってそこに居た。

























―――――
※翼夢ではありません(笑)

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