ギリギリな攻防戦





















桜上水組と別れ、椎名宅。どうやら他のメンバーは帰ったようだ。ちゃんと勉強すればいいのだが。リビングのテーブルで椎名と向かい合い、は小さく息をこぼす。




「んー?」


ノートから目を離さずに返事をする。


「試合、観に来いよ」

「観には行くよ。どっちつかずだけど」

「・・・・・」


なんとなく、睨まれているようなジト目で見られているような気配を感じる。そればかりは仕方がない。身内と自校は選べない。


「まぁいいよ。勝つのは俺たちだからね」


はもう何も言わなかった。言い合いにしかならないから。全ては試合で決まる。心待ちにしながらペンを進めた。




















桜上水対飛葉、試合当日。桜上水、飛葉とも選手はもう集まっていた。飛葉サイドには数人の女子が集まっている。椎名のファンクラブだ。桜上水サイドにも女子がいるが、こちらは女子サッカー部である。





声を掛けられて振り向くと、白をベースにしたユニフォーム、4番を背負ったいとこが立っていた。


「つっちゃん」

「桜上水のチビ面白いな」

「風祭くん?何か言ったの?」

「“世界は近い”だってよ」


椎名の言葉に、は目をぱちくりさせた。


「風祭くん言うねぇ・・・」

「純粋のカタマリで調子狂うけどな。実際は、あぁいうやつが一番怖かったりするんだよな・・・」


椎名の目は真剣だ。はやくも風祭を評価し始めている。


「ねぇ、始まる前に玲ちゃんと話せるかな。この間会えなかったし」

「もうすぐはじまるから急げよ」

「うん」


は飛葉サイドの監督席に座る女性に向けて駆け出した。




















「玲ちゃん!」


呼ぶと、本人だけでなく、準備中の選手たちまで振り向く。声の主を視認すると、なんだお前かと言う雰囲気で、選手たちは準備を再開した。


、来てたのね」

「うん。ほら、やっぱ気になるし」

「翼が?」

「んー・・・」


おや、と玲は思った。いままでなら、サッカー関連で気になるのは椎名で即答だったはずだ。それが今、は曖昧な声を漏らした。


「自分とこの学校も、かなぁ」

「今まで気にしたことなかったのに?」

「うーん・・・」


言われてみればそうだ、とは思う。今までサッカー部の事を気にしたことなどほとんどなかったというのに。何がきっかけだろう、と考えると答えは不破になるのだが、そこからさらに深くは、今のは思い浮かべなかった。


「まぁいいわ。すぐに答えは出ないだろうし」

「・・・なんか玲ちゃんまでそういう言うし」

「誰かに言われたの?」

「真弥」


なるほど、と玲は頷いた。の親友である真弥には、玲も一度だけ会った事がある。ニブイとは違い、良く気付くタイプの子だ。


のペースでいけばいいのよ」

「よくわかんないけど、はーい」


その後二言三言話し、は飛葉のベンチを離れた。



















選手たちが整列、ポジションにつき、試合が始まった。は飛葉ベンチと桜上水ベンチのちょうど真ん中あたりの後ろの方で観戦することにした。開始早々からの桜上水のごあいさつ。だがなかなかゴールまで行き届かない桜上水の攻撃。が以前口にした“技”のせいで桜上水は上手く攻め込めずにいた。それでも諦めない小さな9番。風祭はどうにか攻めようとフェイントをまじえ、攻め込んでいく。それを椎名が止める。面白い攻防である。


「玲ちゃんが思わず立ち上がっちゃうほどかぁ」


ちらり、といとこのはとこを見て、フィールドに目を戻す。椎名と玲の風祭への評価はぐんと上がった事だろう。そして、テクニック力の高い11番、佐藤成樹。ゴール前まで攻め込む。だがそれは椎名と攻防によって弾かれた。さらに、ボールが行ったり来たり。飛葉のフラットスリーが機能している中の攻防戦。桜上水が、ゴールへシュートを打った。キーパーによってなんとか止められたが、飛葉はそれで高揚していく。


「あっ、つっちゃん!」


椎名がボールを貰って走り出した。リベロである椎名は攻撃にも参加する。両ウイングも一気に上がり、あっというまにゴール前。打たれたシュートを、不破がパンチングでなんとかセーブする。はほっと腕をなでおろした。飛葉のコーナーキック。塊の中に椎名はいない。裏をかいて外からシュートを打つのだろう。桜上水は気づいていないようで、椎名へのマークは無し。案の定、パスが椎名へ渡り、椎名はボレーシュートを打った。だが、いた。椎名が打って来ると予測していたものが、一人だけいたのだ。


「風祭くん!?」


シュートコースへ入り、風祭が頭でクリアした。椎名の顔が驚きに染まる。だがボールはまだ生きている。ゴール前の攻防。GKと一対一。キャッチにいこうとした不破の裏をかき、ループシュートを打たれた。


「不破!!」


も思わず大声を上げる。このままでは入ってしまう。その瞬間、不破が地に両手をつき、逆立ちした裏脚で、ボールをクリアした。


「不破すごー――い!!」


気が高ぶり、自然と拍手が生まれる。桜上水のカウンターが飛葉の陣地へ切り込む。が、そんなことを、許すはずがなかった。パァンと音でも響きそうな勢いで高井が弾き飛ばされる。シュートチャンスを阻止され、桜上水の動きが止まった。桜上水側を振り向いた椎名の顔つきが、変わった。





















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