前進前進
















その後二回戦、三回戦と、サッカー部は順調に勝ち進んだらしい。一悶着あったようだが、それも無事おさまったとのこと。
さて、桜上水中はもうすぐ、試験である。は今やった授業の復習をしていた。





不意に頭上から声がかかり、顔を上げる。そこにはいつも無表情なクラスメイト。


「どうしたの?不破」

「そこ間違ってるぞ」

「え!?」


指摘された所を見ると、確かに間違っていた。


「ありがとう。えーと・・・で?」


それだけの為に来たわけではあるまい。きくと、不破は明後日を向いてぽりぽり頬をかいた。


「昨日・・・サッカーが面白いと感じた」

「へぇ・・・!!」


嬉しい報告には身を乗り出す。


「PK戦まで行って、桜上水うち が3、相手が2、俺が止めれば勝ちの場面だった」

「うん」

「俺は考察して左と読んだが、なぜか右が気になって仕方が無かった」

「うん」


はただ楽しそうに相槌を打った。淡々と話す不破が、楽しそうに見えたからだ。


「気づけば右に跳んでいた。直感、が働いたらしい」

「うん」

「頭で考える他に身体が勝手に動く。そんなこともあるのかと、そう思うと、面白いと感じた」

「そっかそっか!」


ふふふー!とは笑った。


「・・・自分の事の様に笑うんだな」

「えー?だって」


不思議そうに呟いた不破に笑いかける。


「不破が良い方向に変わっていくのが嬉しいんだもん」

「・・・そうか。俺も、お前がそうやって笑うのは嬉しい、と、思う。多分」


きょとん、としたのち、はへらっと笑った。照れているのだろう。やがて授業開始のチャイムが鳴り、不破は席に戻った。
そんな二人の様子を微笑ましそうに、だが半ば呆れながら真弥が眺めていたという。















「で、どうなの?」

「いきなりどうなのよってどうなのよ、真弥」


放課後、試験も間近だからと音楽室へ寄らずに真弥と二人並んで下校中の会話である。


「やけん、不破とはどうげんなっちるんかっちきぃとうと!」

「真弥、方言出てる」

「おっと」


余談だが、真弥は九州の生まれで、小四の時東京に引っ越してきた。
普段は標準語で話しているが、テンションが上がったりすると博多弁がでてくることがしばしばある。


「どうなってるって・・・普通に会話してるよ」

「“普通”?あれが?」

「普通でしょ」


真弥は眉間に手を当ててため息を一つついた。


「・・・何」

「鈍いというか無自覚というか・・・」


やれやれと首を振る真弥に、はむすーっと頬を膨らませた。


「ふーんだ。どーせあたしはニブチンですよー」

「あぁ、ごめん、ごめんって!」

「誠意が足りない」

「ごめんなさい様許してください」

「・・・よし」


お互いに顔を見合わせて噴き出す。


「まぁ焦る事は無いしね。これからゆっくり進めばいいわよ」

「・・・何に進むかわかんないんだけど?」

「それも自分でつかむべきよ」


真弥は言ってぐーっとひとのびした。


「楽しみだわ〜」

「真弥親父くさい」

「失礼ね!」


笑い合いながら、いじり合いながら、二人は並んで歩く。
















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