このさきのこと





















9月中旬。まだ2年の半ばではあるが、進路指導調査表が配られた。志望校もしくは志望企業を書いて提出しなければならない。は紙とにらめっこをしながら唸っていた。


「まだきめらんないわよねぇ。あんた決めた?」

「うー・・・いくつか候補は上げてるんだけど、なんかしっくりこなくて・・・」

「音楽校いくんでしょ?選択肢あんまないんじゃないの?」

「そうなんだけどねー」


なにか、なにか違う気がするのだ。まだオープンスクールに行ったわけでもないからはっきりとは言えないが。うーんとうなっていると、不意に不破が視界に入った。思わず眺めていると、視線に気付いたのか不破がの方を見た。


「どうした?」

「あ、いや・・・不破は高校どこ行くか決めてるの?」

「俺ははとこが経営している高校に行く」

「はとこが経営?」


なにそれすごい、と真弥が目を瞬かせた。


「黒須大学というところだ」

「うわ、有名校じゃない。そういえば若い青年が大学を買い取ったかなんかしたって・・・まさかそれがはとこ?」

「そうだ」


再び真弥がなにそれすごいとこぼした。も驚きに目を瞬かせている。


「確か去年音楽科を設立させたと言っていたが」

「え、そうなの?」

そこはチェックしてなかったんだ?」

「新設だから見落としてたのかも・・・」


とりあえず資料を、とどこからともなく不破が黒須大学高等部のパンフレットを取り出す。確かに音楽科新設と書いてある。設備もよく、ピアノはもちろん楽器の種類も豊富。雰囲気も好みだった。


「行ってみるか?」

「えっ」


じっとパンフレットを眺めていたに不破が言う。ちょうど来週オープンスクールがあるようだ、と。


「・・・行ってみたい」

「ならば行くか。俺も一度見ておきたい」

「うん!」


ぱあっと顔を晴らせ、は再びパンフレットに目を落とした。だがそこでふと気づく。不破と、一緒に?そう考えただけでどきりと胸が跳ねて、なんだかじんわり暑くなる。ちらと不破を見てみるが、彼は特に変わりない。


なら好きってことなんじゃねぇの?


不意に選抜合宿最終日に椎名に言われた言葉が蘇ってきて、は首を振った。どうした?ときいてきた不破にどもりながらなんでもないと返し、机に突っ伏す。不破は首を傾げた後、オープンスクールのことを先生に言いに行った。


「・・・

「・・・なんですか」


顔を上げなくてもわかる。この声は、面白がっている声だ。顔を少しだけ上げて真弥を見れば、ほら、にやにやと楽しそうな顔をしている。


「やっと自覚し始めた?」

「・・・そんなんじゃ」

「いいことじゃない。どうして否定するの?」

「うー・・・」


これが本当にその好き≠ニいうことなのかわからないのだ。肯定などできるはずもない。


は、不破を応援したいんでしょ?」

「・・・うん」

「不破がサッカーが上手くなるの、嬉しいんでしょ?」

「うん」

「不破といると、どきどきする?」

「うーん・・・?」

「じゃあ、不破が他の女子と仲良く話してて、もし不破が楽しそうに笑ってたりしたら、どう思う?」


真弥の質問に頷きで返していたは、ぴたりと動きを止めた。不破が他の女子と仲良くしていたら?楽しそうに笑っていたら?正直楽しそうに笑う不破はあまり想像できないが、に中になにかもやつくものが浮かんだ。


「いま、嫌だって思った?なんかもやもやするって思った?」

「・・・もやもや」

「それ、あんたの仲の良いいとこでもなる?」


きかれ、椎名を思い浮かべる。真弥と椎名は面識は無いが、写真を見せてもらってこれはモテるなと真弥は即座に判断していた。実際椎名はモテる。女の子たちに囲まれている椎名を想像してみたが、特になにも思わなかった。相変わらず人気だなと思ったくらいだった。


「・・・ならない」

「つまり、あんたは不破のときだけ嫉妬してるってこと」

「し、っと・・・?」


というものがどんなものかはわかる。だがそれを自分がしているとは到底思えなかった。


「まぁ実際に起こってみないと実感しにくいかもねぇ。不破が女子と仲良く話すなんて、あんた以外にそうそうないだろうけど」

「・・・・・」

「あとはなんていうか、もっとどきどきするようになったりとか、一緒にいたいって思うようになったら、本格的ってとこかしらねぇ」

「・・・真弥って、すごいね」


はぁ〜と息をつきながら、は再び机に突っ伏した。顔だけ横に向けて、真弥に目だけ向ける。


「すごいっていうか、まぁ、私も伊達に好きな人いるわけじゃないし」

「え!誰!?」

「何その食いつき様は!あんたの知らない人よ!」

「えええなにそれ初耳ぃ!」

「そ、そいは九州にいた頃からんやつやし」

(真弥が動揺してる・・・)


いつも自信にあふれる親友が照れくさそうにしているのを見ては小さく笑った。


「あんたねぇ・・・人のこと笑ってるけどあんただって」

「わ、わかってます!自覚・・・できてるのかよくわからないけど、他の男子とはなにか違う、とは、思って、ます」

「カタコトすぎ・・・」


真弥が呆れ、そして笑った。と真弥が笑い合っている様を、戻ってきた不破はまた首をかしげて眺めるのであった。






















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