選抜選考合宿終了
15時となり、ミーティングの時間となった。この場で、最終的な選考メンバーが発表される。勢いのまま食堂を飛び出したも端の席に座っていた。翼に言われたことが頭の中をぐるぐる回っているが、今はこちらに集中しなくては。
(まったくつっちゃんは・・・でも、どっちにしてもGKは2枠しかないから、不破は・・・)
ちら、と不破の方を見てみれば、いつもと変わらない無表情をしていた。そしてついに、西園寺が声を上げる。
「これからメンバーを発表します。が、その前にひとことみんなに言っておきたいことがあります。落とされたからといって、自分に才能が無いなんて思わないでください」
西園寺の凛とした声ミーティングルームに響き渡る。
「あなたたちはまだ若い。今はまだ途上であって到達点ではないのです。人によって成長する速度は様々です。やる気と努力をおしまなければ、この先いくらでも上手くなるということを忘れないでください。合格した人も今の状態に満足せず上を目指してください。上には上がいるということを、肝に銘じるように。それでは、名前を呼ばれた者から前へ」
目配せされ、が立ち上がる。呼ばれたメンバーに、選抜メンバーのTシャツを渡していった。20人の枠が全て埋まって、受かった者は喜びの表情を浮かべ、落ちた者は悔しさを滲み出している。
(桜上水は水野くんだけ、飛葉は五助くん以外・・・)
やはり同じ学校でも受かった者、落ちた者がいる。だがそこに、西園寺の追加の声がかかった。
「それから、けが人が出た時の補欠として、二人追加になりました。小岩、風祭」
「!」
会場がざわついた。他に落ちた者を差し置いて、という思いもあるのかもしれない。だがむしろこの二人だからこそなのだとは思った。FW向きではあるがまだ型にハマりきっていないこの二人だからこそ、今後の成長を見込んで補欠に組み込んだのだと。小岩にTシャツを渡し、だがやってこない風祭に疑問を思ってそちらを見れば、彼は気持ちよさそうに眠っていた。
(こらこらこら・・・)
あはは、と乾き笑いを漏らし、はTシャツをもってそちらへ向かう。くるりとTシャツを丸めると、水野に若干怪訝そうな顔をされた。にこっと笑ってみせ、すぱんっと寝ている風祭の頭をはたく。
「っへ!?」
「おめでとう風祭くん。ミーティング中に居眠りは駄目だよ?」
「え?え?」
補欠だが合格したことを伝えると、風祭は両拳を振り上げて喜んだ。大丈夫かなぁという思いはあるが、この子なら何か起こしてくれる。そんな気もしていたのだった。
帰り支度。選手達はの姿を見てぎょっと目を瞠っていた。
「お前、それ何?」
「キーボード」
「え、背負ってきたの?」
「うん」
黒川と風祭にきかれ、素直に頷く。きいていた他のメンバーも若干口元を引きつらせていた。
「なるほど、あれだけ重いボトルバッグが軽々と持ち運べるわけだな」
一人だけ妙に納得して頷いていた不破を除いて。
「不破、残念だったね」
「・・・あぁ」
「GK枠って2枠しかないからねぇ。でも、サッカー始めたばかりの不破が選考合宿に参加するの自体がすごいことだったから、次にこんな機会があったら、きっと受かるよ!」
「そう、か?」
「うん。あたし、見る目はあるんだよ!」
えへんと胸を張ってみせると、キーボードの重みで若干ふらついて不破に支えられる。
「・・・不安だな」
「あはは・・・」
返す言葉もない。ありがと、と言うと小さく「ん」とだけ返ってきた。
「、マネ業はもう終わりか?」
「うん、本業に戻るよ」
椎名にきかれて、本業、と言いながら背中のキーボードを軽くさする。
「そういえば、最近はのピアノをきいていないな」
「不破、サッカー部に入ってから音楽室来ること無くなったからね」
さみしいような、嬉しいような。そんな思いが顔に出ていたのか、椎名がまたにやにやとを見た。その顔で、昼休みのときに言われたことを思い出してカッと血がのぼる。
「ちっ、違うからね!?」
「なにも言ってないだろ」
「もう!」
何を突然怒っているんだ?と事情を知らない桜上水の面子は首をかしげ、そんな彼らを置いては歩き出した。
好きなんていう感情はよくわからない。だが不破が気になって、サッカーにのめり込んでくれるのが嬉しくて、つい応援したくなって。そういうのも恋愛感情の好きということなのだろうか。
今まで感じたことの無い想いを自覚し始め、は悩みと戸惑いのため息をついた。
Created by DreamEditor