不思議なコ





















合宿二日目。風祭と藤代が昨日の室内サッカーで少々やらかしたらしく罰走させられている以外は、アップをしてシュート練習、基礎練習、という形になっていた。その練習風景を見守っていたは、なんだか騒がしくなっていることに気づき、そちらに目を向ける。そこにいたのはいままでいなかった人物、だが確か名簿にはいた。えーとと名簿をめくり、彼を出す。


「鳴海貴志、くん」


再びそちらを見れば、西園寺が向かっていた。もとりあえず行った方がいいかなと思い、そちらへかけた。



















「コーチ」



「えっ、なになに、今度こそ女子?マネージャー!?」


西園寺に声を掛けると、上の方から声が降ってくる。確か鳴海は180オーバーのはずだ。25cmも高い相手にかがまれて、少し物怖じしてしまったのは許して欲しい。


、です」

ちゃん!?かーわいいねー!・・・あ?」

「へ!?」


鳴海の手がにのびそうになったとき、ひょいとの身体が動いて、鳴海の手は空振りした。誰かに両肩を掴まれている気がするが、この感じは西園寺でも椎名でもない。誰だろうとおそるおそる首を向けると、ちょっと意外な人物だった。


「・・・不破?」

「なんだよおまえ・・・邪魔すんのかー?」

「邪魔というか・・・なぜだかこうせねばならんと思った」

「はぁ?」


真顔で言うものだから、鳴海も眉間に皺を寄せている。それより両肩が掴まれたままなのだが、妙に近いのだが、とが声をあげようとしたとき、A、B両チームともの招集がかかった。小さく舌打ちし、鳴海が歩いて行く。不破もスッとから手を離し、歩を進めていく。


「あ、あの、不破っ!」

「ん?なんだ?」


足を止めて振り向く不破が、なぜだかいつもと違って見えた。


「その・・・ありが、とう」

「・・・いや」


その「いや」はどういう意味なのか、おそらく本人にもよくわかっていないだろう。そのそれぞれの想いに名前がつけられないまま、二人は招集場所へと向かった。


















鳴海が合流して全員そろった合宿メンバー。午後からはA、B混合のミニゲームを行う事になった。鳴海はどうやら、同じポジションならライバルで潰しあってなんぼだろタイプのようで、風祭へのあたりが強い。そしてその発言に、周りもピリッとした空気になっていた。そうするとボールが回るのは、“確実に点を取ってくれそうな”鳴海で、風祭のほうにはボールがいかなくなっていた。これでは風祭の見せ場がない。だがそれで諦める風祭でもなく、とにかく自分がと前に出ていた。


(風祭くん・・・)


ぎゅっとボードを握る。とそのとき、風祭が鳴海を、抜いた。どうなったのかは傍からだとよくはわからなかったが、一瞬鳴海が風祭を見失ったようにも思えた。風祭のシュートは不破の正面で易々とキャッチされてしまい、そこでタイプアップだ。いまので風祭はなにか掴めただろうか。みんなが成長していくのを見るのはわくわくする。全員分が終わると、のボードも書き込みでいっぱいになっていた。「ヘェ、ヨク見テルネ」とルイスに言われ、は照れ笑いを浮かべた。




















明日はいよいよ、選抜メンバーを決める紅白戦。は自分の事でもないのに緊張していた。部屋でキーボードを弾こうかなと戻っている時、不破と天城に出くわした。


「どこかいくの?」

「風祭を探しにな。飛葉の連中と外に行ったらしい」

「ふーん・・・」


つっちゃんたちとかぁと呟けば、いくか?と不破にきかれる。少し考えた後、いく、と言って、二人のあとに続いた。



















風祭、椎名、五助、六助、柾輝が、なにやらやっていた。風祭と、四角四隅のコーンにガムテープが貼られている。椎名達は風祭からガムテープを外してはコーンに貼り、逆に風祭はコーンからはいで自分に貼りつけているようだ。


「なるほど、そういうことか」

「わかったのか?これの意味が」

「うん、風祭くんにぴったりの武器を会得する練習だよ」

「?」


よくわかっていないのか、二人が首を傾げた。不破はGKで縁が無い事だし、天城は背が高いからこちらも縁がないやり方だ。にっと笑うと、はその四角へ駆け寄って行く。


「いーれーてー!」

「おっ、いいトコに来たな!不破と天城も一緒か」


混ざれ混ざれ!と手招きされ、四角の枠に入る。さすがに三人も増えて風祭も「げ」とこぼした。


「あ、風祭くん、遠慮なくあたってきていいからね。慣れてるから」

「あ、うんっ」


よかった、風祭はあまり気にしないタイプのようだ。身構えて、ゲームが再開された。



















ちょこまかと、視界をすり抜けて、走る。背丈や体格の近い椎名とにはそれが通じず風祭は苦戦したが、なんとか全部のガムテープをはがしおえた。


「お疲れ様、風祭くん」

さん、ありがとう、つきあってくれて」


へら、と笑う風祭に、もへら、と返す。なんだこいつら似たもん同士なのか?と柾輝がこぼしたのが聞こえた。似ている、のだろうかと首を傾げるが、似ているポイントがよくわからなかった。


「・・・確かに似ているかもしれんな」

「え?」


まさか不破にまで言われるとは思っていなくて、はまた首を傾げる。今度は風祭も首を傾げている。


「おまえたちは、よくわからない」

「え、似てるってそういうこと?」

「不思議で、究明したいのになかなかできない」


そういえば不破のサッカー部入部動機は「風祭の笑顔の真相を究明すること」だときいた気がする。なんだその理由は、ほんと不破は変わってるなと言ったら、お前には言われたくないと返されたのだった。


「要は変な奴ってことか」

「つっちゃんまで!」

「翼さん!」


はははと笑って歩き出す椎名に続いてみんな歩き出す。この調子なら明日もきっと大丈夫だろう。緊張していたものなんてすっかり忘れて、も笑っていた。




















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