が立ちあがったのは、激しい爆音と振動があったからだった。飛行竜内の事故かそれとも。事故のものとは何か違うような気もする。だが襲撃されたのだとしたらおかしな点もある。ここは上空だ。この飛行竜以外に空を飛ぶ物はないときいていたのに、なぜ空で襲撃されるのか。人、ではないのだろうか。は気を引き締め、いつでも剣を抜けるようにした。
勢いよく扉が開かれ、誰かが重物庫に入ってきた。暗がりによく目を凝らしてみる。金の長髪、青い瞳、白い鎧の、よりいくつか年上と思われる青年だ。明らかに飛行竜のクルーではない。襲撃者の一味かもしれないとは警戒心を持つ。青年はルキを目に留めると、一目散に走り寄ってきた。
「こ、ここに武器はありませんか!?」
だが突拍子にきかれ、は一瞬怯んだ。敵ではない、のだろうか。
「何者、ときくのは後にするけど・・・状況を教えてくれます?」
「え、えっと、いきなりモンスターの大群が襲ってきて、沢山の、人が、殺されて・・・」
彼は悔しそうに顔を歪め、ぐっと拳を握り締めた。
「武器も何もなくて、何もできなくて・・・だから、武器を探しているんだ!」
青年はルキを真っ直ぐな瞳で見ている。曇りのない、嘘偽りのない、澄んだ真っ直ぐな瞳。
(どうやら襲撃者ではないみたいだな。大事なものだけど、他に武器を探せる状況じゃなさそうだし・・・この人になら、ひとまず任せても大丈夫かな。悪い人じゃなさそうだし)
はソーディアンを一瞥した後、青年に向き直った。
「あなた、名前は?」
「スタン・エルロン!」
「私は。スタン、今から渡す物を、絶対に悪用しないと約束できる?」
スタンはなんのことかときょとんとしたが、すぐに力強く頷いた。そこに確かに決意を感じ、はソーディアンへ手を掛ける。
「じゃあ、これを使って」
鎖を外して、重みのあるソーディアンをスタンに手渡す。スタンはそれを受け取ってじっと見つめた。
「なんか、古ぼけた剣だなぁ」
『古ぼけていて悪かったな』
「へ!?」
「えっ?」
突然聞こえてきた声に驚き、スタンはきょろきょろと辺りを見渡した。もまた驚いてはいたが、その目は自然にソーディアンに向いていた。
「眠ってたんじゃないの?」
『この男が来たあたりから目覚めていた』
「え、ちょっと待って!これって誰の声!?」
「それ」
が指さしたのは、スタンが手にしているソーディアン。スタンは目をまんまるくして自分の手の中にある剣を凝視した。
『“それ”だと?いくら剣の身であっても、“それ”扱いをされるのは不愉快だ!』
「え・・・えぇ!?剣が喋ってる!?」
(遅っ)
はスタンの鈍さに呆れた。天然なのだろうか。
「で、あなたはどのソーディアン?大剣ということはディムロスかクレメンテなんだろうけど」
『ディムロスだ。ん?そういえばおまえ、なぜソーディアンのことを・・・』
今更ながらにディムロスがきく。ソーディアンは世間一般常識で伝えられるものではないと、封印前に話していたのかもしれない。
「文献で読んだのと、上司がマスターってのと、ふたつ理由がある」
『なんだと・・・?』
「あ、ぐずぐずしてる暇はないみたい。ほら」
が示した入口の方に数体のモンスターがいた。どうやらすでに内部にまで侵入してきているようだ。
「墜ちるのも時間の問題、か。ディムロス、スタンにソーディアンの使い方教えてあげて」
「え、この剣特別な使い方とかあるのか?」
「ただ喋るだけじゃないんだよ」
『お前はどうする気だ』
「時間を稼ぐ。じゃ、頼んだ」
言うなりは剣を抜き、モンスターに向かって突っ込んでいった。
一匹・・・二匹・・・確実に倒していく。この際レンズなんて気にしてはいられない。だがモンスターはどんどん重物庫の中に入ってきて、倒しても倒してもキリがない。そこへ。
『「ファイアボール!」』
二つの声が重なり、火の球がモンスターを襲った。モンスターが一度に二体消え、レンズが転がる。スタンとディムロスの晶術だ。
「俺も戦うよ!」
は頷き、隙だらけになったモンスターに斬りかかって行った。
ふぅ、とスタンが一息つく。重物庫付近のモンスターはなんとか片付いたようでだ。
『脱出ポッドはどこにある?』
「甲板。急ぐよ、スタン!」
「ちょ、待ってくれよ、ルキ!」
とスタン、そしてディムロスは、甲板へといそいだ。