試される力
朝は少し早めに目が覚めた。初めての異世界で初めての場所なのにぐっすり眠れるとは、自分は案外図太い神経をしていたようだ。
―――・・・
「・・・?」
不意に外から声が聞こえてきた。が窓の外を見てみると、庭で稽古をしているリオンが目に入った。ただ真っ直ぐ、強く、鋭く、剣を振るっている。そんなリオンを見て思わず口元が緩んでしまった。自分の力が試され、その内容によって採用か否かが決まるのだというのに、楽しみで仕方がない。結局は、マリアンが朝食に呼びに来るまで眺め続けていた。
正午となった。とリオンが数メートル離れて対峙している。二人ともすでに剣を手にしており、いつでも始められる体勢にある。審判を務めるのはヒューゴだ。
「よし・・・始め!」
それを合図に、二人が同時に踏み出した。キィィンと剣と剣がぶつかり合う音が響く。何度も打ち合い、金属がぶつかり合う音が幾度も響く。なかなか、どちらが優勢、というころにもならない。現時点ではほぼ互角だった。
(キリがないな)
間合いを取り、どうやってケリをつけるか考える。その一瞬の隙をリオンは見逃さなかった。
「しまっ・・・!」
普通に構えなおしたのでは間に合わない。かといってこの勢いを中途半端に受け止めるのは無理だ。はとっさにいつも刀でしているように、自分が使っている“両刃”の剣を“両手”で支え、リオンの斬撃を受け止めてしまっていた。
「・・・ッ!」
細身の刃が手の平に食い込み、刃を支えている左手から赤い鮮血が流れる。苦痛に顔が歪むが、なんとかリオンの剣を弾き返した。
(はやく決めないと、もたない)
は意を決し、剣を鞘におさめて構えなおした。半身腰を引き、体勢は低めに。刀以外で“これ”をやるのは初めてだ。上手くいく保証など無い。リオンはが刀をおさめたことに少々戸惑ったが、再びに斬りかかった。そしてちょうど間合いに入った時。澄んだ、甲高い金属音が響いた。素早く鞘から剣を抜き放ち斬撃を与える、の特技、居合い。それがリオンの剣を弾き飛ばしたのだった。彼の剣が地に転がる。
「そこまで!」
ヒューゴの一声でとリオンは構えを解いた。緊迫していた空気が落ち着きを取り戻す。
「君の実力はわかった。ルイとは違うという事も。ルイは居合いが得意でなかったからな」
は軽く頷いた。の母ルイはどうにも居合いが不得意らしい。
「どう働いてもらうかは追って知らせるが、これで君はもうオベロン社の一員だ」
ヒューゴは満足そうに頷くと、屋敷の中へと入って行った。
ヒューゴの背を見送ると、一気に気が抜けた。頭が、目が、ふらふらちかちかする。ぽたり、と左手から雫が落ちるのがわかった直後、ふっとスイッチが切れたかのようにの身体が傾く。
「なっ・・・!」
リオンが咄嗟に手を伸ばして地に着く前に受け止めた。の顔から血の気が引いている。
「あ・・・ごめん。大丈夫、だから」
「大丈夫そうには見えんが」
「はは・・・そう、かもね・・・」
「・・・おい。おい!!」
遠くでリオンの声をきいて、「あ、初めて名前呼んでくれたな」なんて思いながら、は意識を手放した。
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