ふたつの優しき光
「はぁー―・・・」
という大きなため息がすぐ近くで漏れた。
「何故僕がこいつと手合わせを・・・」
と、リオンが文句をこぼしている。
「決まったことは仕方ないじゃん。諦めて相手してよ」
「元はと言えば、お前があんなことを言うからだろうが」
そしてまたため息。
「・・・嫌なんだよ。『ルイの娘だから』とか言われるのは」
「まぁ・・・僕も逆らってまで拒否する理由はないからな」
そこで背を向けたのは何故だろうか。
「部屋へはマリアンに案内させる。剣はどんな型がいいんだ?」
「本当は刀が一番良いんだけど、無ければリオンみたいなのがいいな。レイピアじゃないけど、細身の剣」
「(刀・・・)わかった、用意しておく」
リオンは“刀”にひっかっかりを覚えながらも承諾し、さっさと歩き出した。
「リオン」
そんなリオンに追いつき、が後ろにつく。
「いろいろありがとう」
「・・・別に。放っておいても勝手についてきそうだったからな」
歩くのが速くなったのは照れ隠しかなと勝手に解釈してみる。さっさと歩いていくリオンのあとを、は急ぎ足で追った。
あれから30分くらい、マリアンを探し歩き回った。
「こんなところにいたのか、マリアン」
「探してたの?ごめんなさい、今のうちに掃除しておこうと思って」
探し当てた所は、リオンの部屋だった。物がほとんど無い、良く言って質素、悪く言えば地味な部屋だ。
「もう終わったから出て行くわね。・・・あら?」
マリアンは、部屋の入口にの姿を視認して、しまったと言うような顔をした。
「申し訳ありません。リオン様はこのままお部屋の戻られますか?そちらの方は・・・」
「マリアンは部屋まで連れて行ってくれ。それから、こいつの前では“普通”でいい。こいつに対しても、だ」
「あ、あら、そう?でも・・・」
マリアンは少々遠慮しがちにを見た。
「“普通”っていうのが景吾敬称無しって事なら、それで構いません。年上の方に敬語使われるの、なんか違和感があるので」
「・・・そう?なら、あなたにも“普通”にするわね。えっと・・・」
「あ、私、っていいます」
「私はマリアン。ここのメイド長をさせていただいているわ。、私にも“普通”にしてくれる?」
「わかった」
にこりと笑う間リアンにつられ、も笑った。
他のメイドとの態度の違いといい、リオンとマリアンがどんな関係なのかはわからないが、リオンが心を許している相手なら、いい人なのだろう。
「それじゃあ案内するわね。といっても、ここの隣になると思うけれど」
「え、そうなの?」
「えぇ。出て右よ」
は言われたとおり、出て右の部屋に入った。続いてマリアンも部屋に入ってくる。部屋は、隣なだけあってリオンの部屋と造りがほぼ同じだ。
マリアンに屋敷内での過ごし方などについて聞く。
「何か欲しいものとかがあったら遠慮なく言ってちょうだいね」
「うん。でもとりあえずはいいかな。まずは明日を乗り越えないと」
ぐっと拳を握りしめる。まだ採用と決まったわけではないのだ。
「おい」
ドアの方から、いつの間にか来ていたリオンに声を掛けられる。不意に投げられたそれを、は難なくキャッチした。
「明日の手合いにはそれを使え」
それだけ言うとリオンはさっさと自室に戻って行く。
「私ももう行くわね」
「うん、ありがとう」
マリアンはにこりと笑って出て行った。それを確認し、は腕の中にある細身の剣を眺める。
「さっき言ってたの、もう用意してくれたんだな・・・」
彼の密やかな優しさが感じられ、は嬉しさで頬をほころばさせていた。
窓を開けると心地よい風が入って来た。窓からはこの屋敷の庭が見える。3、4人が剣を振り回しても問題無さそうなくらい広い庭だ。
「慣らしておくか」
は剣を手にして庭に出る事にした。
生き方を途中でメイドにきき、庭に出た。軽く準備体操をして剣を抜く。何度か素振り、イメージトレーニングをし、感覚を掴む。
刀ほどの使いやすさはないが、使いにくくもなさそうだ。振い方が刀の型になってしまうのが少々難点だが、致し方がない。
「大丈夫、いける」
勝負は明日の正午。は明日に備えて休むことにした。
Created by DreamEditor