母を知る者、旅人の処遇
何故だかわからないが、見た事の無い文字なのに、読める。この街は『首都ダリルシェイド』というようだ。
スタスタ歩いていくリオンの後を追いながら街の様子を見る。首都と言うだけあって栄えているようだ。
不意に、リオンが大きな屋敷の前で止まった。
「ここはオベロン社総帥、ヒューゴ・ジルクリフト様のお屋敷だ。剣が使えるのなら、おそらくお前を使ってくださるだろう」
使うという言い方に反感を覚えるが、リオンは気にする様子など欠片も無く扉を開けた。
「お帰りなさいませ、リオン様」
出迎えたメイドに、リオンは目も向けず「あぁ」とだけ返す。
「マリアンはどこにいる?」
「メイド長でしたら・・・」
「お帰りなさいませ、リオン様」
メイドが答えようとしたところを、奥から出てきた黒髪の女性が遮った。
「マリアン」
「メイド長」
「あなたは自分の仕事に戻っていいわよ」
「はい」
メイドはリオンに一礼すると、小走りで屋敷の奥へと姿を消した。
「マリアン、ヒューゴ様はどこにおられる?」
「書斎におられるかと」
「わかった。行くぞ」
「あ、うん」
明らかに最初のメイドに対してと態度が違う。歩いていくリオンを追いながらマリアンを振り返ると、マリアンはに向かって淡く微笑んだ。
“書斎”と書かれたドアの前でリオンは止まった。ここに、“オベロン社”とやらの総帥の“ヒューゴ様”がいるはずだ。
リオンがノックすると、中から「誰だ?」と返って来た。
「リオンです」
「・・・入れ」
リオンは「失礼します」と言ってドアを開け中に入った。目で促され、も入る。
「何か用か?」
部屋の奥で背を向けたまま、彼は言った。
「有力になると思われる人材を拾ってきました」
(私、拾われたんだ?)
力を評価してくれるのはありがたいが、言い方に文句の一つでも言ってやりたい。ヒューゴはやっと二人の方を向き、を見て軽く目を瞠った。
「君は・・・」
「?」
ヒューゴは何を思ったのか、立ち上がってに近づき、じっとの顔を覗き込んだ。
「あの、なにか?」
「その、カラコンを外してくれないか?」
「え。はい、いいですけど・・・」
よくカラコンに気づいたなと思いつつ、ヒューゴに背を向けて目に手をそえる。
そのままカラコンを外そうとしたが、じっと見てくる視線に気づいて手を止めた。
「そんなに、見ないでよ」
「・・・・・」
興味が引かれたらしい。咳払いを一つして、リオンはから目を逸らした。
カラコンを外して、何度か瞬きをする。ポケットに入れたままのケースにカラコンをおさめてヒューゴに向き直った。
リオンはを見て目を丸くしているが、ヒューゴは妙に納得した様子だ。
「やはりな。そのアイスブルーの瞳を見て確信した。君は、ルイの娘だろう?」
「え。は、はい。といいます。なぜ、母の事を?」
「ルイは私の友人なんだ。君はルイによく似ている」
は、あぁここにも来たのか、と普通に納得していた。顔が似ていると言われるのは普段からである。
「君も“異空の旅人”なのだろう?」
「はい」
「異空旅人?」
リオンがついこぼすと、ヒューゴはリオンを一瞥し、に向き直ってから「そのうちにきくといい」とだけ言った。
「いろいろい大変だっただろう?」
「まぁ・・・でも、リオンが助けてくれましたから。ね、リオン?」
「・・・・・」
リオンは目を合わせはしたものの、何も言わずにすぐにそっぽを向いてしまった。
「部下にする件は賛成だ。ルイの娘なら、剣の腕も確かだろうからな」
その言葉は、にとって不快なものだった。
「お言葉ですが、私と母は違います。部下にしてくださるかどうかは、私の実力を見てから決めてください」
の言葉に、リオンもヒューゴも少なからず驚いた。
「ほぉ・・・そうだな・・・君の言い分はわかった。では明日の正午、リオンと手合わせをしてもらおう」
「「え」」
「それから改めて、採用不採用を決めよう。それでいいかね?」
「え、あ・・・はい。わかりました」
「では、いい結果を期待している。・・・さがれ」
「は」
リオンが一礼するのを見てか見ずにか、ヒューゴはさっさと背を向けてしまった。
二人はその背を見て、ヒューゴの書斎をあとにした。
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