神子の行方は何処に




















梓が帝都東京に召喚されて、4日目の朝。今日はきちんと梓も朝食の時間に降りて来て、そこには政虎の姿もあった。

「おはよう、ダリウス」

「おはよう。もうじき朝食だよ。座っておいで」

「うん」

ダリウスにうながされ、梓は昨日も座った席へと移動する。

「虎は、目を開けておきなさい」

「・・・ふあ」

(あくびで返事してる・・・)

政虎は朝が弱いのだろうか。梓がそんなことを思っていると、ルードハーネと、準備を手伝っていたが朝食を運んできて、一日が始まった。














計画のため、梓を元の世界へ返すため、怨霊討伐は続けていかなければならない。毎日毎日怨霊退治は続けていかなくてはいけないが、それでは途方もなく、気から疲れてしまうだろう。そこでダリウスから目標討伐数を掲示され、まずはそこを目指すことになった。今日からはダリウスとも同行できるようになる。梓が二人選んで同行するという形だ。だがそこにの名もあることに、梓は驚いた。

も戦うの?」

「あら、意外?」

「意外、といえば意外・・・どうやって?」

「私はコレで」

ス、と懐から出したのはひとつの扇。だがこれはただの扇ではなかった。小さく首を傾げた梓の手にその扇を乗せてやると、彼女は途端に目を瞬かせた。

「重いし硬い・・・?」

「鉄扇だもの」

「鉄扇・・・鉄でできてるってこと?」

「そうよ。だから殴ったり突いたり、思うままってね」

ひら、と鉄扇を手にして軽く立ち回って見せる。それを見て政虎が小さく舌打ちした。

「ちょこまか動いてつかまんねぇんだよな・・・」

「虎くんと手合わせすると半々よね〜」

「え・・・すごい」

政虎は強い。それは昨日一緒に怨霊討伐をしてこの目でしっかりと見ている。その政虎と、手合わせをして勝率が半々だとは。

「うるせぇ。曲芸師みたいにちょろちょろしやがって」

「そんなの、力で敵わないんだからちょろちょろするに決まってるじゃないの」

何を言っているの?と言うと、政虎は言い返せないらしく唸った。どうやら口ではの方が上のようだ。

「それで、梓。今日の供は、誰にする?」

そろそろ動き出さなくては。梓は四人を見て、口を開いた。

「それじゃ―――」



















は、街中を歩いていた。ただし、一人きりで。

「結局選んでくれないんじゃないの」

梓が今日供に選んだのはダリウスとルードハーネだった。戦えるという話をした矢先から選んでもらえなくて、少々ご機嫌斜めである。気分転換もかねて街を散策していた。いつも通り、人が行き交う煉瓦街。そこでふと、街の人々とは違う装いの人物達が目に入った。

(・・・精鋭分隊)

精鋭分隊は、怨霊退治を行うことができる、通常とは少し違った力量を持つ者達で構成された部隊だ。隊長の有馬一は、それは腕のたつ青年なのだという。また、精鋭分隊は怨霊によって出た被害にも親身に対応し、街人達の評判もいい。の視界に入ったのは、軍服の青年と、軍服に他の者達とは違う白いコートを一枚重ねた青年の二人組だった。

(隊長の有馬一と、副隊長の片霧秋兵、ね)

どうやら二人は街の人達に何やら聞き込みをしているようだ。精鋭分隊と鉢合わせるのは今後の行動にも差し支える可能性がありあまり良くない。はそっとその場を立ち去るために足を踏み出しかけたが、あいにくあちらの方が、はやかった。

「あっ、そこをゆく金の髪の美しいお嬢さん!」

「・・・・・」

なんと真っ直ぐで歯の浮くような言葉だろうか。だがこの褒め言葉にも多少は慣れてきた。念の為辺りを見渡し、自分以外に金髪の女がいないことを確認して知れず息をつく。駆け寄って来た秋兵は、「気づいてもらえてよかった」と笑った。

「えっと、日本語は大丈夫ですか?」

「・・・えぇ、大丈夫です」

どうやら西洋人だと思っているようだ。秋兵は手に持った紙を数秒見つめた後、「違うか」と呟いた。

「何か?」

「あぁ、いえ。探している人がいるのですが、どうやら貴女とは違ったようです」

「人探し、ですか」

思わずピクリと指が震えた。精鋭分隊を設立させたのは、星の一族である萩尾九段だ。もしかしたら九段が精鋭分隊に頼んで“神子探し”をしているのかもしれない。

(確認する必要が、ありそうね)

カルミアは不信感を与えないよう、できるだけ自然に、小さく息を吸った。

「そちらはもしかして、人相書きですか?」

「えぇ、そうです」

「もしよろしければ見せていただいても?見た事があるかもしれませんし」

「そうですね、ぜひ」

秋兵は疑う余地すらなく、手にした紙をにも見えるようにおろした。これで彼らが捜しているのが梓か確認できる。だがは、その紙に描かれたものを見て、思わず目を瞬かせた。

「え、っと・・・」

「わかり・・・ますか?」

「そう、ですね・・・これは・・・少し」

いや、だいぶ、わからない。お世辞にも上手いとは言えない人相書きに口元が引きつりそうになるのを必死に堪える。かろうじて把握できるのは髪型で、おそらくそれは、やはり梓であろうと思われる、きっと。となるとそれを描くことができたのは、召喚の儀式の場にいた軍人と萩尾九段のみ。軍人たちが描いたのか、九段が描いたのか。なんとなく、気になってしまうだった。

(もし萩尾九段なら・・・なんて絵心の無い人なの)

風景写生が好きで得意なにはなんとも言えなかった。

「そう、ですよね・・・・・九段殿、やはりこれでは見つけるのは難しそうです・・・」

後の言葉はただの小さな独り言だったのだろうが、にはきこえてしまった。やはりこれを描いたのは九段のようだ。

「お役に立てずすみません」

「いえ、こちらこそ、お引止めしてしまい申し訳ありません。ご協力ありがとうございました」

綺麗な一礼をして微笑んだあと、秋兵は踵を返して歩いて行った。彼の姿が遠くなったところで、は一息ついた。どうやら怪しまれずに済んだらしい。

「・・・星の一族は梓を捜してる」

軍が、とまで言わないのは、動いているのが精鋭分隊だけだった場合は話が別になってくるからだ。は少し思案したあと、一人で考えても仕方がないと、邸への道を歩き始めた。





















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