予言のはじまり、神子召喚




















―――長きをもって栄えし世にも 終末が来る

水を失い 月も消えれば 龍神の神子が舞い落ちる

神子は八つの葉を求め 龍の御世を望むが その願いは叶わない

昏くも明るき空の下 白光が時の外まで飛び

―――そして 龍神の裁きが下されるだろう



















「・・・・・また、その予言書かい?好きだねぇ」

星が広がる空の下、屋根の上によっつの影があった。

「ふふっ、だって面白いよ。これが本当なら、計画は間違いなく成功だ」

暗闇に金の髪が揺れる。

「水を失い、月も消えれば、龍神の神子が舞い落ちる・・・・・水無月の新月」

低い場所で、同じように金が揺れた。

「・・・そう、だからこそ、今宵は急ごう。龍神の神子が、俺たちを待っているんだ。遅れるわけにはいかないよ」

「はい、兄様」

よっつの影が動いた。これから彼らは、大義を持って、世を動かす所業を成すのであった。


















龍神の神子を迎えに″sくのはダリウスと政虎の役目。カルミアとルードハーネは人目につかない場所から建物を見張り、待機していた。

「ねぇ、ルード」

「なんですか?」

「龍神の神子って、どんな人なのかしら?」

「さぁ・・・予言や伝承には、そういったものはほとんど記されていませんから」

建物から目を離さないようにしながらルードハーネが答える。

「けれど、兄様が興味を示す人だもの。きっと、素敵な人なんでしょうね」

もまた建物に目を向けた。今、あそこで龍神の神子召喚の儀式が行われている。二人はダリウスと政虎が龍神の神子を連れ帰るのを、待つのであった。


















しばらくして、がパッと顔を上げた。

「兄様」

そしてその声の直後、彼女らから少し離れた場所に、みっつの人影が落ちる。ひとつはダリウスに抱きかかえられていた。

「ダリウス様!」

「兄様、おかえりなさい!」

「ご苦労だったね、ルード、。もう引き上げの時間だ」

二人が駆け寄ると、ダリウスはねぎらいの言葉をかけて頷いた。

「兄様、その子が・・・?」

「あぁ、龍神の神子だよ」

はダリウスの腕に抱えられた少女をじっと見た。見た所、歳はとそう変わらない。変わった装いの、だがごく普通の少女に見てとれた。

「・・・・・失望しました」

こぼしたのはルードハーネだった。その言葉にダリウスが小さく首を傾げて「なぜ?」と問う。

「・・・だって、見れば見るほど、なんの特徴もありません」

「ふっ、手厳しいね、ルードは」

正直もルードハーネに同意だった。特別な空気を纏っている、とかそういったものものない。まだじっと少女を観察していると、彼女はダリウスの腕の中で「んんんっ!」と唸った。よく見れば、その口がダリウスの手で塞がれていた。

「・・・っと、そうだ、そろそろ離してあげないと」

やっと思い出したかのようにダリウスはその手を掴んだまま、彼女を地へと下した。彼女はやっと息がつけたかのように安堵し、だがまっすぐと四人を見つめた。

「それで、この後は邸にすぐ戻ると思っていいのでしょうか」

「ああ、遅めの晩餐会としようかな」

ルードハーネの言葉にダリウスが頷く。油断が生じたか、彼女の方が一枚上手だったか。少女はダリウスの手をつねると、手がゆるんだ隙に駆けだした。

「あっ・・・」

「逃げたぜ」

「あら・・・度胸あるわねぇ」

「噛みつくとはね・・・なかなかお転婆な猫だ」

三者三様ならぬ四者四様の反応。兄妹はどこか楽しそうな表情だ。

「自分の目で現実をわからせるのも悪くない。少し・・・泳がせようか」

少女の後ろ姿が遠くに見える。追いつこうと思えばすぐに追いつけるし、すぐに捕まえられる。彼女の向かった先は東京駅。龍神の神子を連れ出した鬼一行は、余裕の表情で次の行動に出るのであった。



















東京駅に辿り着いた彼女は、その“異形”に声を掛けていた。その様を見てルードハーネがため息をつきながら近寄って行く。その様子をダリウス達ははたから見物していた。ルードハーネが武器を手にし、怨霊と向き合う。少女もまた、小型の銃を手にしていた。

「へぇ、あれが龍神の力?」

「だろうね」

銃を扱ったことがないのか、少女の構えは歪である。だがそれでも引き金を引き、怨霊を滅していった。そして、彼女の身に異変が起こる。

「・・・陰の気が」

「弱まった、ね。あの子が取り込んだんだろう」

「あれが、黒龍の神子の力・・・」

少女はルードハーネと何やら言葉を交わしたあと、地面に座り込んでしまった。突然のことに、力が抜けたのかもしれない。ここまでかな、とダリウスが歩き出すのに、も続いて歩を進めた。

「鬼ごっこはもうおしまい?」

「あ・・・」

「怨霊を倒したのは見せてもらったよ。見事な戦い振りだった。・・・で、地にへたり込んだりして、今度はどうしたのかな?」

「ダリウス様、それが・・・」

口を挟んだルードハーネが事の説明をする。少女は「東京駅はわかるが怨霊は知らない」らしく、それをきいたルードハーネが「龍神に異世界から召喚されたのでしょう」と少女に告げたところ座り込んでしまったという。それをきいたダリウスは、「ふぅん」と漏らした。

「少し身なりが特殊だと思っていたけれど、それでかな」

「変わってるけれど、可愛いわよね」

が身をかがめて少女を見るが、少女は顔を歪めて俯いてしまった。突然異世界から連れて来られたので仕方がないといえばそうなのだが。だが少女はすぐにぐっと堪えて顔を上げた。

「涙をこらえる様はけなげで、美しいね」

ダリウスはそう言って微笑むと、少女の手を掴んで立たせた。

「えっ?離して・・・!」

「疲れただろう?違う世界に連れてこられて、慣れない戦いもして。今夜はもう何も考えず、ただ眠ってしまいなさい。寝心地のよいベッドを用意してあげるから」

「な、何を・・・」

ダリウスの言葉に、少女は戸惑いと困惑を隠せずにいる。だが気にすることなくダリウスは続けた。

「ルード、、先に行くけど、いいかい?」

「どうぞ。虎と合流してから帰りますので」

「私も異存ないわ、兄様」

二人の返事をきくと、ダリウスは少女と共に姿を消した。鬼の一族が持つ能力、空間移動だ。兄と少女の姿を見送り、は「それじゃ」と声を出した。

「虎くんを回収して、私達も帰りましょうか」

「そうですね」

ルードハーネと並び歩き出す。道中で政虎と合流し、三人は鬼の住む蠱惑の森へと引き上げた。

(黒龍の神子、か。どんな子なのかしら。同じ年頃みたいだし、話をするのが楽しみだわ)

そして、これからのことも。 は空を見上げ、隠れた月と星を、広い大空を想像し、笑みを浮かべたのだった。




















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