それは、相容れぬ存在





















それから何度か、たびたび甘味処や喫茶店で、彼と遭遇した。お互いに甘いものに目が無いことを知った。「気が合うな」と言われれば、くすぐったく感じた。だが、その想いも、長くは続かなかった。いや、初めからにはわかっていたのだ。身体的特徴はきいていた、気の巡りでもなんとなくわかった。だがそれでも、このいっときを、無かったことにはしたくなかったのだった。



















もうすぐ“その日”が来る。は高揚する気を抑えるべく、気分転換に川へと訪れていた。川辺にある岩にのぼり、遠くを見つめていた。周りに気をはっていなかったからか、近づいてくる気配にも気づいていなかった。

「こんなところでぬしに会うとはな」

「!?」

後ろからもう聞き慣れてきてしまった声で話し掛けられ、は勢いよく振り向いた。

「っ、危ない!」

その拍子に足を滑らせ、身体が浮く。大きな音を立て、の身体が川へと落ちた。

「った〜・・・」

幸い浅いところで、尻もちをついただけですんだ。打ったおしりをさすっていると、砂利の音を立てながら彼が川辺へと小走りに寄って来るのがわかった。

「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫よ、おしりを打ったくらいだから」

川辺でおろおろしている姿が、どこかおかしく感じた。だがすぐに、彼の行動に、身をかためてしまう。

「さぁ、掴まるといい」

手を、差し出してきたのだ。自分で唇が震えるのがわかった。川水の中で、指が震えるのがわかった。そして、思わず手を出しかけてしまったことも、自分でわかった。

(何をやっているの、私は)

自分で自分が、馬鹿らしくなってしまった。ふ、と小さく笑みを浮かべ、視線を落とす。

「何をしている、手を」

「だめよ、せっかくの着物が濡れてしまうわ」

「そんなもの・・・女子が全身ずぶ濡れになっているというのに、気になどしておれぬ」

あぁ、なんて優しいの。その優しさが、今はとても痛い。

は「大丈夫よ」と言って立ち上がった。そのまま彼の横を通り過ぎて川から上がる。

「・・・ありがとう」

その消えそうな声は彼に届いたかわからない。その切なげな表情は、彼に見えたかわからない。彼が制止の声を上げるのをきこえない振りをして、その場を去った。ひと気のないところまで行くと、空間移動で蠱惑の森の中まで跳ぶ。そして、呆れの混じった息を吐いた。

(まったく、とんでもない人に惹かれてしまったものね、私は・・・。・・・・・帝国軍相談役、星の一族・・・萩尾、九段)

自分達、鬼の、敵。

は苦笑を浮かべ、またその動揺やかなしみが兄や仲間に知れないよう、落ち着きを取り戻すため、ゆっくりと邸への道を歩いた。





















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