あつくなった頬を、冷たさで冷ました




















は時折街で買い食いをするのが好きだ。それは菓子だったり、惣菜だったり、様々である。最近はとくに、日比谷公園に毎日決まった時間に出るアイスクリンので店がお気に入りだった。今日もアイスクリンを食べようと日比谷公園を訪れたであったが、出店の前で財布を開けて固まった。

(・・・足り、ない・・・)

そういえば昨日少し贅沢な買い物をしたんだった、と思い出して肩を落とす。は少々金遣いが荒いことがあり、金銭管理は兄ダリウスの従者であるルードハーネにきっちりとされている。一度帰ってお金をねだっても、簡単には渡してくれないだろう。第一せっかく目の前にあるのに退くのも嫌だった。しかし金銭が足りないのは事実なわけで。常連のがアイスクリンを前に財布と睨めっこをしている様子を見て、店の主人は状況を把握していた。常連だしきちんと払う子だとわかっているからツケにしておいてもいいがさてどうしたものかと主人が思っていた時、に陰が落ちた。背の高い人陰はすっぽりとを覆い、主人に「アイスクリンをふたつ」と言って受け渡しをした。は、隣を見て目を見開いた。風変りな和装、物腰柔らかな立ち姿、色素の薄い髪。それは先日、が街中で目を惹かれた青年であった。

(なん、で)

こんなところで、こんなかたちで。真っ白になちながら目を瞠っていただったが、つい、と目の前に白い物が差し出され、今度は目をぱちくりと瞬かせた。

「ほれ」

「・・・え?」

「食べたかったのであろう?」

古風めいた口調、柔らかな声色で彼が言う。なん、で。かろうじてそれだけ漏らすと、彼はふふっと笑った。

「あまりに物欲しそうな顔をしていたのでつい、な。自慢ではないが、我が人に奢るなど、そうあるものでは無いぞ」

「はぁ」

突然の事に、思わず間の抜けた声が出る。物欲しそうな顔。そんなに物欲しそうだっただろうか。

「でも、受け取れません」

「案ずるな、我の気持ちだ。ここのアイスクリンは美味だからな。溶けてしまう前に食すといい」

「・・・」

どうやら本気らしい。は小さく「ありが、とう」と言って、溶けそうになっておりアイスクリンを口にした。ひんやりと冷たく甘い物が口に広がり、一気に幸せな気分になる。だがすぐに視線を感じてはっと我にかえり、ちらと彼を見た。にこにこと笑顔でを見ながらアイスクリンを頬張る姿に、心が揺れた。

(なん、なの・・・)

気づかれないようにさりげなくぎゅっと胸のあたりを掴み、動悸を抑える。火照った顔を冷ますように、アイスクリンを頬張った。





















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