再び会えた喜び





















将臣と別れ、いよいよ本宮大社に入る事になったのだが。


「つ・・・っ!!」


バシッと何かが弾かれる音がしたと思いそちらを見てみると、敦盛が手を押さえて苦痛に顔を歪めていた。


「どうしたんですか、敦盛さん?」


心配そうに望美が敦盛を見る。


「どうやら私は、これ以上進めない様だ」


他の人たちは入れているのに、敦盛だけ、拒まれたのだ。本宮を覆う聖なる結界に。


「私は、もう・・・入る事は出来ない。穢れた存在だから」

「・・・・・」


は、自分で眉が動くのがわかった。敦盛は言う。自分は外で待っているから、構わず進めと。


「でも・・・」

「・・・私が一緒にいるから、行っておいで」

さん」


が敦盛の隣へ引き返す。


「敦盛と話したい事もあったし。別当との話は、私抜きでも大丈夫でしょう?」

「うーん・・・」

「そうですね。では、行きましょうか」

「弁慶さん」


まだ納得できていない望美に弁慶が言う。すると望美も渋々頷き、敦盛とを除く一行は、本宮大社へと向かって行った。




















皆が行った後、二人はどちらからともなく歩き出した。行きついた先は、本宮の近くを流れる小川。手を浸けると、夏だというのにひんやり気持ちが良い。


「昔はこの川でもよく遊んだね」

「・・・あぁ」


敦盛も懐かしそうに目を細めている。は小川から目を離さないまま、「ねぇ、敦盛」と切り出した。


「“穢れ”って、やっぱりアレなの?」

「・・・ッ!!」


敦盛の目が大きく見開かれ、顔を歪めて俯く。そんな敦盛の様子を一瞥して、はまた小川に目を戻した。


「・・・そっか。そうなの、ね」

「・・・・・」


小川に映ったの顔には、悲しみが浮かんでいた。


「・・・訃報を聞いたときは、まさか、と思ったわ」

「・・・・・」


敦盛は黙っている。パシャン、と手で水を弾き、は続けた。


「でも、本当なんだって、事実なんだって言われて、受け入れるしかなかった。だから・・・望美が三草山であなたを助けた時は、とても驚いたの」

「・・・・・」

「敦盛」


立ち上がってくるりと振り向き、少しだけより低い頭に右手を置く。


姉様・・・?」

「私はね、敦盛」


その表情は、いろいろな複雑なものが混ざっている。


「またあなたに会えて、嬉しいわ」




例え、あなたが怨霊でも。




の言葉に敦盛は切なげに顔を歪め、俯いた。ぽたり、とひとしずく地に落ちたが、それは大地が吸い込み、消えていった。




















本宮大社に入れない敦盛と共に、は近くの邸に泊まった。が戻って来たことを喜ぶ者、たしなめる者、両方いたが、また留守にすると言えば、揃って苦笑した。


「よっ、、敦盛」

「ヒノエ」


軽快な声と共に顔を覗かせたのは、勝浦で別れたヒノエだった。


「本宮に来ないからどうしたのかと思ったぜ」

「それは・・・」


俯き口を閉ざす敦盛に、ヒノエは「まぁいいけどさ」と言う。


「それで、ここまでどうしたの?」

「ん?あぁ、オレも着いていくことにしたから、一応言っておくかと思ってね」

「・・・・・」

「あんただって同じだろ」


ジト目で見れば、ジト目で返される。そう、この二人はどちらもどちらだ。


「源氏には力を貸せないってのははっきり言った。もちろん、平家に力を貸す気も無いってのもね」

「まぁ・・・やっぱり当然よね」


九割方そうだと思っていたに落胆は無かった。


「というわけで、着いていくのは“オレ個人”の意志」

「・・・あんたと私って、変なとこ似てるのかな?」

「え?なんで?


最初望美に力を貸してほしいと言われた時に答えた言葉を思い出す。ヒノエには「別に」と返した。明日合流することを伝え、ヒノエは本宮に戻って行った。たちも明日の出発に備え、休み事にするのだった。





















翌日、自分も着いていくと言ってきたヒノエに望美たちは驚いていた。ただ単に着いていくわけではなく、内側から見極め、情報収集しようと思っている事に気づいているのは果たして何名いるのか。


「天地の朱雀、ねぇ・・・」


思わずちらと二人を見ると、同時に訝しげな視線が返ってくる。


「いえ、別に。ただ、二人が対極の位にいる事が、少し、不思議なだけです」

「不思議ですって、ヒノエ」

「オレだって別に好きで天の朱雀なわけじゃないんだぜ?」


でもヒノエは天の朱雀だよ、宝玉が選んだんだよ、と白龍が哀しそうな顔をする。そういう意味じゃねぇよと笑うと、白龍も安堵したようだ。


「そんなに意外なの?」

「この二人が対という所がね」


望美に聞かれ、は苦笑する。


「そういえば、さんとヒノエくんも幼馴染、なんだよね。今は?」

「そうだな・・・同僚ってとこだな」

「昔は姉って言ってたのに」


ぼそりと呟くと、ヒノエがにやりと笑う。


「さみしいんだろ?」

「敦盛が呼んでくれるから寂しくない」

「そこは寂しいって言えよな」


素直じゃないなと息をつくヒノエに、余計なお世話と返す。一行はさらに賑やかになった様である。






















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