瑠璃の光、守る決意



















本宮への最短距離は何故だか通行止めされており、一行は仕方なく、南の道を回って勝浦方面から本宮へ行く事になった。


「まぁ、いろいろ景色も見られるし、これはこれでいいかもね」


気分転換にはもってこいだ。も久しぶりの熊野の空気を存分に味わっていた。険しい山道も多いが、慣れているはさくさくと歩いて行く。途中で景時がぽろっと弱音を吐いて朔にたしなめられる。だが急に、砂嵐が巻き起こった。


「うわっ!!」

「なにこれ・・・ここでこんなことおきない!」

「気が・・・乱れだした!!」


白龍が嘆きの声を上げる。それを意味するのは。


「まさか、怨霊!?」


言うが早いか遅いか、風が望美をさらう。望美の身体はいとも簡単に浮き、宙へ。


「望美!!」


手を伸ばすが届かず、望美の身体は崖へ投げ出された。


「神子・・・っ!!私の神子、守る・・・っ!」


白龍が望美を追って、跳んだ。白龍の身体が真っ白な光に包まれ、やがてそれは大きくなって望美まで追いつき、彼女をも包み込む。そのまま光はゆっくりと崖下へ降りて行った。


「・・・向こうは大丈夫そうね」


チャキ、と刀を抜いて構える。は目を閉じ、風の動きを感じ取り、一閃した。


「ギャアアア・・・!!」


怨霊が悲鳴を上げて消滅していく。たちは崖下へと急いだ。



















崖下の河原には望美と、見知らぬ男がいた。白く流れる長髪のこの美丈夫は、力を取り戻しつつあり成長した白龍らしい。


「確かに、首元の・・・逆鱗だっけ?これは同じだものね」

「うん。これは、龍の力の源だから」

さんも詳しいんだね」


兄様ほどではないけどね、と返し弁慶を見ると、彼は小さく微笑んだ。


















大きく成長した白龍を改めて受け入れた一行は、勝浦へと到着した。勝浦は熊野の中でもにぎわいの大きい町だ。


「港町っていいよね、活気があって」

「賑やかでいい町だろ?オレ、この町にはちょっと詳しくてね。いいトコへ案内してやるよ、姫君たち」


突然現れた声に、みな「え」と振り向く。そこには田辺で別れたヒノエがいた。宿を探しているから忙しい、と言うと、ヒノエは自分の泊まっている宿をすすめる。もちろん全員なのだが、ヒノエは男性陣も来ることに不服そうだ。それでも仕方がないかと案内してくれたのだった。



















宿へ着くと、のんびりする音、情報収集に出掛ける者と様々だった。白龍は八葉が全員そろって嬉しそうだ。


「やっぱり賑やかな方が良いよね!」

「兄上は一人でも十分賑やかです」

「かもな」

「も〜ひどいな、二人とも」


景時の言葉に朔が呆れ、将臣も同意して笑う。


「・・・いいな。皆が・・・こうしていられるのは」

「敦盛・・・」


可愛いなぁと頭を撫でると、敦盛は振り払いはしないものの、照れて俯いた。そこへ、情報収集へ出たはずの弁慶が早い戻りで部屋に入った。どうやら、熊野川が増水して、本宮へ向かう道が通れなくなっているらしい。


「大雨が降ったわけでもないのに増水なんて珍しいな・・・」


熊野川が通れないのでは先へ進めない。一行は勝浦で数日待つことにした。



















は、浜辺にいた。波の音を聞くのは心地いい。心洗われ、癒される。


「海が恋しいのか?」

「!?」


目を閉じて気を緩めていたら背後から近づいてくる気配に気づけず、は驚いて勢いよく振り向いた。声を掛けた側もその勢いに驚き、目を瞬かせている。


「そんなに驚かせてしまったか?」

「く、九郎・・・。・・・いえ、油断していただけです」


言っては海へと顔を戻す。その隣に九郎が並んだ。


「なぁ、

「なんでしょうか」


なぜ、そんな態度をとるんだ?


そんな率直な問いが喉から出てこず、九郎は黙ってしまった。どうしたのだろうかと、が首を傾げる。


「・・・なぜお前は、熊野水軍に入ったんだ?」


やっと出てきたのは初めに聞こうと思った事とは違うものだったが、それも彼の知りたい事だった。


「私を育ててくれた家族や熊野を守りたいからです」


はっきりと、芯のしっかりした声でが答える。


「ご存知の通り、私は兄様と血の繋がりがありません。生まれた地すら、熊野かどうかわかりません。それでもみんな、私を本当の家族のように接し、育ててくれた。だから今度は私が、みんなを守りたいと思ったんです」

「先生の所へ修行に出たのもか」

「はい」

「・・・止められただろう」


九郎の言葉に、は苦笑した。


「散々反対されました。それでも私は頑なに、決意を示したんです」


そうしたら、わかってくれました。そう言って笑うに、九郎は少々呆れ顔で微笑んだ。


「お前は紛れも無く弁慶の妹だな」

「え?」


予想もしなかった言葉に、が目を瞬かせる。


「頑固なところがそっくりだ」

「・・・あまり嬉しくないです」


ふてくされたように口をとがらせるに九郎は笑う。だが内心では、“そっくり”と言われて心穏やかになっているなのだった。





















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