その先へ
前と同じことが起こり、景時らと望美を残し、源氏軍は摂津を出港した。屋島への上陸は何事も無く事進んだが、問題はやはり総門だった。守りは固く強く、崩された戦列を立て直す事すらままならない。だがやがて、後方から鬨の声が上がったという知らせが入った。景時らと望美だ。合流が叶った源氏軍は、一旦志度浦まで引き返した。
(・・・ここからだ)
ここから、どうするか。時間はない。早急に考え出さなければ。望美を探せば、景時と共にいた。説得しているのだろう。は話をしている二人に近寄った。
「私、景時さんの嘘は分かるんです」
「う、嘘って・・・なんのことかな〜」
誤魔化し方がわかりやすくて、は小さく笑った。望美にずばり言い当てられ、景時は降参したようだ。
「そうですね、諦めた方がいいですよ、景時殿。私も望美に叱られましたので」
「えっ、まさかちゃんも残ろうとしてたの!?」
苦笑で肯定してみせれば、景時の口から乾いた笑いが漏れる。
「はぁ〜、オレたちもしかして、変なところで気が合ってる?」
「・・・身を挺して守るということが気が合っても、という感じですがね」
そんな話をしていると、複数の足音が聞こえてきた。
「・・・話は聞かせてもらいましたよ」
弁慶と、九郎だった。
「景時っ、っ、お前達は大馬鹿野郎だ!!」
「野郎ではありませんがね」
「揚げ足を取るな!!」
怒鳴られ、思わず身をすくめる。
「知ってしまった以上、あなた達二人を見殺しになんてできません。これはみんな同じ気持ちですよ」
そう言ってを見た弁慶の目は、切なさを宿していた。
「考えましょう。誰も、犠牲にしない方法を」
望美の言葉に皆が頷いた。
船に乗り込むと、平家の追撃隊が現れた。九郎が出港の指示を出す。だが敵の動きは早く、矢が放たれる。平家の勢いは凄まじく、ついに忠度が船に乗り込んできた。そして九郎に一騎討ちを挑むが、刀を振り下ろすと、九郎の姿は掻き消えた。平家の軍勢が動揺し始める。源氏の船上は皆、景時の作った幻術の幻だった。浮足立った今が攻め時。忠度との最後の戦いが始まった。
忠度は平家の中でも怨霊に頼ることは決してない、生粋の生身の人間だという。その戦い様はまさしく“武士”で、勢い止まない忠度に苦戦した。それでも負けるわけにはいかない。源氏も勢いを止ませることなく、やがて勝利をおさめた。忠度は取り押さえられ、鎌倉へ送ることになった。忠度は抵抗することもない、潔く覚悟を決めた武士だった。
そして源氏陣は、行宮への攻め込みへ向かった。
忠度を失った総門の攻略は容易そうに見える。だが、容易すぎて妙だと感じた。平家はどうやら撤退を始めたらしい。一軍は行宮へと急いだ。
「」
軍を進めていると、九郎が声を掛けてきた。
「いいのですか?総大将がこんなところにいて」
「片がついたら、あんな行動を起こそうとしたわけを聞かせてもらうからな」
「・・・・・」
それだけ言うと、九郎は先陣へ戻っていった。の心に罪悪感が残る。仲間を信じる事が出来ていなかったんだな、自分一人で抱え込もうとしていたんだな、と。
「・・・・・ごめんなさい」
は以前から呟いているそれを、違う意味を込めて、呟いた。
行宮はすでにもぬけのからだった。平家の船団が沖に向けて逃げていく。忠度を時間稼ぎに、還内府が逃亡の手はずを整えていたらしい。敦盛の読みでは、次は壇ノ浦での戦いになるだろうとのことだった。彦島の砦に逃げたのだろうと。
「壇ノ浦か・・・」
此度の勝因は景時だといっても過言ではないというのに、景時の表情は暗い。疑問に思いながらも、は深く追求することはしなかった。
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