生きる道を
刹那だった。
視界に光りが飛び込んできて、何が起きたのかわからず唖然とする。
「―――、きいているのか?」
「え、あ・・・」
名を呼ばれてそちらを向くと、そこには確かに、“先程”“別離れた”はずの人物がいて。彼の隣では、兄が心配そうにを見ている。彼らの背景は、今はもう見慣れてしまった邸で。
(なん、で・・・?)
どうしてこうなっているのだろうと思った直後に、はっと“彼女”を見た。そこには真っ直ぐ真剣な目でを見る望美。
(・・・あぁ)
把握した。だが同時には落胆した。
「?大丈夫なのか?」
「夢の後遺症ですか?無理せず言ってくださいね」
九郎と弁慶に笑い掛け、は再び望美を見た。彼女の目は、今度は景時を見ていた。
摂津で屋島へ行く準備をしている最中、は望美を呼んでひと気のない所へ歩いた。危険が無いことを確認すると、大きく深呼吸をして、そして、望美に胸倉を掴んだ。
「ッ!?」
「どうして・・・どうして“戻した”の・・・!?」
望美は胸倉を掴まれたことにも驚いたが、が今までに無いくらい取り乱し、その目尻に涙が浮かんでいることに、大層驚いた。
「あれなら救えたのに、守れたのに!!」
「・・・さん、それも、夢で視たの?」
ほんの少し、の拳が緩んだ、俯いて、拳を震わせる姿は、肯定を意味していた。
「・・・私が船に乗ると、私を狙った矢が放たれるの。そして、九郎が、私をかばって、矢に、うたれる」
「ッ・・・」
「白がどんどん赤に染まって・・・九郎の身体はどんどん冷たくなって・・・なのにあの人、笑うのよ・・・?」
お前を守れてよかったって。
「馬鹿でしょ。源氏の総大将が何やってるのって。・・・だから私は、そんなことさせないために」
「自分を犠牲にしたの?」
望美に率直にきかれ、は顔を上げる。真っ直ぐな瞳と交差する。
「私も景時殿も、守りたいものを守る為に残ったのよ」
「・・・馬鹿なのは、さんの方だよ」
望美が胸倉を掴んでいるの拳を両手で包み握った。
「どうして諦めるの!?どうして逃げるの!?さんわかってない、わかってないよ!!あの後どれだけ酷かったと思う?九郎さんも、弁慶さんも、ヒノエくんも、敦盛さんも、悲しい思いとか、後悔とかを表に出さないように必死にこらえて、気を張って・・・沈みたいのに沈めなくて・・・見ているのがつらかった・・・」
その瞳には涙が浮かんでいて、は無意識に拳を緩めていた。
「私も景時さんの事で頭が一杯で、こんなの駄目だ、って・・・だから、戻って来た」
真っ直ぐな目がを見つめる。
「生きよう、さん。さんも、景時さんも、死ななくていい方法を考えよう、一緒に」
「・・・・・っ」
は戸惑っていた。本当に、そんな方法があるのか。この身を賭して守らなくても、あの人が生きられる方法が。
「・・・私、あの後朔と一緒に源氏を離れたんだけど、離れる時、九郎さんが言ってたよ」
守れなかった・・・!共に進むと言ったのに・・・!!
の拳が力を失くした。その目から、雫が零れ落ちる。
「・・・できる、の?あの人を守って、私も生きられるの・・・?私・・・あの人と共に、歩んで、いいの・・・?」
「あたりまえだよ!!」
力を失くした拳がぎゅっと握られる。はその手に頭を落とした。
「生き、たい・・・あの人と、生きたい・・・!!」
望美はほっとしたように笑い、しばらくその背をやさしく撫でていた。
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