三草山の戦い
桜も散りかけてきた頃、京には怨霊が増え続けていた。平家は本気で京を狙っている。そして、三草山に平家の軍が集まっているという情報が入り、源氏軍も三草山へ向かう事になった。京を戦場にする前に、手を打たなければならないのだ。
三草山に着いたのは夜だった。夜戦を仕掛けるか、という話も出ている中、兵たちの間には“還内府”に怯えている者もいるようだ。
「還内府、か・・・」
死んだはずの平重盛が怨霊として蘇った―――それは常人からしたらありえない事で、全く恐れるな、というのは無理な事だろう。だが、源氏も退くわけにはいかない。戦うしかないのだ。
ともあれ今は景時の隊が着かない事には攻めるに攻められない。一時休息をとることになった。ふと奥を見れば、譲が腰を落ち着かせて眠っていた。
「最近夢見が悪いそうです」
じっと見てしまっていたのだろう。朔が状況を教えてくれた。
「夢見・・・譲も夢に苦しめられているのね」
「も・・・ってことは、さんも・・・?」
「毎回悪夢って訳ではないけど、ね」
苦笑してみせると、朔は心配そうな顔をした。
「そうなの・・・今、お茶を入れようとしていたんです。よろしければ、ご一緒しませんか?」
「ありがとう」
朔の好意に甘え、は一息付く事にした。
景時の隊が到着し、いよいよ攻め入ることになった。向かうは山ノ口。夜のうちに、平家を叩く。だが、もう少しで山ノ口というところで、異変に気付く。いや、正しくは、その異変すらない。
「静かすぎる・・・」
妙な胸騒ぎを抱きながら、彼らは再び歩を進めた。
山ノ口に到着すると、源氏軍は一気に平家の陣に攻め入った。が、そこに平家の軍勢は、一人たりともいなかった。
「もぬけの殻・・・のようですね」
「どういうことだ!?」
味方に動揺が走る。とその時、伝令が馬を駆けさせてきた。
「く、九郎義経様!お戻りください!」
「どうしたんだ、その傷?何かあったのか?まさか・・・」
「三草山に・・・!巨大な怨霊が現れて・・・みんな、みんな・・・」
その言葉に、一瞬にして状況を把握する。
「裏の裏をかかれたということか・・・」
「くっ・・・!戻るぞ!!」
全ては還内府の計略か。唇を噛む思いで、源氏軍は三草山へと引き返した。
三草山は酷い有り様だった。普通の兵では怨霊とはまともに戦えない。さらには、殺されてしまうとまた新たに怨霊が増える。だが今脅威なのは雑兵の怨霊ではなかった。味方の兵たちをなぎ倒す、巨大な怨霊が、そこにいる。
「大丈夫だよ、みんな!ここは私たちに任せて!」
望美が高らかに言い放ち、剣を構える。もまた二刀を抜いた。の刀は一振りは通常の刀で、もう一振りは小太刀の、二刀で一対のものだ。その二刀を構え、怨霊を見据える。
「待て、お前も戦う気か!?」
「もちろんです。何を今更」
「相手はそこらの怨霊とは違うんだぞ!・」
「だから何だと言うのです?」
構えを解かぬまま、は九郎を一瞥した。
「私が戦う意思は、私が決めます」
「・・・・・勝手にしろ!!」
九郎が太刀を抜いて隣に並ぶ。水虎が大きな咆哮を上げ、襲いかかって来た。
水虎の属性は水。攻撃に徹しているのは、地属性である弁慶とリズヴァーンで、彼らを中心に陣を立てていた。遠距離型の景時や譲が後方から支援し、近接型の望美や九郎が相手の動きを見つつ斬りつける。同属性である朔とは、術の支援をして攻撃に加わっていた。攻防を繰り返していき、水虎をかなり弱らせた。
「よし、あと一息だ!」
九郎の掛け声にみんな気合いを入れ直すが、水虎はどうも知能が高い怨霊だったらしい。
「グルルルル・・・」
勝てないと悟ったのか、一声唸ると脱兎のごとく逃げて行った。
「逃すか―――追うぞ!」
「深追いしてはいけない。己の軍をよく見なさい」
九郎が水虎を追うため駆け出そうとするが、リズヴァーンが止める。九郎ははっとなって周りを見た。傷つき倒れる者、それを介抱する者、雑兵怨霊に立ち向かう者、なんとか逃げ回っている者・・・様々でとても総大将が離れられる状況ではなかった。平家の追撃が無いとわかると、源氏軍も本陣へ戻って体勢を整え京へ帰還することになった。
Created by DreamEditor