護り石の加護を
九郎に連れられて来た所は、市だった。怨霊の脅威が去ったことを喜び、短時間だが開いたのだという。活気が戻った鎌倉の町市を見て、九郎は嬉しそうに目を細めた。
「これも、みんなと・・・おまえのおかげだな」
「私は、大したことはしていません」
「維盛殿にとどめを刺したのはお前と敦盛だ」
九郎がを見つめる。
「恩に着る、」
「・・・いえ」
その瞳を真っ直ぐ見れなくて、目を逸らす。と、九郎がから離れる気配があった。嫌な思いをさせてしまったかなとそちらを見ると、九郎はひとつの位置の主人と話をしていた。そしてしばらくすると戻って来た。
「・・・何か買ったのですか?」
「あぁ」
スッと顔の横に九郎の手が来る。何を、と反応する前にその手が耳に触れて、肩が小さく震えた。
「じっとしていろ」
「は・・・はい」
言われるままにじっとしていると、耳に違和感を残して九郎の手が離れた。そっとその違和感に触れてみる。丸い石が、そこに在った。
「耳飾り・・・?」
「あぁ。瑠璃石で作ったものがあったから、その、お守りにと、思ってな・・・」
途中から、九郎は目を泳がせつつ口を動かす。
「お前は無茶をしかねないからな。魔除けの力で、守ってもらえ」
「そんな、こんな高価なもの、いただけません。・・・もらう理由も、ありません・・・」
の視線が影に落ちる。
「俺が、お前に贈りたいんだ。そんな理由では、駄目だろうか?」
「・・・いえ」
否定できず、目を伏せる。どうしてあなたはそうなの。この想いを浮上させないでほしいのに。
「ありがとう、ございます」
上手く笑う事が出来ただろうか。切なさを心に残したまま九郎からもう片方を受け取り、反対の耳につける。の両耳で蒼い石が揺れていた。
しばらく市を見て回って、程よい所で二人は梶原邸へ引き返した。
「つき合わせて悪かったな」
「いえ・・・ありがとうございました」
言葉を一言二言交わし、別れる。歩いて行く九郎の背中を見つめた後、も部屋への道を歩いた。
「おかえり、」
「ただいま、白龍」
ばったり会った白龍と挨拶を交わし、すれ違う。と、白龍が「あれ?」と呟いてを振り返った。も足を止めて白龍を見た。
「を取り巻く気が、綺麗になってる」
「そう、なの?」
「うん、その石のおかげだね」
白龍の視線がの耳元へ行き、はおもわずそれに手で触れた。こんなにはやく守り石の効果が出るなんて。白龍は、「その石を大切にしてあげてね」と言って歩いて行った。はしばらくその場で石に触れたまま立ち尽くしていたが、ひとつ思いついて、京に戻ったら実行しようと決めるのだった。
翌日、一行は梶原邸を後にした。初めて来た鎌倉ともお別れだ。こんなときでなければゆっくり見て歩きたかったなと思いながら、待ちを見つめる。
「いつかまた、ゆっくり来ればいい。その時は・・・俺が、案内してやる」
「九郎・・・はい」
読まれていたことに驚きながらもは頷いた。まるで耳の瑠璃石が素直な言葉を出してくれているように、は感じた。
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