哀れ人の浄化
鶴岡八幡宮には、穢れが充満していた。その中に悠然と立つ平維盛の姿がある。
「そこまでだ、平維盛!」
「なんですか、騒々しい。東国の田舎侍はこれだから嫌なのですよ」
立ちふさがった九郎を、一行を見て、維盛がふんっと鼻を鳴らす。
「源氏の氏神で一体何をしていたんだ?」
鎌倉は異世界から来た譲にとっても故郷だという。険しい顔で維盛を睨んだ。
「知れた事。八幡神の加護を奪い―――鎌倉を阿鼻叫喚の巷にするのですよ」
「維盛殿・・・あなたが、そのような事を望まれるとは・・・」
敦盛が苦痛に顔を歪めつつ、だが真っ直ぐ維盛を見据える。
「おや、裏切り者がいる。哀れなものですね。一門から相手にされず、とうとう敵の元へと走りましたか」
「・・・・・」
維盛の嘲笑に敦盛は俯いた。そこへ、が一歩前へ出る。
「敦盛が哀れ?怨霊の力に負けて己を狂わせた貴方のほうがよっぽど哀れよ」
「なんですって・・・!?」
「お前にも色々あんだろうが、余計な事されちゃ困るんだよ」
「あなたは・・・!」
に続いて出たのは将臣だった。維盛が彼を見て驚愕に目を見開く。
「今ならまだ見逃してやれる。もうこんなことはしないと約束しろ。そうすれば・・・」
「冗談じゃありませんね」
将臣の言葉を遮り、維盛は一蹴する。
「私の企てであなたが不快になるというなら、ますますやる気が出てきましたよ」
(維盛は確か重盛の息子・・・。ぽっと出て“父”と重ねられる将臣が気にくわない、か)
だからといってこんなことが許されるわけではない。維盛が放った怨霊、鉄鼠に、皆剣を構えた。
金属性の鉄鼠にヒノエと白龍を中心として攻撃していき、程なく倒した。
「クッ!私の可愛い鉄鼠を・・・なんと非道な事を・・・」
「非道が聞いて呆れるわね」
維盛の言葉にが鼻で笑う。
「お前の負けだ。怨霊は封じられた。いい加減諦めろ」
「・・・・・怨霊は封じられた?何を勝ち誇っているやら。怨霊はおりますよ」
維盛の周囲を、どす黒い気が取り巻き始めた。
「えぇ、この私がいます。不死の力を持つ私が、あなたなどに屈するはずがない!死になさい!」
怨霊の力を発揮した維盛が、襲いかかって来た。
「白龍!維盛の属性わかる!?」
「あれは・・・火気だね」
「ありがとう!・・・敦盛!」
「・・・あぁ!」
他に召喚された怨霊を皆に任せ、と敦盛が維盛の前へ出た。
「たった二人とは、私もなめられたものですね!」
「維盛殿・・・!」
敦盛が錫杖をぎゅっと握りしめる。も二刀を構えなおした。
「・・・平維盛、あなたの哀れな魂は、神子が綺麗に浄化してくれるでしょう」
「戯言を!」
維盛がとばしてきた火気の攻撃を水気の盾で防ぐ。そしてそのまま、二人で水気を高めた。
「眠りなさい、維盛!!」
「ばかなっ!!」
と敦盛が大地に両手をつくと、地を伝って維盛の足下から水柱が噴き出た。水柱は渦となり、維盛を巻き込んでいく。渦が消えた頃、維盛は地に膝をついていた。
「そんな・・・この私が、敗北・・・?」
「さん!」
「望美、お願い」
向こうを片付けて駆け寄って来た望美が頷く。
「維盛、今ここであなたを封印する―――めぐれ、天の声!響け、地の声!」
望美の声に反応し、維盛が浄化の光に包まれ始める。
「い、嫌だ、消えるのは嫌だ・・・っ」
「かのものを封ぜよ!」
「父上!助けてください・・・父上!うわぁぁぁ!!」
父、と呼んだ。将臣を、見てか見ずか。彼にとって父・重盛は絶対の存在だったのだろう。維盛は城下の光に包まれ、封印の光に消えた。
「・・・・・終わったな」
苦々しげに、将臣が呟いた。複雑、なのだろう。維盛の非道な計画は阻止できた。だが将臣は、“身内”を封じてしまったのだ。
「将臣・・・」
「・・・大丈夫だ」
将臣は何とか笑ったが、やはりそれは、晴れ晴れしいものでは、、決してなかった。
鎌倉を維盛の陰謀から守り、将臣は自分のいるべき場所へと帰っていった。頼朝への報告は文で送り、鎌倉でやる事は、終わった。今日は休み、明日鎌倉を発つ。梶原邸へ戻り、皆それぞれくつろいでいた。
「慎みが無いな、」
術を使って体力を消耗したは、縁側で横になっていた。呼ばれて少し顔を向けると、眉を寄せ、呆れ顔の九郎がいた。
「疲れている所悪いが、これからいいか?」
「なんでしょうか」
身体を起こして九郎に向き直ると、彼は小さく笑った。
「連れて行きたいところがあるんだ」
どこだろう、と思いつつは身だしなみを整え、九郎の後に続いて梶原邸を出た。
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