鎌倉殿、還内府
梶原邸へ着くと、景時、朔の母が出迎え、事情を話すと彼女は快く宿貸しを受け入れてくれた。景時の母に鎌倉での怪異について聞いてみると、朝夷奈、隠れ里稲荷、星月夜の井で噂になっていることがわかった。何が起きているかを簡単にきき、一行はさっそく出かけた。
まずは梶原邸から一番近い朝夷奈に向かった。ここでは季節の花である竜胆が枯れるという怪異が起きていた。笹竜胆を紋とする源氏の九郎は、鎌倉でこの花が異常な枯れ方をしているのを見、苦々しい顔をした。竜胆だけでなく他の木々も弱っていて、そこに遊びに来ていた童女も心配していた。そして藪の中を探して見つけたのが、呪詛の人形だった。童女はそれを自分のだと言い張って渡したがらなかったが、将臣の気転によって人形を渡してもらうことができた。望美が呪詛の人形に触れると、ソレは浄化されて跡形もなく消え去った。ひとつめの怪異を解決した一行は、一度梶原邸に戻って休むことにした。
梶原邸に戻ると、将臣と敦盛はもう少し調べて来るとまた出かけて行った。邸の中に入ってしばらくすると、白龍が何か嫌な気を感じとった。“何かが見てる”と、白龍は言った。ソレはこちらに向かってくる。そして、邸の前まで。急いで表に出ると、怨霊がいた。怨霊は程なくして倒す事が出来た。一息ついていると、新たな足音が聞こえてきた。
「騒がしいな」
そちらへ顔を向けると、厳格な表情をした男が立っていた。
「よっ、頼朝様!?」
「兄上、なぜこちらに?」
景時と九郎が驚く。は失礼にならない程度に彼、源頼朝を観察した。
(この方が、源頼朝・・・鎌倉殿・・・九郎の兄君・・・)
第一印象は、似ていない、だった。そして彼のそばには、以前福原攻めの時に頼朝の名代で来ていた政子の姿があった。頼朝と政子は、悠長に過ごしている景時を責めたてる。なぜ景時だけを、とは思った。ここには総大将を預かっている九郎だっているというのに。それに景時は、どこか怯えているような緊張を感じる。
(脅されていたりして・・・)
可能性は無しではないだろう。福原で和議を結ぶと見せかけて奇襲を命じた人物だ。
「景時さんだけを責めないで。平家の計画をまだ止められていないのは、私たちみんなの責任です」
望美が頼朝に申し立てる。続いて九郎が。
「そうです、兄上、落ち度は景時ではなく、むしろ私に―――」
「くどい、九郎」
九郎の言い分は一蹴されてしまったが、弁慶が続くと、政子が小さく笑う。
「まぁ、鎌倉殿も怒っていらっしゃるわけではありませんわ。むしろ―――」
「神子、今日は面白いものを見せてもらった」
政子の言葉を遮るように言うと、頼朝は政子を連れて去って行った。
少しすると、緊張が解けて景時が大きく息を吐く。頼朝に叱咤を受けた神子一行は、怪異解決を急ぐことにした。
残りの隠れ里稲荷、星月夜の井の怪異を解決すると、町中がざわめいていた。鶴岡八幡宮に、巨大な彗星が発生したのだという。一行は急ぎ鶴岡八幡宮へ向かった。
「将臣、ひとつ確認したいの」
鶴岡八幡宮へ急ぐ中、は隣を行く将臣に声を掛けた。皆から少し離れて、会話が聞こえないようにして。
「なんだ?」
「あなたは、平家方なのよね?」
「・・・ききたかったことはそれか」
「えぇ」
将臣は少し渋い顔を見せ、やがて「あぁ」と肯定した。
「みんなに話すつもりはないから、続けて聞くわね。平重盛が還内府として蘇ったのは本当なの?」
「・・・それは、俺だ」
「え?」
どういうこと?とが首を傾げる。
「俺は重盛にそっくりなんだそうだ。平家をなんとかしねぇとって試行錯誤してるうちに・・・還内府なんて呼ばれるようになった」
「・・・そう」
ほんの少し、の表情が曇る。将臣は一人この世界に飛ばされ、行くあても無い、何もわからないところを平家に救われた。そして恩人である平家のために力を尽くしている。複雑な思いに、駆られたのだった。
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