似た者同士
熊野路へ戻り、熊野川の上流を目指す一行。やはり通行止めされていたが、以前と同じ方法で通過する事が出来た。そしてまた後白河天皇と通り道で会う。そこでは以前は捨て置いた疑問を掘り起こした。何故後白河天皇は九郎と将臣が一緒にいる事を面白がっていたか。まさか、とひとつの可能性が頭をよぎる。将臣は以前から敦盛と知り合いの様子があった。そして今回、彼も本宮大社に用があるとのこと。
(将臣は、平家方・・・?)
ちら、と将臣を見る。望美は幼馴染ということもあり、将臣を全く警戒していない。仲間達も同じくだ。八葉ということも含まれているだろう。源氏方に平家の者が混ざっている、となると重大だが、将臣も恐らく源氏方の集団だとは気付いていない。というよりは、九郎が源氏の総大将“源九郎義経”だと気づいていない、だろうか。弁慶がいる事に疑問を持っているようだったから。どちらにせよ確信は無い。胸に留めておくだけにし、は足を進めた。
熊野川の上流へ到着した。川は荒れ、増水している。は嫌な気を感じていた。
(・・・怨霊の)
女房に化けていた怨霊だ。一行が川に近づくと、やはり奴は現れた。将臣が女房を疑い、九郎はそんな将臣を咎め反発する。は気づかれないよう、小さく息をついた。気付かれてしまい心配顔をした望美に「あぁ、ごめん」と小さく笑い、一歩踏み出す。
「九郎、その女房は怨霊です」
「何・・・!?」
九郎が動揺し、女房を凝視する。
「よく見てください。その女房には、影が無い」
「・・・!本当だ、一人だけ川に影が映っていない!」
「おのれ、よくも!」
怨霊が本性を出した。望美たちは武器を手にし、怨霊を迎え撃った。
怨霊を倒すと、空はじきに晴れていった。水位も通常の熊野川に戻り、これで安心して渡れるようになった。
「熊野川はこれくらいがちょうどいい」
パシャ、と川の水に手を浸し、が言う。
「思い入れがあるのか?」
「思い入れと言いますか・・・よく遊びましたので」
背後から声を掛ける九郎に小さく笑う。
「、その・・・さっきは助かった。ありがとう」
「・・・いえ。もう、慣れましたので」
「?」
何に、ときくまえに、は望美らの方へ行ってしまう。それは九郎が疑うことを知らない、ということなのだが、本人には知る由も無かった。
本宮大社の手前で、将臣と別れる事になった。彼も本宮に用があるのだが、別口で行かなければならないらしい。やはり、将臣は。
「・・・どうした?」
「え?」
「俺の顔ガン見してるだろ。なんだ、惚れたか?」
将臣にからかわれ、「は?」と思ったより冷たい声が出る。
「冗談だって、冗談。・・・冗談だから、九郎もそんな睨むなよ」
「え?」
「・・・ッ!」
振り返ると、確かに九郎はらを見ていた。しかし将臣の言葉に、慌ててそっぽを向いてしまう。
「・・・?」
「おまえらって、どっちもどっちだよなぁ・・・」
「は?」
「いや、なんでもねぇよ。またな」
ぽん、との頭に手を置くと、将臣は歩き出した。言葉の意味がわからないまま、も足を動かし始めた。
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