儚くも美しく光り咲く華





















やはりこの度も、熊野川の増水が自然に引く様子はなかった。九郎に焦りと苛立ちが現れ始めている。これも“同じ”だ。


「これは、いつまで待っても埒が明かないでしょうね」


ぽつり、とのこぼした言葉に、みなが注目する。


「どういうことだい?」

「もしや、自然のものではないのではないでしょうか。我々を足止めするための策、とか」


景時の問いに答えると、うーんと考える者が数名。


「怨霊・・・・・とか?」


未来さきを知っている望美が助け舟のように呟くと、白龍が頷いた。


「そうかもしれない。熊野を巡る水の流れがおかしいから」

「行ってみませんか?熊野川に」


望美の提案に反対する者はいなかった。


「北上して中流の様子を見るのが良いだろうか」

「いいえ、熊野路に戻って上流へ行きましょう」


敦盛の呟きに、がかぶりを振る。


「その方が手っ取り早い」


そのはっきりとした言い様に首を傾げる者もいたが、口に出すことまでは無かった。




















出発は明日ということになり、今日一日は休息となった。空はすでに赤みがさしており、夕餉時になってきた頃、女性陣が寝泊まりしている部屋に、緑が駆け込んできた。


「三人とも〜、ちょっといいかな」

「もう、兄上、騒々しいわ」


部屋にいた女性陣三人は、駆け込んできた景時の方を見る。朔からは厳しい言葉つきで。


「面白いものを作ったからさ、今晩、浜で試してみようと思ってね。よかったら、みんなも見に来てくれないかな〜」

「面白いもの・・・とは?」

「それは秘密。見てのお楽しみだよ」


が首を傾げると、景時はそう笑った。望美も笑顔を浮かべ、絶対行くと告げる。ならばとも頷いた。


「朔も一緒に来るんだよね」

「わかりました、仕方ないわね」


呆れも混ざりつつ、だが嬉しそうだ。日が落ちた頃に迎えに来ると言い、景時は戻って行った。




















日が落ちた浜。一行は景時に連れられてそこに居た。


「皆さまっ、今日はこの景時めのためにお集まりくださり、ありがとう――」

「兄上!口上は結構ですから、はやくしてください」


挨拶をしていた景時を、朔が急きたてる。仕方ないな〜も〜と言いつつ、景時はソレを取り出した。それはいつも景時が使っている銃だった。彼はそれを天へ向け、引き金を引いた。パァァンと大きな音がした後、空には大輪が咲いていた。


「・・・・・ぁ」


声も、出なかった。暗い夜空に咲く光の華。いくつもいくつも咲いていく。暗い場所に突如大きく咲くそれを見ていると、言い現わせない想いが込み上げてきた。ツ、と頬をつたうものがある事に気づいたが、拭う事はしなかった。ただ微動だにせず、息をするのも忘れているのではないかというくらい、その花に魅入っていた。


「零れる涙を拭う事も惜しい位美しい華、か」


不意に隣に人が立ち、は驚いてそちらを見た。その気配に気づかぬほど集中していた様だ。


「確かに、美しいな・・・消えてしまうのが勿体ない」

「・・・私はこの華を、九郎のようだと感じました」

「俺、か?」


九郎がを見る。は再び夜空を見上げた。


「暗い所に大きく光り咲く大輪・・・挫け消えても、再び咲き、皆を導く・・・。あなたは、光」

「俺が、光・・・。・・・俺は、お前の光にもなれているか?」


それがこちらに向くとは思っていなかったは、不意を突かれて目を泳がせた。やがて気を落ち着かせると、九郎を見つめた。


「はい・・・あなたは私にとても眩しく輝く、光です」

「・・・そうか」


小さく微笑み、九郎が空へ顔を戻す。もまた、空を見上げた。そのまま二人は、花火の打ち上げが終わるまで、ただ無言で夜空の大輪を見つめていた。



















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