兄と瑠璃と神子と。
を連れ、望美と弁慶は世話になっている邸に帰宅した。
「ただいまー!」
「おかえりなさい、望美。弁慶殿も一緒だったんだすね。・・・あら?そちらは・・・?」
出迎えたのは、この邸の元々の住人、梶原朔だった。朔は二人の後ろに見知らぬ人物を見つけて首を傾げる。
「酔っ払いに絡まれてたところを助けてくれた、さん!お礼がしたくて連れて来たんだけど・・・」
「まぁ、そうだったの。望美を助けてくれてありがとうございました。私は、梶原朔といいます」
スッと乱れの無い一礼をして朔が微笑む。もつられてか、小さく笑った。
「どうぞ、中へ。もう少しで夕餉の準備ができるわ」
「あ、私手伝うね」
望美と朔の後ろ姿を見送り、弁慶とは居間へ移動した。
トタトタと床を歩いてくる音が二つ。望美たちのものではない。これは男の足音だ。
「ただいま〜」
今に二人の男が入って来た。一人は緑の髪をかき上げて留めた男。もう一人は橙の長髪を一つに束ねた男。どちらも戦装束のようだ。
「あれ?お客さん?」
緑の男がを目にとめて言った。
「といいます」
「望さんを助けてくれたそうで」
「へぇ〜、そうなんだ。俺は梶原景時。よろしくね〜」
笑いかけられ、も笑みを浮かべる。
「先ほど梶原、ときいてもしやと思いましたが、源氏の戦奉行殿でございましたか」
「俺のこと知ってるの?もしかして俺、有名人?」
照れたように頬をかく景時に、は小さく首を傾げた。
「有名かどうかはわかりませんが・・・私の耳には入っておりますね」
「そうなんだ、嬉しいなぁ。あっ、そうか、もしかして君が、弁慶の妹さん?」
「はい、そうです」
「やっぱり?名前聞いてもしかしてって思ってたんだよねー。会えて嬉しいよ!」
本当に嬉しそうに笑う景時に、「ありがとうございます」とも笑う。そこへ、橙の男がスッと前へ出てきた。
「・・・・・」
「・・・・・」
そのまま沈黙が流れる。「ど、どうしたの?」と景時がきくが、彼は何も言わない。埒が明かないと思ったが、口を開いた。
「・・・久方ぶりでございます、“九郎義経殿”」
「ッ、なっ・・・!?」
の言葉に、彼、源九郎義経は戸惑いの声を発する。
「二人は知り合いなのかい?」
「えぇ、私、一年ほどリズヴァーン先生の下で修行しておりまして。その数年後には、兄と共にお会いしました」
「へぇ〜、縁って面白いねぇ」
景時が感心している最中、は九郎に目を向ける。
「平泉に行かれてからお会いすることもありませんでしたが、お元気そうで何よりです。九郎殿は源氏軍の総大将を任されておられるとかで、武名も聞き及んでおります」
「・・・やめろ」
「九郎?」
の言葉の後、九郎が顔をしかめて唸る。
「お前が、“九郎殿”なんて、呼ばないでくれ、。勘弁してくれ。昔のようにしてくれ」
「・・・わかりました、九郎」
昔の様に、には呼び方以外の事も含まれていたのだが、あえてか気づいていないのか、は敬語は外さなかった。
「さて、夕餉の用意が出来たようですし、我々も席に着きましょうか」
空気を乱す、よりは助け舟の様に弁慶が言った。耳を澄ませば、とたとたと足音が聞こえてくる。微妙な空気を残しつつ、夕餉の席に着いた。
まだ会っていなかった、望美の幼馴染の有川譲、の師であるリズヴァーンと挨拶をかわし、夕餉をとる。さすがに龍神である白龍がいることにはも驚いた。先ほどの空気も薄れ、他愛のない話をしながら食事が進む。
「そういえば、ちゃんと弁慶って似てないよね」
不意に言ったのは景時だった。ぴたり、と兄妹の動きが止まる。
「それを言っちゃうと、景時さんと朔もあんまり似てないですよ?」
「えっ、そ、そうかな・・・?」
「でも、目元は似てますよね」
望美の言葉に景時が沈み、譲がフォローする。その間、話題の元になった兄妹は顔を見合わせて苦笑した。
「僕はが外見面で似ていないのは、仕方がありませんね」
「血が繋がっていないので」
二人の言葉に、ほぼ全員の動きが止まる。気まずい空気が流れる、と思ったが、それは周囲だけだった。
「私は拾われ子なんです」
「まだ乳飲み児だったこの子を兄が拾ってきて、妹が出来たぞと言った時は子どもながらに驚きました」
言って弁慶はふふっと笑う。は覚えてはいないが、その時の上の兄の様子が想像できて苦笑している。そんな二人の様子に、気まずい空気は晴れた。
「なるほどね〜。でもさ、血が繋がってなくても、二人はちゃんと“兄妹”だよねー」
「そうですね、兄様も兄上も、大切なきょうだいです」
「えぇ、僕にとってもは可愛い妹です」
血の繋がりはなくとも、兄妹の絆が、この二人にはしっかりとあるのだった。
「さんは、これからどうするんですか?」
「どう・・・って?」
「ほら、用、とか・・・」
望美の問いに、うーんと首を傾げる。特に何があるというわけでもないのだ。
「よかったら、私達と一緒に来ませんか?」
望美たち、神子と八葉の話は聞いている。必然的に源氏の手助けをするという事も。はしばし考えた。
「そうね・・・“私個人”としては、いいよ。八葉とか神子とか、興味あるし」
「ほんとですか!?よかった!」
望美が嬉しそうに笑う。弁慶が何か言いたそうに視線を送って来たが、は気づかないふりをした。言いたいことはわかっている。だからあえて“私個人”という言い方をしたのだ。
(後で文でも書いておくか)
そう決めて望美に目を戻す。
「これからよろしくお願いしますね、さん!」
にこりと笑った望美には頷き、笑い返した。
―――――
タイトルが思いつきません。
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