秘める想い





















緑豊かな夏。熊野は自然であふれていた。親切な老人に一宿借りてみなくつろぐ。


「望美、朔」


特にやる事も無くお茶を飲んでいる二人には声を掛けた。


「どうしたの?さん」

「温泉行かない?」

「温泉ですか?いいですね」


誘うと、二人は喜んで支度を始めた。“前回”はなんだかんだで行きそびれてしまったから、今のうちに行っておこうと思ったのだ。


「温泉かい?いいね〜」


通りすがりの景時が、三人の荷物を見て把握する。


「気を付けて行っておいで」

「はーい!」


景時に見送られ、三人は近場の温泉へと向かった。



















夏でも今日は風が涼しく、温泉にぴったりな気候だった。三人並んで、月を見上げる。満月より、ほんの少し欠けた月。


「―――ねぇ、二人は、気になる殿方はいらっしゃらないの?」

「「えっ!?」」


突然の朔の問いに、望美ももお湯の音を立てて朔を見る。朔は何とも楽しそうな顔をしていた。


「わ、私は、その・・・」

「望美は、兄上でしょう?」

「えぇ!?朔、なんで・・・!」


朔の兄、ということは景時だ。いつの間にそんな事になっていたのだろうかとが驚く。


「兄上は頼りなくて、兄上に望美はもったいない気もするけど・・・兄上の相手が望美なら、私も嬉しいわ」

「朔・・・」


ふふっと笑う朔に望美が照れる。まさかあの二人が、となったは、今度じっくり観察してみようと思うのだった。


さんは、九郎さんだよね?」

「え・・・」

「まぁ、そうなんですか?」


望美の言葉に、はサッと血の気が引くのを感じた。朔は気づいていなかったのか、驚いている。


さんは少し九郎殿に対して、その、冷たい面があるから、あまりお好きではないのだと思っていました」

「・・・そう、ね」


の表情が翳る。その様子を見て、望美と朔が顔を見合わせた。


「あの、さん、私、余計な事言っちゃった・・・?」

「・・・いいえ。悟られてしまった私が悪いんだもの」


パシャ、と音を立てて岩を背にし、は月を見上げる。


「私は・・・」


口を開いて、閉じる。ためらったような仕草。望美も朔も、黙って見守った。


「私は、この想いを表に出してはいけないの」

「どうして・・・?」


望美が思わずこぼす。は切なげな顔で、なんとか・・・なんとか微笑った。


「あの人と私は、違いすぎるから」


意味が望美にはよくわからなかったが、なんとなくそれ以上は聞いてはいけない気がして、口を開けなかった。




















その夜、また夢をみた。しかしそれはいつもの朱ではない。橙と白が自分の前にとび出て来て、身を赤く染めて崩れ落ちていく。どんどん冷たくなっていく。最期に小さく笑う顔が、離れなかった。










「・・・・・っはぁ・・・」


前進に汗をかいて、はとび起きた。荒くなっている息をゆっくり落ち着かせ、額を手で覆う。


「何・・・これ・・・。前のとは、違う。あれは京じゃ、ない。あれはどこ?いつ、起きるの・・・!?」


京が燃えるのを回避したらあんなことが起きるのだろうか。状況がよくわからないからまだ何とも言えないが、あの様子は、きっと。


「・・・それなら」


そういう状況にしなければいい。冷静に対処すればいい。は大きく深呼吸をして、身支度を始めた。




















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