共有する記憶を持ち運命を変える
三草山から京に戻ると、九郎宛てに頼朝から書状が届いていた。内容は、熊野への協力要請だ。一行はしばし休息を取り、熊野に向かうことになった。
「望美」
縁側で休んでいた望美に声を掛けると、望美は「何?」と顔を上げた。
「ちょっと、いい?」
の様子が少しおかしい事に首を傾げつつ、望美は出て行くの後に続いた。
人気の無い所に着き、さらに気を研ぎ澄まして人がいないかを確認する。大丈夫だとわかったは、口を開いた。
「単刀直入に、きくわね」
その真っ直ぐな瞳に、望美は緊張気味に頷く。
「望美あなた、
時空を越えてる?」
え、と声が漏れたはずだが、音にはならなかった。ただただ口が半開きになり、目も大きく見開かれる。
「そうなのね?」
望美は何故わかったのかと戸惑いながら、なんとか頷いた。は「やっぱり・・・」と呟き、しばらく目を閉じる。
「・・・・・私、どうやらあなたが遡る前の記憶があるようなの」
「え・・・?なんで、さんだけ・・・?」
「わからない。でも、覚えてるの」
細めて少し、遠い目をする。朱に染まるあの光景を思い出しているのだろう。
「・・・私、“あの時”白龍にこの逆鱗を託されて、一度元の世界に戻ったの」
望美がぎゅっと、胸元の白い欠片を握りしめる。
「でも、こんなの、私だけ助かるのなんて嫌だって思って、戻って来たの。みんなを助けるために、私は戻って来た」
「・・・そっか」
「三草山は回避できた。次は福原だよ。・・・さんも、協力してくれる・・・?」
「もちろんよ。私も、二度とあんなことにはさせたくない。させない」
二人は目を合わせ、頷いた。もう、大切な人が傷つき倒れるのは、見たくない。
「でもさんの予知夢って避けられるのかな・・・?」
「私が見ているのは京が燃える夢。元を回避すれば、おそらく見る夢も変わるわ」
大丈夫、きっと、変えられる。福原で罠にかからなければいいのだ。そうすれば九郎は責任を問われず、京を離れる事も無い。
「そういえば望美、一度熊野にいた夏に戻った?」
「え?うん。コントロール・・・上手く力が使えてなかったのか、最初に戻ったのは熊野だったよ」
感じた違和感はこれだったのかとは納得する。
「その後先生に、流れを変えるなら元から変えないといけないって言われて、私がこっちに来た時まで遡ったんだよ」
「先生が・・・?」
先生は望美が時空を越えた事をわかっているのだろうか。先生は不思議な人で、わからない事も多い。先生だから、鬼だからわかる事でもあるのだろうか。
「さんとまた会って、会った事あるかって聞かれた時は焦ったよ」
「・・・こういうことだったってわけよね」
半年も一緒にいたのだ。会った事がある程度ではなかった。
「変えよう、さん。みんなを助けるために」
「えぇ」
なぜ自分だけ覚えているのかはわからない。もしかすると出生に関係しているのかもしれない。だが、今はどうでも良かった。助けられる。守れる。は運命に抗う事を、胸に刻んだ。
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