想起する運命
兵を退いて三草川まで戻って来た一行は、その有り様に顔を歪めた。どうやらここでも戦いがあったらしい。巨大な怨霊が現れたとか。その怨霊は突然去ったらしいが、用心に越した事は無い。今は本陣へ戻り、京へ帰還することが先決である。
馬瀬まで戻ると、京へ帰還する準備が始まった。その慌ただしい光景を、はぼーっと眺めている。その視界の隅に、望美が駆けて行くのが見えた。手伝いをしているのかとも思ったが、あちらには特に何があるわけでは無い。
「・・・?」
なんとなく気になり、は望美が向かった方へと歩いた。そして、そこに居る人物に驚き目を見開く。
「敦、盛・・・?」
それは、そこに、いるはずのない人物で。彼もまたを見て目を丸くした。
「殿・・・?」
「え・・・ちょっと待って。
なんで敦盛がいるの?」
だって、だって敦盛は。衝撃を隠せずにいると、頭が小さく痛んだ。
「・・ッ・・・?」
「さん、大丈夫?」
「・・・えぇ」
また此の痛みだ。なにかを忘れていて、思い出させようとしているのだろうか。敦盛は、望美が連れて来たらしい。怪我をして倒れていて、しかも八葉だったから放っておくわけにもいかなかったとか。だが九郎には、処断する必要があると言われてしまったとか。
「そんなことはさせない」
敦盛を処断させたりしない。は決意するのだった。
敦盛の処遇は京へ戻ってから決める事になり、源氏軍は丹波道を歩いていた。敦盛は怪我がまだ癒えていなくて辛そうだが、望美と譲がついているから大丈夫だろう。それよりも重要なのは九郎の説得と、この先に現れる怨霊(・・・・・・・・・)だ。
(・・・え?)
なぜいま、怨霊が現れると思ったのだろうか。まるでこの先の事を知っているかのように。これは夢で見たものではない。なのに、なぜ。
「・・・・・?」
不意には望美の胸元で揺れるそれに目が行った。白くて薄い、だが硬そうなそれは、何かに似ている。次に目が行ったのは白龍だった。無意識に動かしたはずだったが、自分で自分の予想に驚く。
(まさか)
まさか、の仮定はとんでもないと思えるが、ありえないことではない。現に彼女らはこうして
ここに来たという。
「・・・・・」
事態が落ち着いたら、きいてみよう。胸の内におさめ、は前を向いた。
先ほどが思った通り、怨霊が現れた。望美を中心として陣形を立てる。譲や景時に援護されつつ、九郎やが斬りつける。現れた怨霊はどれも雑兵だったため、難なく倒し、封印する事が出来た。
(敦盛が、白龍の神子の力に驚いて、協力を申し出る?)
頭に浮かんだ光景。そのとおり、敦盛は行動した。その後もは先の事を思い浮かべる。すると、その通りになる。他の者は感じていない様だが、は確信してしまったのだった。敦盛が源治に与する事の決意を示し、一行は再び歩を進める。は月を見上げた。月はいつでも変わらず美しい。
(・・・今度こそ)
守る。
もうあんな悲劇は起こさせない。は決意を新たにした。
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