巡り逢う運命
春の、京の町。物見もかねて、は訪れていた。京の町は賑わっている。平家が治めようが源氏が治めようが、それは変わらない様だ。観察しながら歩いていると、ふと前方に、男二人女一人が見えた。どうやら女は酔っぱらいの男たちに絡まれているようだ。面倒事は避けたいところだが、放っておくわけにもいかない。はひとつ息をつき、彼らに近づいた。
「それくらいにしておいたら?」
声を掛けると、三人同時にこちらを向く。絡まれていた女人が、自分よりも少し下の歳であろう少女だと気づき、眉をひそめた。大の大人男二人が、こんな少女に絡んでいるとは。
「なんだぁ?」
「嫌がってるんだから、離してあげればと言っているの」
「なら姉ちゃんが相手してくれんのかぁ?なぁ?」
男たちは少女から離れ、に近づいてくる。
「断る」
「・・・んだと?」
眉をひそめる男たちに、は目を細める。
「私も、その子も、あんたたちに付き合う道理はない」
「てめぇ・・・なめやがって!!」
激情した男が右手を振り上げる。だがは特に焦る事も無く、易々とその拳を受け止めた。
「力が釣り合っていない喧嘩っ早さは、命を削るだけだよ、っと」
「ぬあっ!?」
男の腕をひねり上げると妙な声が上がる。そのままぐるりと回し、男を地に転がさせた。しばらくぽかんとしていたが、はっと気づくと、男は起き上がって後退し始める。
「は、ははっ・・・すっかり酔いがさめちまったぁ」
「だ、だな!帰るか!」
乾いた笑いを漏らしながら肩を組んで去っていく男たちの背中を、は無様だなと思いながら見送った。
「・・・えーと・・・」
やがて、気まずそうに少女が声を発する。
「怪我は、無い?」
「えっ、あっ、はい!大丈夫です!ありがとうございました!」
少女がピシッと背筋を伸ばす。それならよかったとは頷いた。そしてふと、改めて少女の顔を見る。
「・・・・・」
「・・・あの・・・?」
「・・・どこかで、会った?」
「えっ・・・!?」
漏れた言葉に少女が驚き、自分でも驚いた。なぜこんなことをきいたのだろうか。
「あっ、えっと」
「なんでもない、忘れて頂戴」
「あ・・・はい」
少女が寂しそうに顔をうなだれたのは、気のせいだったろうか。気紛れも終えたし、用は無いかと去ろうとした時、不意に背後からした声で、足が止まった。
「おや、望美さん、こんな所でどうしたのですか?」
それは、昔から聞いている声で。忘れようにも忘れられない声で。
「弁慶さん!」
望美と呼ばれた少女が彼の名を呼ぶのに、無意識に肩が震えた。あぁ冷や汗も出て来てしまったと自分で感じる。
「それにしても・・・意外な人物と一緒にいますねぇ、望美さん」
「え?あ」
望美が首を傾げるのに、彼はふふっと笑った。
「ねぇ?」
「・・・・・
兄様 ・・・」
振り向きたくない思いを抱きながら振り向くと、彼はまた笑った。
「妹さん・・・ですか」
「えぇ、と言います。ところで、何故お二人が一緒に?」
「酔っ払いに絡まれていた所を助けてもらったんです」
「そうだったんですか・・・。お手柄でしたね、。なんせ神子をお助けしたのですから」
「・・・神子?」
弁慶の言葉に、思わず望美を見てしまう。この、少女が。
「えぇ、白龍の神子、春日望美さんです」
「えっと、そうなんです」
紹介され、望美がはにかみ笑う。の視線がつい、と弁慶の左手に移った。
「・・・もしかして、兄様の右手の甲についている石が、八葉の
宝玉 というものなのですか?」
「どうして・・・さんにも見えるんだろう」
それは望美が“以前”から抱いている疑問だった。八葉でもない、神子でもないが、なぜ宝玉を見る事ができるのか。
「ここで唸っていても仕方がありませんし、今日はもう用事が無ければ戻りませんか?」
「そうですね。さんも、来ませんか?」
「えっ?」
不意に話しを振られ、が目を瞬かせる。
「お礼もしたいですし」
「いや、でも・・・」
ちら、と見るのは弁慶。彼がいるところには、彼もいるわけで。
「会いたく、ないんですか?」
「う・・・そんあことは、あ、る・・・り、ません・・・」
「正直でいい子ですね。さぁ、行きましょう」
弁慶が歩き出し、その後にが続く。“初めの時”はわからなかったが、“二度目”の望美にはが会いたい人物がわかっており、小さく笑った。だが同時に、ならなぜあんな態度をとるのだろうか、それも彼にだけ、と新たな疑問が浮かぶのだった。
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“二周目”スタートです。またここから始まります。
景時ルートで進めていきます。
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