朱に染まる京





















京の町は、朱に染まっていた。




平家が火を放ったのかはたまた別の原因か。考えている余裕はなかった。とにかく今は、仲間と合流する。逃げてきた老人に景時の京邸の辺りはまだ無事のようだと聞き、急ぎ向かう事になった。しかし。


「・・・ぁっ・・・」


は目の前に広がる火の海を目の当たりにし、動けなくなっていた。あれと同じ、だった。京の町は燃え盛り、消え去ってしまう。自分の夢を、信じればよかった。自分の力を、信じればよかった。九郎と共に鎌倉へ行かず京の町を守っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。防げたかもしれない。そんな事が頭の中をぐるぐる回って、他の事を考えられなくなっていた。


?」


様子がおかしい事に気づいた九郎が、の両肩をガッと掴んで真っ直ぐ目を見る。


「しっかりしろ!いますべきことはなんだ!?」

「・・・っ・・・!みんなと、合流、すること・・・!」

「そうだ、わかってるじゃないか。行くぞ!」


九郎にぽんと頭を叩かれ、は雫がこぼれそうなのを堪えながら、彼らが走る後に続いた。



















途中で平家の怨霊に襲われている源氏の兵や民を守りながら、五条大橋方面へ向かっていた。怨霊も数が多くなかなか進めずにいた時、ヒノエ、敦盛と合流する事が出来た。京邸にはまだ朔が残っているらしい。一行はさらに急いだ。



















五条大橋まで来た。景時の邸まであと少しだ。だが、一行の行く手を阻むものがいた。


「っ・・・!維盛殿」


敦盛が彼の名を呼ぶ。平維盛。確か、平清盛の孫だったか。


「軍奉行・梶原景時と武蔵坊弁慶の最期、お聞かせしましょうか?」

「黙れぇっ!!」


維盛の言葉に九郎がカッとなり、彼に斬りつける。だが維盛の姿は歪み、刃を通さなかった。


「維盛・・・あなたは、怨霊なんだね」


望美がキッと睨みつける。みな、武器を構えた。



















維盛はさすがに強かった。火の術を操り、襲いかかる。水属性である敦盛とを軸に、なんとか倒す事が出来た。しかし、封印は何故か弾かれてしまう。


「何がっ・・・!?」


同様の色を隠せずにいると、五条大橋の向こうから、人影が一つ向かってきた。十四、十五歳くらいの少年、に見える。だが維盛は、彼を「お祖父さま」と呼んだ。つまり、彼は。


「清盛殿・・・?」


平清盛。平家一門の棟梁だった男。彼は、死したはずだ。その彼がこうしている事の意味は。


(怨霊となって甦った、か・・・)


は苦々しげに顔を歪めた。さらに清盛の後ろからもう一人。銀の髪を持つ戦人・・・彼は清盛の息子、平知盛だ。知盛が、得物である二刀を抜く。そして、望美に斬りかかった。それを九郎がかばうと、知盛は嬉しそうに笑った。


「いいぜ・・・宴は、人数が多い方が盛り上がる。平知盛・・・不肖ながら、お相手いたそうか・・・」


不敵に笑う知盛に、悪寒が奔った。



















知盛の強さは、維盛のそれとはまるで比べ物にならなかった。望美が傷付けられ、崩れる。清盛らは、背を向けて歩いて行く。


「清盛殿!!」

「・・・よ・・・そなたも、源氏などではなく我らにつけば、このようなことにはならなかったものを」


振り返る事なく清盛は言い、そのまま去って行った。ここで呆然としていても仕方がない。立ち上がり、景時の邸へと急いだ。



















京邸の辺りはまだ火が回っていないようだった。一安心するが、の顔は苦に歪んでいた。


(ここも、燃えていた。時間の問題のはず)


屋敷に中に入ると、朔は、いた。しかし景時と弁慶は戻っていない様だ。そして、最悪の事態が。


「焼ける・・・臭い・・・」


屋敷に火をかけられたのだ。火の勢いはどんどん増し、目の前が赤に染まる。


「出るぞ、このままでは焼け落ちるだけだ!」


九郎の言葉に頷き、脱出を急いだ。しかし火の手が回るのが早く、あちこちが通れなくなっている。不意に、ギギ、と音がした。


「え・・・」


音のした方を見れば、屋根が崩れようと、望美の方へ。


「神子!」

「望美!」


白龍が望美に手を伸ばす。ガラガラと崩れ、望美と白龍の姿は見えなくなった。


「望美!白龍!」

!」


九郎が駆けて来る。


「何をしている!はやくしろ!」

「でも望美と白龍が!」

「何っ・・・!?」


九郎は矢野崩れ落ちた方を見た。この先に、二人がいるというのか。


「・・・・・ッ!」


九郎は顔を歪めた。そして、の手を掴む。


「白龍が一緒なら、きっとなんとかしてくれる」

「でもっ・・・!」

「あいつは龍神だ。きっと、大丈夫だ」

「・・・・・」


九郎に説得され、は抵抗するのを止めた。そのまま手を引かれ、今にも崩れ落ちそうな邸を走る。そしてなんとか屋敷の外に出て、愕然とした。


「な・・・に・・・これ・・・」


屋敷の門前には、複数の人が倒れている。それは親しみのあるものばかり。


「ヒノ、エ・・・?あ、つ・・・もり・・・?ゆず、る・・・?さ、く・・・?」


みな、ぴくりとも動かない。


「おやおや・・・また違うのが出て来たか。神子はもうくたばったのか?」


くつくつと笑う男を、睨みつける。


「平知盛・・・貴様が・・・!!」

「安心しろよ・・・お前らも、すぐに追わせてやるから」


知盛が手を上げると、後ろに控えていた弓兵が構えた。


「・・・ッ!!」


三方には弓兵、背後は火の海。逃げ場は、無い。


「く、そぉぉぉ!!!」


九郎が叫びを上げると同時に、矢が放たれた。そして、の身体に衝撃が。


(え・・・?)


ゆっくりと景色が流れる。否、流れているのは自分の身体だ。目の前の九郎に無数の矢が刺さり彼の身体が崩れ落ちて、やっとは理解した。九郎がを突き飛ばし、かばったのだと。


「ぅ・・・ぁ・・・」


なぜこんなことになってしまったのだろう。自分が自分の夢を信じ、平家の火攻めを防いでいれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。自分が、自分が変えなかったから。自分のせいで、皆。


「・・・ああああああああああああああああああああ!!!!!」


が二刀を解き放ち、知盛に真っ直ぐ突っ込んだ。


「・・・哀れな女だ」


その言葉を最後に、の意識も彼方へ消えた。





























目を開けると、頭が重かった。なぜ重いのかはよくわからない。酷い夢を、見ていたような気がする。


(・・・夢?)


ふと考えると、ズキリと頭が痛む。だめだ、頭を冷まそう。水を飲み頭を落ち着かせると、望美が駆けて来た。その表情は、なんだか普通とは違っていた。秋になると戦が起きる、と彼女は言った。景時は嫌な夢でも見たんじゃないかと言い、流されてしまう。だが、リズヴァーンとは、引っ掛かりを感じていた。


(夢・・・夢?本当に、そうなの・・・?)


はどうにも、頭がぐるぐるしてしまって、わからなくなっていた。



















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一周目のどうあがいても絶望END終了。(by.SI○EN)
次から景時ルートで進みます。一応←

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