出逢いと再会
鈴の音に呼ばれて春日望美が異世界に来て、またその京のまちに来て、約二月がたった。春の陽気に誘われて、望美は一人、今日のまちに出掛けた。自分がいた世界の過去とよく似た世界。大分慣れてきたから、油断していたのかもしれない。
「・・・・・」
望美は険しい表情で立ち止まっていた。
「なぁ、いいじゃねぇかよお嬢ちゃん。ちょっと付き合ってくれよー」
「ちょっとでいいんだって。ちょーっとお酌してくれりゃあさぁ」
どうしてこんなことになってしまったのだろう。目の前には二人の男。どちらも酔っぱらっており、酒臭い。昼間から酒を飲んでいるこの二人の酔っ払いに、望美は運悪く絡まれてしまったのだった。
「急いでるので」
「そう言わずにさぁ」
「なーあー?」
振り払おうと思えばできるかもしれないが、相手は武器も所持していないただの町人。手荒なことはしたくない。どうしたものか、と考えていた時、どこからか足音が聞こえてきた。
「それくらいにしておいたら?」
凛と響く声に、三人がそちらを向く。そこには、望美より年上と思われる女性が立っていた。まちの女人の様な着物は着ていない。着物は着物でも、動きやすさと防備を重視したものだ。そして腰には、刀が二本。その女性が、腕を組んで男二人を目を細めてみている。
「なんだぁ?」
「嫌がってるんだから、離してあげればと言っているの」
「なら姉ちゃんが相手してくれんのかぁ?なぁ?」
男たちは望美から離れ、彼女に近づいていく。
「断る」
「・・・んだと?」
男が眉をひそめる。彼女は変わらずピンと背筋を伸ばしてそこに立っている。
「私も、その子も、あんたたちに付き合う道理はない」
「てめぇ・・・なめやがって!!」
片方の男が右手を拳にして振り上げる。まずい、と思った望美が一歩踏み出すが、足はそこで止まった。パシッとキレのいい音が鳴る。
「力が釣り合っていない喧嘩っ早さは、命を削るだけだよ、っと」
「ぬあっ!?」
男の妙な声が上がる。ぐるりと視界が反転し、背中の痛みのあとに目に映ったのは、青い空だった。しばらくぽかんとしていたが、やがて、腕をひねり上げこかされたのだと気づく。
「な、なんだこの女・・・!?」
無事の方の男が一歩後ずさる。倒された方も、身体を起こして彼女から身を引き気味である。
「は、ははっ・・・すっかり酔いがさめちまったなぁ」
「だ、だな!帰るか!」
乾いた笑いを漏らしながら、男たちが肩を組んで二人に背を向けて歩いて行く。その後ろ姿を、ただ見送っていた。
「・・・えーと・・・」
何とも言えぬ空気が流れる。望美がちら、と彼女を見ると、彼女は「ん?」と首を傾げた。
「怪我は、無い?」
「えっ、あ、はい!大丈夫です!ありがとうございました!」
ピシッと背筋を伸ばして答えると、彼女は満足そうに頷いた。
「それは良かった。それじゃ、私はこれで・・・」
と、彼女は身を翻して去ろうとした。だが、それをする前に、彼女の動きは止まった。
「おや、望美さん、こんなところでどうしたのですか?」
それは望美にはもう慣れてしまった声で、望美は彼女の後ろから来た彼に笑いかけた。
「弁慶さん!」
名を呼ぶと、大きく反応したのは呼ばれた本人ではなかった。目の前の女性の肩がビクリと跳ね、何やら冷や汗も見える。
「?」
何故だかわからず首を傾げていると、弁慶が近づいてきた。
「それにしても・・・意外な人物と一緒にいますねぇ、望美さん」
「え?」
望美はさらに首を傾げる。弁慶はふふっと含み笑いを見せた。
「ねぇ?」
「・・・・・
兄様 ・・・・・」
ギギギと擬音が出そうな様で、彼女は振り向いた。
「あに、さま?・・・弁慶さんの妹さん!?」
望美は仰天し、弁慶とと呼ばれた彼女を見比べた。
「えぇ、そうです。といいます。ところで、なぜお二人が一緒に?」
「あっ、そうだった。酔っ払いにからまれた所を助けてもらったんです」
「そうだったんですか・・・。お手柄でしたね、。なんせ神子をお助けしたのですから」
「・・・神子?」
が望美をまじまじと見る。望美にはそれがなんだかむずがゆかった。
「えぇ、白龍の神子、春日望美さんです」
「白龍の、神子・・・あの、伝説の・・・?」
「はい。御伽噺などではなく、本当にあった事でした」
「・・・もしかして、
兄様 の左手の甲についている石が、八葉の宝玉というものなのですか?」
の言葉を聞いて、望美と弁慶は少なからず驚いた。
「これが見えるんですか?」
「え?えぇ・・・普通は見えないものなの?」
「そうらしいです」
望美と弁慶に言われ、は改めて弁慶の宝玉をまじまじと見た。
「なぜにもみえるのでしょうかねぇ」
「八葉、とか?」
「いや、私には宝玉がないから、おそらく違うでしょう」
「じゃあ何かほかの関係・・・?」
うーん、と首をひねるが答えは出てこない。
「ここで唸っていても仕方がありませんし、今日はもう用事が無ければ戻りませんか?」
「そうですね、そうしましょうか」
「では、私はこれで・・・」
今度こそ去ろうとしただったが、それは兄の手によって阻まれる。弁慶はの手を掴んで逃さない。
「・・・
兄様 ?」
「もちろん、も来るんですよ?」
「・・・は!?」
突然言われたことにが声を上げる。
「そうですね!お礼もしたいですし・・・って、私の家じゃないけど」
望美がてへへと笑う。その間も、弁慶からは逃れられていない。
「会いたく、ないんですか?」
「う・・・そんなことは、あ、る・・・り、ません・・・」
「正直でいいですね。さぁ、行きましょう」
ようやく弁慶はの手を離し、歩いて行く。その後に、がしぶしぶ続いた。望美は、誰に、とはきけなかった。
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