良き友人に巡り逢い
仕事を終え、は内裏を出ようと門に向かっていた。そこでふと門付近に父の姿を見つけ、は歩み寄ろうとした。だが友雅の隣に見知らぬ人物の姿がある事に気づき、足を止める。仕事の大事な話をしていたら悪いと思い、は遠巻きに通り過ぎようとした。
「おや、素通りとはさみしいね」
「・・・・・いえ、大事な話をされていたら悪いと思いまして」
呆気なく見つかってしまい、手招きに負けて彼らの方へ進行方向を変える。友雅の隣にいたのは、友雅よりもに近い年齢の青年だった。彼を見たは、眼鏡っていつの時代からあるんだろうとずれた感想を頭の端でよぎらせる。
「彼は藤原鷹通。治部少丞だよ」
「初めまして、殿。お話は友雅殿から伺っております」
「初めまして。・・・お話、ですか」
一体どんな内容だ、と友雅をちらと見るが、彼はただ笑みを浮かべるばかりである。
「よくできた子だとおっしゃられていますよ。養子ではあるが、本当の子の様に可愛がっておられると」
鷹通の言葉には目を丸くして瞬かせた。
「・・・鷹通」
「嘘は言っていませんよ。要約して告げたまでです」
「・・・」
どうやら本当らしい。珍しく友雅が観念したように額をおさえて息をついた。おそるべし、藤原鷹通。
「良いではありませんか。ご自慢の姫君でしょう?」
「!?」
「おや・・・」
なぜ、ばれた。鷹通殿、と声を上げそうになった所を、友雅に手で口をふさがれる。
「鷹通、これからの予定は?」
「?とくにありませんが・・・」
「では少し付き合いたまえ」
言うと友雅は歩き出す。そのあとにが続き、鷹通も首を傾げながら追った。
ひと気のない所まで来ると友雅は足を止めた。鷹通に向き直って、問う。
「さて鷹通、先程君は何と言ったかな?」
「先程・・・?ご自慢の姫君、ですか?」
「そう、それだ」
鷹通が一層首を傾げる。間違ったことは言っていないはずだが。
「纏った衣こそ男物ですが、殿は女人でしょう?」
「うーん、なかなか意外な才があるようだねぇ、鷹通」
「・・・?どういうことなのですか?はっきりおっしゃってください」
痺れを切らして鷹通が友雅に問い詰める。友雅は小さく笑って話し始めた。
「は男を装って陰陽寮に出仕しているのだよ。今までばれたことが無かったのに鷹通があっさり見抜いてしまったから、私もも驚いてしまったというわけだ」
「そう、なのですか・・・。確かに、女人の陰陽師はなかなかいるものではありませんが・・・」
「たっての願いがからね、私も協力しているんだ。変な虫防止にもなるしね。鷹通もそういったのは好まなかっただろう?」
「・・・はい」
鷹通が眉をしかめる。出世に女を使う貴族にとって普通のやり方は、鷹通には嫌悪の対象のようだ。
「だから君も協力してくれたまえ」
「そういうことでしたら。しかしそれは友雅殿の思いでしょう?殿はなぜ、男を装う事を選ばれたのですか?」
「第一は、なめられたくなかったからです」
「え?」
にこりと笑って言うに鷹通が軽く目を瞠った。だがすぐにの表情は真剣なものになる。
「女だから、という理由で下に見られるのは嫌なんです。向こうの態度だけなら何とでも流してやりますが、それで仕事がいただけないなどは、納得がいかないので」
「・・・殿は、お強いのですね」
今度はが目を瞬かせる番だった。思いもよらない言葉にたじろぐ。
「自分の意志をしっかり持って、それを貫く勇気をお持ちなのですね。素晴らしい事だと思います」
「あ、ありがとうございます・・・」
照れてが顔を俯かせると、ふふ、と笑う声が聞こえた。と鷹通が同時に友雅を見る。
「なかなか似合いの二人、かな?」
「なっ、友雅殿!」
「父上!」
「ははは、すまないすまない」
二人をからかい、友雅は声を立てて笑った。
「だが、良い友人になれそうで安心したよ。は突然現れて私の養子となり、晴明殿の後ろ盾もある。良い様に見ない者も少なからずいるからね」
「父上・・・」
普段こそからかったりいい加減だったりする友雅だが、こういうちょっとしたところで大切にされていることを感じ取り、は心から友雅に感謝した。
「では、改めてよろしくお願いします、殿」
「はい、鷹通殿!」
喜ばしい出会いに、は満面の笑みで頷いた。
―――――
鷹通さんいつから治部少丞やってんだろ・・・
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