稀代の陰陽師
大内裏訪問から数日後、友雅は宣言通り前もってに告げ、安倍晴明の暮らす屋敷へと共に出向いた。どこか不思議な雰囲気の屋敷だ、と門を見つめては思った。
「なにか感じているようだね」
そいの意図を読み取ったのか、友雅が言う。は頷き、先ほど感じたことを口にした。
「ふむ、私にはそういったのはとくに感じないが・・・陰陽師だからわかることなのだろうね」
言って友雅は門に近づこうとした。その時が何かを感じ取り、友雅の衣を掴んで引き止める。
「どうしたんだい?」
「・・・なにかきます」
が一点に目を向けて目を細める。友雅もそちらを見た。すると、霧の塊のようなものが現れて、やがてそれが人の形になる。
「なるほど、時空は違えど陰陽師、というところですか」
時空という言葉に眉をひそめただが、友雅に「晴明殿には文でご説明してある」と言われ、ひとまず顔を戻す。
「私は晴明様の式神でございます。晴明様より出迎えを命じられ、お迎えに上がりました」
一礼する人の形をしたそれは確かに力の強い者の式神のようで、は警戒を解いた。祖父でもこれほどの力は無い。さすが伝説の陰陽師、安倍晴明。
「どうぞ、中へ。決して私とはぐれませぬよう。はぐれてしまうと、この結界の中から出られなくなってしまいますので」
侵入者用のまじないがかけられているという。友雅はごく自然にの手をとった。は驚いたが、式神が歩いて行くので友雅の歩に合わせ、自分も足を動かした。
敷地内は、外観のそれの何倍もあるような感覚があった。山の中にいるような道を歩いて行く。
「これもまじないかい?」
「はい。道を複雑にし、招かれざる客は迷うようにしてあります」
「ではこの道の色もかね?」
友雅が地面を示して言う。式神はそれにも是と答えた。
「各々によって見える色は異なります。魂の色だ、と晴明様は言っておられました」
「ほう・・・では私の魂はこの、白緑色をしているということか」
友雅が面白そうに笑った。も改めて自分が進み行く道を見てみる。
「の道は何色だい?」
「紺碧色・・・だと思います」
正直色の種類まではそれほど知識が深くない。自信なさそうに言うと、友雅は「そうか、紺碧色か。にぴったりな色だね」と笑った。
しばらく歩いていると、庵が見えてきた。
「あちらに晴明様がおられます。では、私はこれにて」
言って一礼すると式神は神に戻り、庵の中へ飛んで行った。その跡を二人が進んで行く。やがて、一人の人がいる事に気づいた。
「よくぞ参った。橘の少将殿とその姫君殿」
姫君殿、という呼ばれ方が慣れなくくすぐったくて、は小さく身をよじった。
「突然の申し出に応じてくださりありがとうございます、晴明殿」
友雅が彼の名を呼ぶと、思わずどきりとなる。そうだ、彼は陰陽師の憧れ、安倍晴明なのだ。
「姫君殿、名はなんと言ったかな」
「は、はい!といいます!」
「ははっ、そう緊張なさいますな」
晴明が笑うのに、は恥ずかしくて身を縮こめる。
「ふふっ、は、憧れの晴明殿にお会いできてうれしいのだよね」
「はい・・・!」
「それは嬉しい事を言ってくれる」
目を細めて笑う晴明は、どこか祖父を思い出させた。厳しい所もある祖父は、穏やかに笑うとこのような顔になったな、と。
「事情は文を読んで把握している。私に教えられることなら教えて差し上げよう」
「ありがとうございます」
晴明に一礼すると、その頭に手が乗せられた。
「辛いこともあろうが、進みなさい、前へ。己の信ずる道を進みなさい」
「・・・はい」
頭からその手が離れると、も頭を上げた。それから使える術、札などの話や時々習いに通う話をし、晴明邸をあとにした。
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