それから三日ほど、は屋敷の中を程よく歩いてみたり、庭で稽古をしたりしていた。友雅の手が空いている時は読み書きを教えてもらう事もあった。この時代は“達筆”で、また漢文に近いものがあるので厄介なのである。今日も稽古に勤しんでいると、その場を友雅が見に訪れた。


「精が出るねぇ、

「友雅殿」

「おや?」

「・・・ち・・・父上・・・」

「よくできました」


にやにやと笑って友雅がの頭を撫でる。面白がっている。絶対、面白がっている。がむくれていると、不意の頭の手が止まった。首を傾げて顔を上げると、苦笑をうかべた表情の友雅。


「どうされました?」

「・・・いや、は私を“父”と呼ぶことに抵抗があるでのは、と思ってね」

「え?」


驚いて目を丸くする。何故そう思ったのだろう。なかなか父上と呼ばないからだろうか。不安そうに友雅を見ると、安心させるように頭の上の手が動く。


は向こうに家族がいるのだろう?それなのに私を父と呼ぶのは、と思っているのではないか、とね・・・」

「あ・・・いえ、そんなことは・・・。その・・・・・両親は、私が幼い時に他界しましたので・・・」


今度は友雅が驚く番だった。軽く目を瞠り、の続きを待つ。


「私はお祖父様に育てられたんです。陰陽術と剣術を教えてくださったのもお祖父様で・・・。だから私は、誰かを“父”と呼ぶことに慣れていないもので・・・えっ」


不意に目の前が白に埋め尽くされ、身体を暖かいものが包み込んだ。友雅に抱きしめられたのだと、数秒たってから気づく。


「・・・すまないね、辛いことを思い出させて」

「あ・・・いえ・・・両親が死んだ時の事を、私は覚えていないので・・・大丈夫、です」

「・・・そうか」


身体が離れる。友雅はまだ苦笑気味だったが、そこにせつなさは無かった。


「では、が父と呼んでくれるのを気長に待つとしようかね。呼んでくれる前に嫁にいかないと良いが」

「そっ・・・!」


んなこと、と声が出なかった。まだ自分は17で、と思ったが、こちらではとっくに結婚していてもいい年齢だい、向こうでももう結婚を許される年齢だ。友雅が面白そうに笑う姿をうらめしそうに見、はため息をひとつついた。


「そうだ、ききたいことがあったのを忘れるところだったよ」


が可愛いから、と続ける友雅に、からかわないでください、と目を細める。


はもしや、安倍晴明殿の末裔ではないかね?」

「え、は、はい、そうです」


思いもよらぬことを聞かれ、どもりながら答える。


「やはりそうか。氏が安倍で陰陽師というから、もしやと思ったんだが」

「も・・・もしかして、この時代には安倍晴明様が・・・?」


こくりと頷く友雅を見て、思わずテンションが上がる。パラレルワールドかもしれないから直接の先祖ではない可能性もあるが、それでも“安倍晴明”は伝説の人物である。そんな人物と同じ世界にいると考えただけで、気が高ぶってしまった。顔に出さないようにするのに必死だ。


「またしばらくしたら、お会いしてみるかい?陰陽師として仕事をするにあたっても、晴明殿と通じていれば損どころか得だろう」

「はっ・・・はい!」


いわゆるコネになってしまうが、色んな意味で不利な分、ありがたい。あまりに気が高ぶっていて、友雅の「新しくと同じくらいの歳のお弟子さんが入ったようだしね」という言葉は、意識半分に耳を通って行った。



















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友雅夢ではありません(笑)

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