北山の大天狗






















天真の妹、蘭は現在安倍家に保護されている。鬼にかけられた術の影響もあり、気の乱れが生じているのだ。綺麗に落ち着くまではそちらで過ごすことになるだろう。先の一件でイノリの額にも宝玉が現れ、イノリも八葉の一人であることが発覚した。なるほど神力が高いわけだとも大いに納得したのあった。そして現在藤姫、友雅、鷹通、泰明は今後について話し合っていた。残る八葉は二人。はやくこの二人を見つけなければ。


「あかね?遅い朝餉だね」

さん」

「なんじゃこいつ、は・・・」

「・・・・・天狗・・・?」


はその話には加わらず、あかねの元を訪れていたのだが、その場に小さな異形の姿があり、無意識に札を取り出す。するとその小さな生物はびくっと身体を震わせた。


「陰陽師!!?」

「あっ、あの、さん、この子、北山の大天狗、らしんですけど・・・」

「そういえば泰明殿が以前、北山の大天狗を懲らしめる任が入ったと・・・これがその、大天狗・・・?」

「これとはなんじゃいこれとはぁ!?」


小さな姿でぴーぴーわめくそれは、まるでにわとりになりきらないひよこのよう。


「これだけ力が封じられていればそうそう悪さもできないだろうけど・・・ここにいて大丈夫?泰明殿もこちらにいらしているけど」

「その泰明に封印を解けと言ったのじゃ・・・じゃがあやつ、何も言わずに去っていきおった!」

「そういえば今、泰明さんとすれ違ったなぁ」


加わってきたのは詩紋だった。その後ろには頼久と天真の姿がある。


「泰明殿ならば先程そちらの門より・・・さして問題もないので戻る≠ニ帰られましたが」

「問題ない!?」


らしいと言えばらしい。天狗は小さな身体をわなわなと震わせ、そして。


「あやつ儂を無視しおったあっっ!!!」


と、こどものようにあかねに泣きついたのであった。



















泣き止んだ天狗はまだすねているようでぐずぐずいっていた。


「鼻が低いじゃん、半人前じゃねーの?」

「だからこんなに小さいのかな。可愛いね」


あかねに擦り寄る天狗を指紋がじっと見つめる。そう力は出せないだろうが、はいつでも抑えられるように密かに札を用意していた。


「あかねはよい香りがするのー」

「そお?」


あかねに擦り寄る姿は本当にこどものようで、警戒心もなにもない。


「ガキってのはいいよな・・・っ」

「天真、本音こぼれてる」

「るせ」

「北山の天狗といえば齢数百は経た大妖のはずだが・・・」

「・・・・・」


頼久の言葉に一瞬場が凍る。そして天真の手ががしっと天狗の頭を捉えた。


「エロじじいかよ」

「天真くんっ」

「無礼者がっ!」


ビュッと天狗が天真の手からすり抜けて飛び立った。部屋中を飛びまわり、あちこちを引っ掻き回す。天真も頼久も掴みかかろうとするが、小さくて素早いので苦戦していた。その中でコーンといい音を立てての後頭部に天狗がぶつかって飛んでいく。は口元を引きつらせ、札を眼前に掲げた。


「少しの力も残さず封じてあげようか・・・?」

「わー!さんも待って待って!!」


あかねに必死に抑え込まれていると、角からイノリの声がきこえてきた。天狗もそちらの方へ向かっており、一人と一匹が見事に正面衝突した。


「イノリ!」

「どうしよう、気絶しちゃってるよ〜〜〜!」

「どんだけ石頭なんだあのチビ・・・」


当の一匹はしばらく唸ったあと、またキッと顔を上げて飛び立った。なんとも頑丈である。だがその先にいたのは藤姫で、やばい、とは駆け出そうとした。


「藤姫っ」


そこへ藤姫の眼前にパチンと扇子が持ち出される。そのまま天狗を掬い上げ、くるくるともてあそんで床へ転がした。


「捕まえたっ!」


友雅の足元に転がった天狗を今度こそあかねが捕獲する。目を回した天狗はいとも簡単に捕まったのだった。


「・・・それは一体なんだね?」


そして何事かわからないまま天狗を戦闘不能におとしいれた友雅も、話に加わることになったのだった。
天狗は一宿一飯の恩だからあかねの願いを叶える、と言い出した。朝餉をわけてもらったのだという。そんなこと気にしなくていいのにとあかねは笑うが、天狗は嫌じゃと言ってきかない。魔性、妖である天狗をこうも懐かせてしまうとは、これも龍神の神子たる力なのだろうか。いや、きっとあかねだからなのだろう。は呆れの息をつきながら、札を懐にしまった。


「おや、いいのかい?」

「元々泰明殿の封印で力はほぼ無い状態なのです。今みたいに暴れられたら面倒ですが、術の類で悪さをすることはできないでしょう」

「なるほど」


天狗はどうやらあかねの文配達員に任命されたようだ。友雅の提案でさっそく鷹通へ文を送ることになった。文を書く間天狗はまだかまだかとあかねをせっついていたが、あかねも天狗も楽しそうに見えた。


「・・・妖と、こうして歩み寄ることもできるというのに」

?」

「いえ、ただの独り言です」


人間だ、鬼だと迫害し合うこの時代。どうしてこんな時代が始まってしまったのか。自分たちの知る世界≠熹註lだ黒人だと、自分とは違うものを認められないこともまだあるから、仕方がないのだろうか。自らの手で多くの妖を祓ってきた己が思う資格などないかもしれないなと、は自負の笑みを、小さくこぼした。





















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