友も八つの葉
「殿」
呼ばれて振り向けば、そこには鷹通がいた。
「おはようございます」
「鷹通殿。おはようございま、す・・・?」
最後に疑問が残ってしまったのは、鷹通の様子がいつもと違ったからである。正しくは、鷹通を取り巻く気、宿る気が。ツ、と彼の右首筋に目をやると、そこには“彼ら”と同じような気配が。その視線に気づいて、鷹通が「あぁ」ともらした。
「これは先日、龍神の神子殿にお会いした後に現れたのです。なんでも、八葉というものに選ばれたようで」
やはり、とは納得した。まさか鷹通がとは思わなかったが、鷹通なら安心だと思った。
「殿には見えているのですか?これはどうやら八葉や神子殿、藤姫以外には見えていない様なのですが・・・」
「私にも形までは見えていません。“そこ”に“気の塊”を感じているだけです」
「さすがですね・・・」
軽く目を瞠って鷹通は言った。これくらいが取り柄ですから、と笑うと、とんでもないといわれるのだった。
「そうだ、これから土御門殿に行こうと思うのですが、ご一緒にいかがですか?」
「そうですね、ぜひご一緒させてください。・・・鷹通殿に、お話ししておきたい事もありますし」
「?」
鷹通は何事だろうかと首を傾げた。あとできけるのなら今でなくともいいかとその場ではきかずに、二人はそろって内裏を出た。
鷹通との二人であかねの元にいくと、彼女は驚いたように目を丸くした。「元々彼とは友人なのですよ」というと、「世間って狭いんですね」と返される。その言い方に笑みを浮かべつつ、は縁側に腰を下ろした。
「あっ、そうださん、ききましたよ!天真くんとは敬語無しにしてるって!私もそれがいいです!」
はいっと手を挙げて主張する姿は女子校生のそれで。は「うーん」と一度唸ったが、わかりましたと折れた。
「あかね、でいいんだね?」
「はい!」
嬉しそうに返事をするあかねにも微笑む。と、鷹通が小さく笑い声を上げて、女性陣が鷹通を見た。
「あ、いえ、失礼しました。微笑ましいなと思いまして。まるで姉妹のようで」
「さんがお姉さんかー。私きょうだいいないから嬉しいな」
「私も一人っ子ですからね。あちらでも身内はお祖父様だけだったし、弟分とかができたのもこちらに来てからです」
「こちら・・・?そういえば殿は、友雅殿の養子となられる前は、どちらに?」
きかれて、いいタイミングだと自分でも思った。は苦笑しながら鷹通に言いかける。
「今までなんとなく話せずにいたことを、今からお話しします」
その微妙な変化を読み取った友人は、いつものような真面目な顔でうなずいた。
話終えた時、鷹通は呆気にとられているような様子だった。あかねや天真、詩紋の話を先に聞いているから“ありえない”とは思わなかったものの、まさかまでもがとは思わなかったのだ。
「お話しできず申し訳ありません。鷹通殿に出会った時には、すでにだいぶこちらに慣れていたものですから・・・」
「・・・いえ、驚きはしましたが、逆に納得した面もあります」
え?とが首を傾げる。
「殿の考え方は、時に方向性が全く違うと思っていました。言動や仕草なども、京では見ないものが時々見えていたので」
これにはは驚いた。自分でも無意識のうちに何かしていたのだろう。それを敏感に感じ取り、違和感を覚えていたとは。
「鷹通殿はすごいですね・・・」
「いえ、そのようなことは・・・」
「謙遜なさらないでください。私の事を“見破った”のも鷹通殿が初めてでしたし、そのようなことを言われたのも鷹通殿が初めてなのですから」
「・・・ありがとうございます」
言って互いに微笑み合う。そこに、じーっと二人を見つめる視線を感じて、はあかねの方を向いた。
「・・・どうしたのかな?そんなに見て」
「仲良いなぁって。お似合いですよね、二人って」
「「・・・・・」」
あかねの言葉に、思わず互いを見てしまう。そして揃って「うーん」と思案したあと、が「とりあえずないかな」と言った。
「鷹通殿は“友人”だよ。私が男装しているということを差し引いても、恋人にはあてはまらないかな」
「そうですね・・・殿に対しては、恋心と言うよりは友愛ですね」
友愛、ということばにが軽く目を瞠る。友ではあるのだが“愛”という文字があると思うとどうも照れくさくなってきて、は小さくはにかんだ。あかねはなぜだかジト目で「ふーん」とこぼしたが、それ以上はキリがないので続けないようにした。
「ところであかね、今八葉は5人になったんだっけ?」
「はい、頼久さん、天真くん、詩紋くん、泰明さん、鷹通さんで、5人です」
「あと三人、か。誰なんだろうねぇ」
「案外身近な人物かもしれませんね」
身近な人物、で父を一番に思い浮かべた。彼はあかねたちがこちらに来た時から関わっているが、八葉ではない。可能性はゼロではないだろうが、それにしては宝玉が現れない。
「心当たりは?」
「うーん、それがさっぱり。私が関わってる人って、あとは友雅さんくらいだと思うんだけど・・・」
「友雅殿には宝玉が現れていないのですよね?」
「そうなんですよね・・・」
どうやらあかねも同じことを思っていたらしい。うーん、と唸り声まであげてしまって、は慌てて謝った。
「ごめん、困らせるつもりじゃなかったんだよ。急ぎはしないといけないかもしれないけど、焦る事はないからね。時が来れば自ずと現れるでしょう」
「そう、ですね」
笑ってみせるあかねにほっとに一息つく。それから他愛もない話をし、と鷹通は土御門殿をあとにした。
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