赤き星
塔を訪れる
星巡りの者
赤き星に会わず
古と現
ふたつの天間星
―――――天間星、ふたつ―――――
「なら、今日は適当に出掛けとくわね」
塔を訪れた翌朝、これから星見の使者が来ると聞かされたはそう言った。
「いても構わないのですよ?」
「待っとくだけじゃ退屈だもの」
体験談である。以前星見の使者が来た時は、暇すぎて一日中本を読んでいたくらいだ。朝食を終えたは、転移で適当なところに飛んで行った。
ルックは星見の使者を出迎えるために、塔から少し離れた所に出て来ていた。暇そうに、また面倒そうに使者を待っている。やがて、数個の人影が近づいてきた。
「あなたはこの島の方ですか?」
「僕はレックナート様の一番弟子のルック。あんたたちが、星見の使者?」
「はい」
ルックは「ふーん」とその面子を見渡した。そしてふと何かに気づいて目を瞠り、すぐににやりと小さく笑う。
「塔はまだ先だよ。早く来てよね、暇だから」
「え」
ルックは言うなり紋章を発動させ、その場から姿を消した。
しばらくして使者の彼らが塔の入り口に着いた時には、ルックは暇そうに風をもて遊んでいた。
「やっと来た。レックナート様はこの塔の最上部だよ。早く上がって来てよね」
「えっ、あ、おい、またかよ!?」
ルックは再び彼らの前から姿を消した。一人が塔を見上げて呟く。
「コレの、最上部・・・?」
その高さ、天。
長い長い階段の先で、レックナートとルックは待っていた。星見の結果を受け取る者は呼ばれ、レックナートと共に星見の間に入る。
「・・・・・」
ルックは先ほど感じたモノの持ち主を見ていた。ごく普通の少年だ。もっとも、“コレ”に見た目での判断は意味を成さないが。他人に興味を持つことのあまりないルックだが、何か気紛れが働き、彼に近づいた。
「ねぇ、あんた」
ルックに呼ばれ、彼が振り向く。
「ちょっと来てくれる?」
「は?なんで・・・」
「いいからきなよ」
有無を言われる前にルックは奥へと歩いて行く。少年は戸惑ったが、仲間に一言告げて後を追った。
他の人に聞こえないであろう所まで来て、ルックは立ち止った。少年はルックから少し離れた所で立ち止まり、不満そうに彼を見ている。そんな少年に近づき、ルックは自分の右手で彼の右手を掴んで、少しだけ“力”を込めた。
「いッ・・・!?」
彼は痛みと驚きの両方を感じ、ルックの手を振り払った。
「やっぱりね。僕が知らないヤツだけど、持ってるんだ?」
「な・・・なんなんだよ、お前・・・!?」
「僕もあんたと“同じ”だよ。共鳴したのが何よりの証拠だろう?」
「まさか、お前も・・・?」
少年は困惑顔で右手をおさえたまま、じっとルックを見ている。そこへ、新たな“気配”が加わった。
「風が変な吹き方したから戻ってみれば・・・なんであんたがここにいるの?テッド」
「!?」
「おかえり、」
少年、もといテッドが驚きながら彼女の名を呼ぶ。も、グレッグミンスターで別れたばかりのテッドがこんなところにいるころに首を傾げていた。
「俺は、ティルが星見の使者に選ばれたから、その付き添いで・・・。こそ、なんで」
「レックナートがいるからよ。“その時”までお世話になろうと思って。あぁ、いい機会だから言っておこうかな」
はルックに向き直った。
「何をしてたかは大体想像つくけど、この子、昔の天間星。つまりあんたの先輩よ、ルック」
「へぇ・・・」
「反応薄いわねぇ・・・つまんないじゃない」
ルックが軽く目を細めたことくらいしか反応を出さなかったことに、が口をとがらせる。もっと驚いてほしかったらしい。
「ということは、今回はこいつがそうなのか?」
「うん。この子、ルックが天間星。真の風の紋章の継承者」
二人で話してたのもどうせ紋章の事でしょ?と付け足す。テッドはルックをじろじろと見、ルックは不快そうによそを向いている。だがふと、ルックが何かを感じて軽くため息をついた。
「レックナート様が戻って来いってさ。もう帰るみたいだよ」
「まじかよ!?早く戻ろうぜ!・・・っと、は?」
戻ろうと踏み出しかけたテッドが、を振り返る。
「あたしはいいよ。まだ“時”じゃないから」
「わかった。なら、みんなには言わないでおくな」
「よろしく」
に見送られ、二人はレックナートとティルたちがいるところに戻って行った。
「星見の使者がティルで、戦いが始まる前にレックナートと出会った・・・。これも、星の巡りの一つなのかしらね・・・」
ぽつりとこぼした言葉を聞いた者は、誰もいない。
運命の執行者と天魁星の出会い。
現天間星と元天間星の出会い。
これらもまた、星の導きか。