マクドール家
幾個かの星
赤き星の元に
―――――赤き星の元、幾個かの星―――――
ティルとテッドに連れられて、は城下町の中でも大きい部類に入る屋敷の前に来た。
「ここが、ティルの家?」
「でかいだろ。ティルはおぼっちゃまだからな!」
「
テッド、余計な事ごちゃごちゃぬかさなくていいからな」
「あ、あぁ・・・わるい・・・」
「さ、入って」
ティルの、テッドに対する言動が酷いというか黒いのは、友情あるからこそだろうと自分に言い聞かせ、は苦笑しながらうなづく。ティルにうながされて屋敷に入ると、鼻が良い匂いをとらえた。
「今日の晩御飯はシチューだな」
「やった!グレミオさんのシチューはとびきり美味いんだぜ!」
嬉しそうに両手でガッツポーズを作るテッドに目を向ける。本当に変わった。昔はこんな風に無邪気に笑うことなんて無かった。は嬉しさと同時に、自分ではこの笑顔を引き出す事が出来なかったことに、少しだけ、寂しさを感じていた。
「ただいまー」
ティルの声で物思いにふけていた所から現実に戻る。また、ティルの声に反応してか、控えめにだが走って来る足音が聞こえてきた。
「おかえりなさい。ぼっちゃん、テッドくん」
出迎えたのは金髪の優男。しかしその左頬にある傷は、彼がただの優男ではない事を物語っている。エプロンをしていることから見て料理をしていた・・・つまりこの男がグレミオなのだろう。そして、ふ、と感じる違和感、否、光。
「おや、ぼっちゃん。その子はどなたですか?」
「テッドの友達で、っていうんだ」
グレミオがを見、目が合った。同時にが目を瞠る。
天英星
彼の運命もまた、星の下のひとつ。
「父さんは?」
「お部屋にいらっしゃいますよ」
「わかった、ありがとう。、こっち」
「じゃあ俺、グレミオさんを手伝うよ」
はティルに連れられて彼の父親の部屋に向かい、テッドはグレミオと共に厨房に向かった。
コンコンとノックをして返事を待つ。許可の声をきいてテッドはドアを開けた。
「ティルか、どうした。ん?その子は・・・?」
ティルと同じ黒髪、威厳のある顔つき。この男性(ひと)がティルの父親、テオ・マクドールである。
「テッドの友達で、っていうんだ。旅をしてるんだってさ。泊めてあげてもいいかな?」
「テッドくんの?ふむ・・・」
テオがに顔を向ける。は応えるように軽く一礼した。
「・です」
「・・・・?もしや、天空の?」
テオの言葉に、はまずきょとんとした。まさかこんな所でその名を知る者に会うとは思っていなかったからである。次に、肯定の意味としてにこりと笑う。ティルは現状が理解できず首を傾げた。
「これは失礼した。私はテオ・マクドールという」
テオに名乗られ、は若干驚いたように目を瞬かせた。
「テオ・マクドールって、赤月帝国五将軍の、ですか?あぁそっか、ティルも“マクドール”って言ってたわね」
「ご存じだったか。これは光栄だ」
「貴殿の武勇は旅の途中でもよく耳にしております、テオ様」
そう言って薄く笑うと、テオは複雑そうに苦笑した。通り名を知っているということはの素性も知っているということだ。無理もない。
「・・・で、どうなんだよ?」
会話に入れずふてくされ気味のティルがやっと口を挟んだ。
「もちろんいいとも。グレミオにもちゃんと言っておくんだぞ」
「わかってるよ」
ティルはの手を引いてテオの部屋を出た。はティル気づかれない様に“内緒”のサインをテオに送るのを忘れずに。テオは頷き、二人の後ろ姿を微笑ましそうに見送った。
ティルのマクドール家の居候であるクレオとパーンを紹介されながら、は夕食の席についた。クレオとパーンも星の下にある者だった。しばらくしてテオが座り、残りの面々も席についた。
「今日はテッドくんの友人であるも一緒の夕食だ。、ぜひティルとも仲良くしてやってくれ」
「喜んで」
テオは先ほどのサインを汲み取って“普通”に接している。
「では、いただこう」
テオの一言により、夕食が始まった。
「ん!美味しい!」
グレミオのシチューを一口食べたが声を上げた。
「こんな美味しいシチュー、初めて食べたかも」
「そ、そんな大げさな・・・」
「ならグレミオのシチューは世界一ということだな」
テオにまで言われ、グレミオは照れとも嬉しさで真っ赤になっていた。
(というか今の誰もツッコまないのか・・・?)
テオの“世界一”という発言に焦ったテッドの思いをよそに、夕食は終わって行った。
あたたかな親子の元に降り立った星巡りの者。
赤き星の周りには幾個かの星。
しかし父は星に在らず。
星巡りは如何様に動くのか。
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