コムリンの拳を、は辛うじて避けた。リナリーが動くのが見えたから彼女も無事のはずだ、と姿を探す。リナリーは、大砲の先端に立っていた。
「アレンくんとの声が聞こえた・・・帰ってきてるの・・・?」
まだ朧気な声でリナリーが呟く。そしてリナリーはイノセンス“
「リナリー!!この中にアレンがいるんだ!!」
リーバーの声をきき、リナリーがコムリンに次々と攻撃を仕掛けていく。その黒い靴の素早さと威力に、はほっと胸をなで下ろした。やがてコムリン手術室の扉が破壊され、アレンとティムキャンピーがリーバーの手によって救出される。
「いいぞリナリー!ぶっ壊せー!!」
科学班一同の「ブッ壊せ」コールが沸き上がる。リナリーがとどめの一撃を与えようと構えた。
「待つんだリナリー!」
だがいつの間にかコムイがコムリンに移ってきていて、リナリーの前に立ちふさがる。
「コムリンは悪くない!悪いのはコーヒーだよ!!罪を憎んで人を憎まず、コーヒーを憎んでコムリンを憎まずだ、リナリー」
「兄さん・・・」
兄の訴えをきいてリナリーが静かに口を開く。
「ちょっと反省してきて」
そして、兄もろともコムリンを蹴り落とした。
騒動が落ち着き、現在修繕作業中。あのまま気絶したアレンはソファに寝かされ、リナリーが看病している。
「あいててて・・・」
「悪いな、。もう少し我慢してくれ」
「大丈夫大丈夫」
リーバーに軽く笑って彼を見送る。背中が痛むサエも、簡易ベッドでうつ伏せになっていた。科学班特製痛み止めを塗ってもらったから、じきに痛みは引くだろう。本格的な治療はコムイが復活してからになるが。
「それにしても、が背中に傷を負うなんて珍しいね」
アレンの様子を見ながらリナリーが言う。その頭の上ではティムキャンピーが大人しくしていて、なんだか癒される図だ。かくいうの頭の上にもリーブンが乗っかっていたりするが。
「あー・・・うん、ちょっと、コントロールが・・・」
最後はごにょごにょと消え入りそうな声で言う。
「・・・神田?」
「・・・うん」
リナリーにはお見通しでサエの顔に苦笑が浮かぶ。
「大丈夫だって頭のどっかでわかっていても、実際傷だらけで血ィ流してんの見たら、こう、カッとなって・・・」
「大切だもんね、神田が」
「・・・うん」
バレバレなリナリー相手に否定しても仕方がないので素直に頷く。
「ちょっと、妬けちゃうな」
「え?」 苦笑するリナリーには目をぱちくりさせて首を傾げる。
「と神田って本部に来る前から一緒で、すごく深い絆で結ばれてるから、入り込める隙間ないなぁって」
「・・・そう、かな?」
「うん。やっぱり二人とも他の人に接するのと雰囲気が違うよ」
そう、なのだろうか。ハタからはそう見えるのか。気づいている人はそういないかもしれないが、そうだといいなとサエは微笑んだ。
「そういう顔も、神田のこと考えてるときくらいしか見ないよ」
「えっ?」
そんな細かいところまでバレバレなのか。さすがに恥ずかしくての頬が少し赤くなる。リナリーは、ふふっと笑ってアレンに目を戻した。
「あ、利いてきたかな」
背中の痛みが引いてきて、はよいしょと身体を持ち上げる。
「あとはコムイさんの治療かー」
考えただけで乾いた笑いしか出てこないが、自業自得なのだから致し方がない。
「・・・ん・・・」
「あ」
小さくうめき声がきこえたかと思うと、隣で寝かされていたアレンががばっと身体を起こした。びっくりしたリナリーが「わっ」と小さく飛び上がる。
「アレン、大丈夫?」
「はい、なんとか・・・」
少々遠い目をしながらアレンは答える。トラウマになっていないといいが。
「おかえり、アレンくん」
「た、ただいま・・・」
リナリーのとびきりの笑顔にアレンの頬が赤く染まった。アレンが起きたと聞きつけたみんながアレンの周りに集まって口々に「おかえり」を言う。アレンは嬉しそうに「ただいま」と返した。
“ただいま”
その言葉だけで救われるのなら、何度でも言おう。帰ってくるその度に。
イノセンスを保護してもらうために、アレンとサエはヘブラスカの元を訪れた。
<おかえり、アレン・ウォーカー、>
「ただいま、ヘブラスカ」
「ただいま」
ヘブラスカの体内にイノセンスをおくる。イノセンス109個のうち、現在41個。まだ半分以下だ。まだまだ世界にはイノセンスが潜んでいる。