怒りの果てに
アレンが手を伸ばすがその手は空を掴み、二人はソレに引き寄せられていった。瞬時に先ほどのレベル2だと判断する。
「イノセンスもーらいっ!!!」
砂の中から現れたヤツの両手には抜き出されたイノセンスと、貫かれたままのグゾル、心臓を抜き取られて“人形”に戻ってしまったララ。そして二人は砂の上にドサリと無惨に落とされた。途端、空気が変わった。ピリピリと張りつめた空気が周囲に渦巻いていく。
「返せよ、そのイノセンス」:
アレンが怒りでとてつもない殺気を放っていた。そして彼自身にも異変が起きている。通常腕の形をしているソレは今、おかしな形になっていた。
「ウォーカー殿の対アクマ武器が・・・」
「造り変えるつもりだ」
「寄生型の私達は感情で武器を操るようなものだから・・・
宿主の怒りにイノセンスが反応してるんだ」
「それにしても・・・なんて禍々しい殺気を放つんだ、あいつ」
武器がその怒りを形にしているようだ。そしてアレンは、その禍々しい形のままアクマに突っ込んでいく。
「バカ!まだ武器の造形が出来てないのに・・・!」
「大丈夫」
アレンの左腕は空中で銃の形となっていた。レーザーがアクマに降り注ぐが、ヤツは砂に変化してそれらを回避する。何発撃っても当たることはなく、アレンは砂状になったままのアクマに捕らえられてしまった。アクマはそのまま自分の身体ごとアレンを攻撃する。
「ウォーカー殿!!」
トマが大声をあげるが、神田とは冷静なままだった。アレンの殺気は消えていない。やがてアレンがヤツの槍を掴み、飛び出てきた。そのまま槍を破壊すると、銃をビームソードのような型に変形させ、アクマの砂の皮膚をはがす。アクマが次の姿をうつしとる前に、アレンがレーザーを放った。
「グゾルは・・・ララを愛していたんだ。許さない!!」
だが直後、アレンの口から血がこぼれた。イノセンスの発動が解け、アレンが膝をつく。
「リバウンド・・・!」
進化したイノセンスに身体がついていかず、反動がアレンを襲った。その隙を逃すほどアクマも馬鹿ではなく、すぐさまアレンにきりつけた。が、それはアレンには届かなかった。
「神田!?」
「ちっ」
神田が六幻でそれを受け止めていた。じわりと左側の傷口から血が滲む。
(あんまり無茶しないでよ・・・!?)
冷や冷やしながら、はその間にグゾルとララを回収した。自分がアレン側に向かう方が神田に無理させずにすんだのだが、ほんの少し、彼の方が動くのがはやかったのである。まだ出会って数日だが最早お馴染みとなった口喧嘩が二人の間で繰り広げられる。こんな時だというのにとは思わず苦笑した。
「まったく・・・二人とも意地っ張りなんだから」
神田がアクマの腕を切り上げ、アレンがもう一度イノセンスを発動させる。
「「消し飛べ!!」」
二人の同時攻撃により、アクマは破壊された。
アクマを破壊した二人は、砂の上に伏せた。慌てて二人の状態を確認する。どちらもとりあえず呼吸は安定していて、は安堵の息をもらした。応急処置をし、運び出す準備をする。
「・・・・・」
は、イノセンスを片手にグゾルとララを見つめた。グゾルはかろうじて生きてはいるが、もう風前の灯火だ。
「・・・最期くらい」
アクマを倒した今、ひとまずは安心できるから。がイノセンスをララに戻すと、ララは再び動き出した。しかしそれはもう“ララ”ではなく、グゾルに出会う前の人形だった。人形は歌い始めた。グゾルへの、眠りの子守唄を。
「・・・・・ララ?」
小さく声が聞こえてそちらを見る。アレンが意識を取り戻したようだ。
「アレン、大丈夫?」
「・・・うん。ララに、イノセンスを戻したんですか?」
「最期くらいはと思って」
アレンが半身を起こして二人を見る。起きあがるだけの力も残ってはいないようだ。
「ありがとう・・・」
「え?」
「二人との約束を、叶えてくれて・・・」
ララを壊すのは、グゾルだと。
「・・・出ようか。私達もボロボロだし。ここはもう、ひとまず大丈夫だろうから・・・」
「・・・はい」
自力で動けないアレンと神田をトマとで運び、マテール近くの町へ向かった。アレンは披露や擦り傷切り傷などで済んだが、神田は全治5ヶ月、も全治1ヶ月と診断された。本部のコムイへ簡単に報告し、神田を
とりあえず病院へ押し込む。も入院を、と言われ、ひとまず病院に滞在することになった。傷を見てもらっているときに危うく背中のイノセンスを除去されそうになって焦ったのは、また別の話。
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